第005話 覗きパパ
「あー、恥ずかしい」
アンジェラがぷんぷんと怒っている。
「上手くいっただろ?」
「明らかにバレてるっしょ。少なくとも、ヴィオラは確信してたわよ」
ヴィオラは付き合いも長いからな。
ウチには馬がいるのだが、よく家から勝手に人参を持ち出して馬にあげ、母親に怒られていた。
ヴィオラは人参が嫌いだから。
「言い張ればいいんだ。冒険者カードも誤魔化せた」
「ふーん……元冒険者は嘘?」
「いつ冒険者になるんだよ」
戦争に行ってたっての。
このことは町の人には誰にも言ってないが、アンには言った。
それと当然、メアリーも知っている。
「それもそっか……まあいいわ。さっさと確認して、店に帰るわよ」
俺達は町の人に注目されながら歩いていき、東門を抜ける。
門を抜ける際に門番のウィニーにガン見されたが、声まではかけてこなかった。
「森か……どこだろう?」
門を抜けた先は平野に囲まれた街道が伸びており、その数百メートル先には森が広がっていた。
「初心者はまず森に入らずに街道で魔物を待つわね。実際、メアリー達にそういうアドバイスもしたし」
アンジェラは相談を受けていたようだ。
「となると、目立つところにいるわけか。南から回ろう」
「はいはい。ハァ……」
南の方に歩いていくと、アンジェラも嫌々ながらもついてくる。
「お前はメアリーが心配じゃないのか?」
妹分だろ。
「私が冒険者デビューした時はついてきてくれなかったなー、と……」
………………。
「お前はしっかりしてるし……それに嫌がるだろ」
「嫌がらないわね」
ついてきて欲しかったって聞こえる……
「今度、行く時についていこう」
「ふっ、その格好で?」
鼻で笑われたし。
「これはもう少し、細部を考える」
声とかも変えないと。
「細部じゃなくて、根本よ。私、王都にも行ったことがあるけど、あんなに人が多いあそこでもそんな格好の人を見なかったっての」
ヘルメット自体がないからな。
そのまま歩いていくと、森に入った。
道があるところではないのでアンジェラが通りやすいように空間魔法から取り出した鉈で伐採しながら進んでいく。
「魔法でやらないの?」
「魔法は必要な時に使うが、そうじゃないなら使わない。そもそも俺一人なら伐採すらいらん」
そう言うと、アンジェラが足元を見た。
「ふーん……エリックのそういう優しいところは好きよ」
アンがにやにやと笑う。
「好きじゃないのは?」
「その格好」
だろうな。
その後も伐採しながら進んでいく。
「あっつ……熱気が籠るな」
そういうのも考慮してヘルメットを改造しないとな。
フルフェイスで運動するもんじゃないわ。
今はまだそんなに暑い時期じゃないが、夏になったら死ぬぞ、これ。
「脱げばいいじゃん。もう誰も見てないし」
森の中なので俺達以外は誰もいない。
「そういう問題じゃない」
途中で変身を解くヒーローがどこいる?
「店長……実は気に入ってる?」
謎の男ってかっこよくない?
「フルフェイス・マスクマンだ」
「うん……」
「それよりもメアリー達を探してくれ」
「わかった」
アンジェラが頷くと、目がぼんやりと光り出す。
そして、周囲を見渡し始めた。
これは遠見の魔法であり、ある程度の遮蔽物も透かすことができる遠視の魔法だ。
「どうだ?」
「いた……しかも、ゴブリンと戦闘中」
何!?
「どれ……」
伐採をやめ、アンジェラが見ている方向を遠見の魔法を使って、見てみる。
すると、森に囲まれた街道でゴブリン2匹と対峙するショートソードを構えるメアリーとその後ろで槍を構えている銀髪の少女がいた。
銀髪の子は神父さんの子のカトリーナだ。
メアリーと同じくらいの体格で気の弱い子だが、槍を構える姿は様になっていた。
「2人はどう?」
「悪くない。ちゃんと構えている」
2人共、腰を据えているし、ビビっている様子はない。
「あ、動いた」
ゴブリンが動く前にメアリーが動いた。
剣を一閃させ、ゴブリンの首を刎ねたのだ。
それと同時にもう1匹のゴブリンがカトリーナに襲いかかったが、カトリーナは冷静に動きを見て、槍を突く。
ゴブリンは槍を躱せずに貫かれ、息絶えた。
2人の完勝と言っていいだろう。
「ふーん……」
「強いじゃん。私より強くね?」
アンジェラは魔法特化の魔法使いだからな。
剣も槍も使えないし、体術も微妙だ。
「ゴブリンでは相手にならないか」
2人は喜んでおり、ハイタッチをしている。
しかし……
「あ、コボルト……」
2人の後ろにはコボルトがおり、2人を狙っていた。
「ふう……」
1つ息を吐くと、ナイフを取り出し、魔力を込める。
そのままナイフを投げると、ナイフが木々を避けながらすさまじいスピードで飛んでいく。
そして、街道に出る前に上空に飛び上がり、喜んでいる2人を越えて、森の中にいるコボルトの脳天に突き刺さった。
当然、コボルトは即死し、倒れる。
「……何、今の? ありえない動きをしてなかった?」
ナイフを見ていたアンジェラが呆然とつぶやく。
「そういう魔法だ。ったく、油断しやがって」
やっぱり心配だ。
「いや、あの2人なら奇襲を受けても対処できたと思うけど……それよりもナイフがヤバいって。何あれ? さいつよじゃん」
「俺を誰だと思っている?」
かつての戦争の英雄として有名な黒影団の一人だぞ。
もっとも、死神と呼ばれているし、アルディア王国とヴォルガン帝国の両国から畏れられ、嫌われているがな。
そして何よりも戦争で勝利を得られなかった誇れない英雄だ。
「フルフェイス・パンツマン」
マスクマン!
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