第061話 大人なアーヴィン
「暗部の人?」
ローレンスの姿が見えなくなると、アンジェラが聞いてくる。
「ああ。黒影団の戦闘員だ。俺とアーヴィンの同僚だな」
「会うのはあれ以来ってこと?」
「俺達はあの戦争の結末が不満だったんだ。それでその場で解散し、バラバラになった。俺はメアリーのことがあったし、アーヴィンのことが気になったからこの町に来たって感じで他の連中がどうなったのかを知らない」
ローレンスなんか最初に出ていったからマジでわからん。
「エリック達はあの停戦が不満だったわけね」
「多くの人間が死んだんだ。でも、それは勝利のための必要な犠牲と思っていたし、上からもそう言われた。その結果があれではな……まあ、昔の話だ。今は平和になって良かったって思うよ」
メアリーもアンジェラも……町の人も皆、平和を謳歌している。
これで良いんだろう。
「そっか。帰っちゃったけど、いいの? 積もる話もあるんじゃない?」
「数日は滞在するらしいし、今度、飲みに出て、話すことになった」
「良いんじゃない? いっぱい話すべきよ」
そうだな。
「よし、アーヴィンのところに行くか。その話もだが、大事な商品を納品しないといけない」
「そうね。行きましょう」
俺達はコンロのチェックをすると、空間魔法に収納し、店を出る。
そして、【外出中】の看板をかけると、軍の屯所に向かった。
軍の詰め所周りでは相変わらず、兵士が走ったりしており、訓練をしている。
「サムはいるかな?」
「サム? 何か用でもあるの?」
アンジェラってこういうのは本当にあっさりしているんだよな。
「いや、お前に絡んでくるかなと」
「ないんじゃない?」
うーん……まあいいか。
俺達はそのまま歩いていき、屯所に入る。
すると、アーヴィンがいたので受付に向かった。
「よう」
「こんにちは」
「おー、エリックにアンジェラちゃん」
おや? セクハラがないぞ?
「アーヴィン、ウチにローレンスが来たぞ。びっくりしたわ」
「俺もびっくりした。もっとも一番びっくりしたのはお前のことを聞いたローレンスだろうけどな」
あいつもそう言ってたな。
「そんなに意外か?」
「いや、メアリーちゃんはな……タイミング的にいつなんだって話だし」
アーヴィンにもアンジェラにもメアリーのことは詳しく話してない。
さすがに異国の貴族がらみは言えない。
「メアリーのことはほっとけ。ちょっとデリケートなんだ」
「そうかい。あ、驚いたと言ったらあいつに足が生えたって言ったら目が点になってたぜ」
ブラックジョークすぎるわ。
「何も言えねーよ」
「アーヴィンさん、さすがにそれはやめたら? ケリーさんがたまにまったく笑えない冗談を言うのをやめてほしいって言ってたよ」
ケリーさんはアーヴィンの奥さんだ。
「そうか? いや、変な話、俺は嫁さんの綺麗な足が好きで……あ、やめとく」
「うん。すんげー聞きたくない話に繋がるっしょ」
俺もそう思う。
「アーヴィン、ローレンスと飲みに行こうって話になったんだが、お前はいつ空いてる?」
「俺はいつでもいいぞ。夜勤もないし、今はそんなに忙しくないからな」
例の森の火事の件も落ち着いたっぽいな。
「じゃあ、明日でもいいか。今日はちょっと無理だ」
「何かあるのか?」
「色々あって、アンジェラと飲むんだ」
「んー? んー……色々?」
何だ、その顔?
「エリック、説明不足すぎ。アーヴィンさん、今日、メアリー達の仕事っぷりを見て、エリックはようやく合格点を出したのよ。それでメアリーがくれたワインを飲むらしい」
「へー……そりゃ良かったな。まあ、あの子は評判も良いし、問題ないって」
アーヴィンが肩に手を置いてきて、うんうんと頷く。
「そうかい。アーヴィン、持ち運び用コンロを持ってきたぞ」
「もうか? 早いな」
「水筒の方が落ち着いてな。予想より早くできたんだ。出していいか?」
「ああ。出してくれ。確認しよう」
アーヴィンが頷いたので俺とアンジェラは空間魔法からコンロを出し、カウンターに置いていくと、アーヴィンがそれを一つずつ、確認していく。
「なあ、アーヴィン、あいつはなんで来たんだ?」
「ローレンスか?」
「ああ。俺はともかく、お前がここにいるのは知っているだろ。10年も経ってから来るか?」
もう会うことはないのかなと思っていた。
「さあな。あいつの中で折り合いでもついたんじゃないか? 正直、俺だってあの結果は納得してない。何度も足を返せって思ったさ。それもまだマシな方でビルとローランはもう帰ってこない」
それは俺も思っている。
今でもたまに夢を見るし。
「お前さ、他の連中には会ったか?」
「いや、まったく。ただ、お前が来る前に隊長には会ったな」
隊長か……
俺達の金を渡しに来たんだろうな。
「何か言ってたか?」
「金を渡され、謝罪を受けた。それだけだな」
「あの人、何してんだろう?」
「知らん。軍を辞めたのは確かだな」
結局、あの人も辞めたのか。
「まあ、明日、聞いてみるか」
「そうしようぜ。もしかしたら他の連中のことも知っているかもしれん」
確かにな。
「正直さ、嬉しさ反面、今更かって思っている」
「気にするな。そういうこともある。深くは考えず、昔話にでも花を咲かそうじゃないか。あいつが訓練中に逃げ出したことを笑おうぜ」
「そうするか」
「うん……確かにコンロが50個だな。金を持ってくるからサインをくれ」
アーヴィンが書類を置き、奥に向かった。
書類にサインをすると、アーヴィンから金を受け取る。
「じゃあ、明日な」
「ああ。夕方くらいにお前の店に行く。ローレンスには俺から話しておこう」
「頼むわ」
アーヴィンと別れると、店に戻る。
そして、アンジェラと駄弁りながら仕事をしていった。
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