第029話 異世界エジソン
森に入ると、アンジェラもさすがに杖を取り出した。
「さーて、奥さ……家のことと副店長として完璧なところだけじゃなく、冒険者としても優秀なアンジェラちゃんを見せてあげましょうか」
ぱちぱち。
「ゴブリンがいいか? スライムがいいか?」
左右の森を眺めながら聞く。
「ゴブリンかな?」
「じゃあ、あっちだな。少し、奥に行こう」
俺達はそのまま奥に進んでいくと、20メートルくらいで立ち止まる。
「ここ?」
「ああ。待ってりゃ来る」
あと30秒くらいだな。
「エリックって本当にすごいわよね」
「死神という二つ名がついたくらいの英雄なんだぞ。まあ、アーヴィンもだけど」
死神は個人ではなく、黒影団についた二つ名だ。
俺達は情報を徹底的に隠す暗部だから個人につかないのは仕方がない。
国の相当、上の人間じゃない限り、俺達のことは知らない。
「私も死神の黒影団はエリックから聞く前から知ってた。間違いなく、英雄だけど、あまり良い噂は聞かない組織ね。エリックもだけど、あの陽気なアーヴィンさんがそれっていうのが似合わなすぎだわ」
そう思ってくれればいい。
俺達だって真っ当な英雄になりたかったし、勝ちたかった。
でも、戦争は色んな人間が動き、活躍するのだ。
正面から戦う勇者だけが英雄ではない……そう思いたい。
「今はただの魔道具屋の店長とセクハラ気味の軍の指導員だよ……来たぞ」
左の方の森からゴブリンが出てきた。
アンジェラはそれを見て、足を広げ、杖を構える。
スリットから綺麗な足が見えており、いつもこれなのかと違う意味で心配になる。
「アイスランス!」
アンジェラが杖を向けると、先から氷の槍が飛び出し、ゴブリンを襲う。
氷の槍はかなりのスピードで発射されたため、ゴブリンは躱すことができずに胸に刺さり、仰向けに倒れた。
「こんなものね」
「さすがだな」
スピード、威力、正確性、どれも申し分ない。
「さて、耳と魔石っと」
アンジェラがナイフを取り出し、討伐証明と魔石の採取を始める。
「周りは見ておく」
「どもー」
見張りをしながらアンジェラを見ていると、すぐに採取を終え、立ち上がった。
「手際も良いな」
「さすがに2年もやってればね」
アンジェラは間違いなく、魔道具屋よりも冒険者の方が大成するだろうな。
本人の意思を考えなければ王都なんかの大きい町に行って、良いパーティーと組めればヴィオラが言うようにAランク冒険者として、成功できるだろう。
「魔法の方はどうだ?」
「問題なさそう。ただ、他の魔法も試したいからもうちょっと付き合って」
「ああ」
その後も奥に進みながら出てくる魔物をアンジェラが倒していった。
アンジェラは魔法使いなため、倒す方法は魔法だが、全部、違う魔法を使っている。
そして、コボルトを上級の火魔法で焼き尽くすと、アンジェラが杖をしまった。
「こんなものね」
「もういいのか?」
「ええ。一通りの魔法も使ったし、一番大事な距離感もバッチシだった」
アンジェラのような近接戦闘がダメな魔法使いで一番大事なのは敵に近づけさせないことである。
距離感とはそういう意味だ。
「これからどうする?」
「もうちょっと奥に行ったら休憩用の小屋があるわ。そこの前に椅子とテーブルがあるからそこで昼食にしよっか」
確かにちょっと腹が減ったな。
「じゃあ、行くか」
「うん」
俺達はさらに奥に歩いていく。
すると、ちょっと開けたところに出たのだが、確かに小屋があるし、その前には木製の長椅子とテーブルが置いてあった。
「こういうのがあるんだな」
「山師の人が作ってくれたやつね。小屋は一応、泊まれる」
便利だけど、この距離なら町に戻るなぁ……
まあ、山師が使うやつを冒険者や猟師も使っていいよってことか。
「座るか」
「そだねー」
俺達は木製の椅子に腰かける。
「はい、お弁当」
アンジェラがテーブルに2つの弁当箱を置いた。
「ありがとうな」
礼を言い、弁当箱を開けると、中身はサンドイッチだった。
「えーっと、飲み物はっと……」
「待て、アンジェラ」
アンジェラを止める。
「ん? 何か出た?」
アンジェラがきょろきょろと周囲を見渡す。
「いや、周囲には何もいない。そうじゃなくて、ここで新発明を出そうと思ってな」
「あー、前に言ってたやつ? 持ち運び用コンロの派生の良いものってやつ」
「それだ。あれは小型化しているがそれでも荷物になるし、何よりも値段が高い。それでこれだ」
空間魔法から30センチ程度の円柱体のものを2つ取り出した。
片方が青色でもう片方が赤色だ。
「何これ? 水筒?」
「正解だ」
ただの水筒。
「これがどうかしたの?」
「まずはこっちだな」
コップを取り出し、青色の水筒を開けて注いだ。
「お茶?」
「ああ。飲んでみろ」
アンジェラがぐいーっと飲む。
「冷たっ!」
「すごいだろ? これは実験用に昨日の夜から氷を入れていたやつだ」
「昨日の夜? 溶けるし、常温に戻るでしょ」
「そうならないように内部を加工してあるんだ」
これぞ魔法……まあ、魔法瓶とも言う。
「へー、これはすごいわ。これから暑くなるし、外でも冷たいものが飲めるのは良いじゃん」
「だろ? お次はこっちだな」
コップをもう1つ取り出し、赤色水筒を開けて注いだ。
こちらは湯気が立っている。
「何これ?」
「昨日、お前が作ってくれたオニオンスープだな。今朝、温め直したやつを入れたんだ」
「温かい飲み物も維持されるんだ。すごいわね」
魔法瓶だからな。
「これの良いところは持ち運びが楽なところだ。ただの水筒だしな。それでいて、5000ミルドで十分に元が取れる」
「これ、売れそうね。正直、持ち運び用コンロは遠征をする際には良いけど、日帰りならいらないもん。でも、これは冒険だけじゃなく、普段使いもできるっしょ」
「だろ? コンロを作った際に逆に冷たいのも作れないかって思って思いついたんだ」
正確には記憶を掘り起こした。
「良いじゃん、良いじゃん! 王都とかに売り出せそう!」
「な? そういうわけでちょっと冒険者仲間に宣伝してくれ」
「わかった。これはいける気がする。店長、天才!」
はっはっは!
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