第024話 嫌い
翌日、メアリーを起こし、アンジェラと共に開店準備をしていると、冒険者服じゃないメアリーが出てくる。
「出てくるねー。昼には戻って手伝うからー」
「いってらっしゃい」
メアリーは今日も元気に出ていった。
その後も開店準備をしていると、扉が開く。
「エリック、遅くなった」
店にやってきたのはキースだ。
「おー、キース、無事だったらしいな。あ、看板をひっくり返してくれ」
「ああ」
キースが扉にかけられた看板をひっくり返してくれたので営業がスタートした。
「昨日、メアリーに事情を聞いたが、馬は大丈夫なのか?」
「歳だよ。もう重い荷物を持っての長距離は厳しいだろう。新しい馬を買うよ」
やっぱり引退か。
まあ、馬にしたら牧場で遊んでいる方が良いわな。
「そうかい。まあ、お前が無事なら良かったわ」
「なんか変なのに助けられたよ。あ、注文していた部品を持ってきたから確認してくれ」
キースがそう言って、店に2つの木箱を運び込んできた。
俺とアンジェラはそれを手分けして確認していく。
「盗賊が出たんだろ?」
「そうそう。ありゃどっかの農村から逃げた奴だな」
「そうなのか?」
よくわかるな。
「見りゃわかるよ。エリックが来る前は結構そういうのもいたんだ。作物が育たなくなると農村は厳しくなるからな。そうなると、若者は冒険者になったり、都会に出るんだが、中には悪いことを考える奴もいるんだ」
リスクとリターンがまるで見合わない盗賊なんかによくなるもんだ。
「ギルマスと軍は何て?」
「冒険者に捜索の依頼を出すらしい。軍は見回りの強化だって。俺も今度からは護衛を雇うことになった」
それが良いかもな。
「金がかかるが、命には代えられないからな」
「ああ。親父と嫁さんにもそう言われた」
子供もいるしな。
「しゃーない」
「てんちょー、こっちは大丈夫ー」
チェックを終えたアンジェラが声をかけてくる。
「こっちもだ。キース、問題ない」
「荷も無事で良かったよ。良い仕事が入ったんだって?」
「そうそう。それで家を改築する予定」
「そうかい。じゃあ、いよいよかねー?」
ん?
「何が?」
「何がって……まあいいよ。それよりも30万ミルドね」
よくわからないが、代金を支払う。
「ほら」
「まいどどうも。また何かあったら言ってくれ。今度は遅れないようにするから」
「ああ。親父さんによろしく」
キースは手を上げて、帰っていった。
「いよいよって何だ?」
アンジェラに聞いてみる。
「さあ? それよりもようやく来たわけだし、やりましょうよ」
超良い女がそう言いながら髪を払う。
それを見て、なんとなく意味がわかった。
「そうだな」
俺達は届いた部品で持ち運び用コンロを作っていく。
俺が部品を加工し、アンジェラが組み立てる形だ。
昼前にはメアリーが帰ってきたので昼食を食べ、午後からは3人で仕事をしていった。
「アンジェラ、メアリー、留守番を頼む。ちょっと神父さんのところに行ってくる」
15時くらいになると、手を止め、立ち上がる。
「神父? カトリーナのお父さん?」
メアリーが首を傾げた。
「ああ。ちょっと確認したいことがあってな。休憩してていいぞ」
店の手伝いをしてくれるのはありがたいが、メアリーはせっかくの休日なのだから休むべきだ。
「じゃあ、パンケーキでも焼こうかな」
アンジェラがそう言って立ち上がる。
「やったね。アンジェラちゃん、良いことあった?」
「まだない」
2人が盛り上がり始めたので店を出て、教会に向かった。
教会は町の中央にあり、歩いて10分ぐらいで着く。
外観からも厳かな雰囲気があり、正直、あまり縁のない場所だ。
俺はそのまま中に入らずに裏に回る。
そして、裏口をノックした。
『はーい?』
この声はカトリーナだ。
「魔道具屋のエリックだ」
そう答えると、冒険者服ではなく、修道服を着たカトリーナが顔を出す。
ここは教会裏にある住居スペースなのだ。
「エリックさん、こんにちは。どうされたんですか? お祈りなら前ですよ」
カトリーナが笑顔から苦笑いに変わった。
俺が教会を苦手にしていることをわかっているからだ。
「お祈りはいい。神父さんはいるか?」
「ちょっと待ってくださいねー。おとうさーん! エリックさんだよー!」
カトリーナが声をかけると、奥から眼鏡をかけたおっさんが出てくる。
神父のエイブラムさんだ。
「おー、エリック、どうした? お祈りなら前に来なさい」
いらねーっての。
毎朝のお祈りを欠かさなかったローランは死んだわ。
「ちょっと話がありましてね。時間はありますか?」
「ふむ……では、ちょっと歩こうか」
「すみません」
神父さんが出てきたのでそのまま2人で町中を歩いていく。
「エリック、君もアンジェラもメアリーも全然、お祈りに来ないね」
俺は好きじゃない。
アンジェラはめんどいの一言。
メアリーはじっとするのが嫌らしい。
「すみませんね。どうも苦手でして」
「神の救いは嫌いかな?」
「救えなかったことの方が多いんですよ」
こんなことを神父さんに言うのもどうかと思うがな。
「それは当然。救いとは生き残った者のためにあるのだよ」
「そんなこと言っていいんですか?」
「良くはないね。他の人に言ったらダメだよ」
そうかい……
「俺の救いはメアリーですよ」
「アンジェラも入れなさい。未熟者」
すんません。
「肝に銘じておきます」
「ったく……いつまでも子供でいかんな」
いや、俺、あんたと10歳も変わらないんだけどな。
「お恥ずかしい限りです」
「さっさと落ち着いたらどうなんだ? その歳で独り身なのは君くらいだよ?」
メアリーがいるんだけどね。
「そのうち?」
「ハァ……まあいいでしょう。それで話とは?」
神父さんの説教が終わり、本題になった。
「ウチの子が冒険者になりました。そして、カトリーナと肉屋のシャーリーとパーティーを組んでいます。よろしいのですか?」
「その肉屋のバリーからもそう聞いてきたよ」
あ、バリーも神父さんに確認に来たんだ。
「良いんですか? シスターですよね?」
「構わない。これも修行だ」
「命の危険もありますよ? 槍の技術は相当なものだと思いますが……」
「どこでカトリーナの槍の技術を見たのかは置いておく。カトリーナもメアリーもシャーリーも無茶なことをする人間ではないから問題ない」
確かにそれはそうだ。
「昨日、盗賊に襲われたことは?」
「聞いている。謎の黒仮面が助けたこともね」
ジト目で見てくるな。
「危険では?」
「同じことを君に返す。これはバリーにも言った」
危険なのはメアリーもシャーリーも同じことである。
それはそうなんだが……
「お宅の娘は聖職者でしょう?」
「それを私に聞くか? 黒影団のエリック君」
ノクス戦争に参加していた魔法使いの神父さんが睨んでくる。
あの戦争は6年も続いた長い戦争であり、この人と俺やアーヴィンは時代が違うので会ったことはないが、そう聞いている。
「いえ、確認です。カトリーナが冒険者になるのが少し驚きだったんです」
争いを好まない物静かな子って印象なのだ。
「そういうこともある。盗賊も問題ない。それよりも君だ。いつまでもふらふらと……しまいにはフルフェイス・マスクマンって何かね?」
「フルフェイス・マスクマンと俺が何か?」
知らない、知らない。
「ハァ……君以外におらんだろ……まあいい。とにかく、カトリーナは問題ない。むしろ、メアリーやシャーリーと一緒で楽しそうだよ」
神父さんがここまで言うのならいいか。
「門限は?」
昨日、破ってない?
「昨日のようなケースは仕方がない。焦ってもロクなことにならないし、門限はあくまでも目安だよ」
意外と緩いんだな。
「ならいいです。ちょっと気になったものですから。どうしてもウチの子が無理やり誘ったのではないかなと思ってしまいます」
「私も最初はそう思ったが、カトリーナが否定したし、実際、楽しそうにしている」
「わかりました」
カトリーナがいいならそれでいいだろう。
「よろしい。それと君の家族はお祈りに来なさい」
「神父さん、今日はお時間をいただきありがとうございました」
「来いっての……」
行かねーっての。
神父さんから逃げ、家に帰ると、アンジェラが作ってくれたパンケーキを食べ、仕事を再開した。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




