第002話 ニューヒーロー
「ハァ……」
メアリーが出ていった扉を見ていると、ため息が出た。
「心配か? 明るい子だし、上手くやるさ」
明るい、か……
確かにメアリーは明るい。
ただ、最初はめちゃくちゃ暗かったし、泣いてばかりだった。
気持ちはわかるが……
「なんで若者は冒険者が良いのかね?」
「みーんな、そうさ。俺だってガキの頃は憧れた。というか、エリックは元冒険者だろ?」
冒険者ではないが、そういうことにしてある。
この町に移り住んだ時にそういう説明をしたのだ。
「元冒険者だから反対なんだ」
危険な仕事は反対。
元暗部としてはなおさらそう思う。
「子は親に逆らうもんさ。まだメアリーちゃんは素直な方だぞ。肉屋のバリーなんか娘が口を利いてくれない時期があったってさ」
「シャーリーか? ちょっと不愛想なところがあるが、ちゃんと挨拶してくる礼儀正しい子だぜ?」
何度かウチにも来たことがあるし、町中で何度も顔を合わせているが、真面目な印象がある。
「親には違うってことだろ」
色々あるんだなと思っていると、店の扉が開き、長い金髪の女性が入ってきた。
ウチの従業員のアンジェラだ。
「てんちょー、おはよー」
眠そうに挨拶をしてくる。
「おはよう、アンジェラ」
アンジェラは魔法の弟子でもあり、まだ20歳と若い。
身長は160センチ弱とメアリーよりも高く、黒いローブを着ている。
綺麗な顔立ちをしているし、出るところは出ていてスタイルも良い。
ウチの看板娘と言ってもいいくらいだ。
ただ、腕輪なんかの装飾品が多いし、すごくチャラチャラしている。
さらには太ももまで見えているスリットがどうしても気になるし、何度か注意もしたのだが、『可愛いじゃん』の一言で片付けられた。
ったく、若者は困るね。
「アンジェラちゃん、おはよう。眠そうだね?」
八百屋が声をかける。
「おじさん、おはよう。いやー、昨日は店長が寝させてくれなくてね」
「何を言ってんだ、お前?」
「事実じゃん」
事実だけども。
だから遅刻しても注意してないんだ。
「何かあったのかい?」
「メアリーが冒険者になるじゃん? それの愚痴と不安を延々と聞かされた。残業代を出してほしいよ」
それは出す。
「おいおい、エリック……不安なのはわかるけど、従業員を巻き込んだらダメだろ」
八百屋が苦笑いを浮かべながら呆れた。
「わかってるよ。ほれ、修理したぞ」
動き出した置時計を渡す。
「ありがとよ。また来るわ。親バカもなんとかしねーと、嫌われるぞ?」
「はいはい。まいど」
「じゃあな」
八百屋が手を上げて、店から出ていった。
「てんちょー、仕事は?」
アンジェラが受付内に入ってきて聞いてくる。
「悪いが、そこの依頼票をまとめてくれ」
「はーい」
アンジェラは席につき、依頼票を見ていく。
「眠かったら仮眠を取っていいぞ。俺のせいだからな」
たった一人の従業員だし、辞められたら困る。
「そこまでじゃないから大丈夫ー。というか、店長はあれから寝られたの?」
「いいや」
眠れるわけがない。
とはいえ、1日や2日ぐらいなら眠らなくても問題はない。
「寝たら? 店番はしておくよ?」
「いや、大丈夫だ」
「ふーん……そんなに気になるんだ?」
そりゃそうだろ。
「メアリーはちょっと抜けたところがあるしな」
「カトリーナが一緒だから大丈夫でしょ」
カトリーナはメアリーの子供の頃からの友人であり、教会の神父さんの子だ。
なんか一緒に冒険者をやるらしい。
神父さんに『いいのか?』って聞きにいったが、『これも勉強』の一言で終わった。
大丈夫か、あの神父?
「お前、メアリーに言ってくれないか?」
「無理っしょ。私も冒険者だし」
アンジェラはウチの従業員だが、冒険者の魔法使いでもある。
この子も子供の頃からウチのメアリーと仲が良かったし、5つ上のお姉さんみたいなもので、特にメアリーが慕っていた。
アンジェラは昔からよくメアリーの面倒を見てくれたし、俺が魔法を使えることを知ると、師事してきたのだ。
さらに店の手伝いまでしてくれ、今日に至る。
「ハァ……」
「大丈夫だって。最初に行くのは森だし、深いところには行かないよ」
浅いところならスライムやゴブリン、さらにはコボルトだろう。
雑魚と言えば、雑魚だが、人を殺せる能力は十分に持っている魔物だ。
「どうも心配だ。しょっちゅう、タンスの角に小指をぶつける奴だし」
タンスに『なんでこんなところにいるんだ!』って説教をかましているところを見た時は育て方を間違えたと思ったものだ。
「それは昨日、5回は聞いた。そんなに心配なら見に行けば?」
「ついてくるなって言われてる」
「そりゃそうでしょうね。保護者同伴は私も嫌。内緒でついていけば? バレないようにこそこそとさ。ストーカーみたいな感じ」
ストーカーはあれだが、バレなきゃ怒られないか……
「ふむ……」
「え? マジで行くの?」
いや、お前が提案してきたんだろ。
「良いアイディアが浮かんだ」
立ち上がると、在庫を収納している倉庫の扉を開け、昔作ったものを探す。
「店長、仕事はー?」
「仕事と家族、どっちが大事だ?」
「それ、ウチらが言うやつ……」
答えは決まっている。
家族のために働くのだから家族だ。
「あ、あったぞ」
見つかったので取り出すと、手でホコリを払う。
「何それ? 兜?」
俺が持っているのはバイクで使うフルフェイスのヘルメットだ。
兜として売り出そうと思ったのだが、視界が狭まるのでボツにしたやつ。
「まあ、そんな感じだな。これなら顔が見えない」
そう言って、ヘルメットを被った。
「確かに見えないけど……そっちは見えるの? なんか光が反射して見えないけど」
「こっちはちゃんと見えてるよ」
中からは見えるのだ。
とはいえ、やはり視界が狭い。
「ふーん……確かに顔は隠れたけど、それで行くの?」
ヘルメットだけではダメか……
俺はさらに倉庫からボツになった黒のマントを取り出し、羽織った。
「どうだ?」
これなら顔も見えないし、服も見えない。
「だっさ……」
そんな顔しなくても……
「かっこよさなんか求めてないわ。バレなきゃいいんだよ」
「まあ、そんな格好だったらバレないかもね。こんなのが父親って思いたくないし」
うっせ。
俺だって好きでやってんじゃねーよ。
「今はこれしかないんだ。後でまた考える」
「今日だけじゃないんだ……」
当たり前だ。
合格点を出すまではちゃんと見ておかないと。
「とりあえず、森に行くぞ。メアリーは教会にカトリーナを迎えに行ってからギルドに寄り、登録をしてから森に行くはずだ」
「そうだね。最初に登録だね。じゃないと森に行けないもんね。店長はどうすんの?」
あ、俺も冒険者じゃないわ。
引退したってことになってるけど、そもそも冒険者になったことがない。
「ギルドカードがないと森は厳しいか?」
「門番次第だけど……その格好は無理だと思う」
不審者感がすごいしな……
「仕方がない。俺達もギルドに行くぞ」
登録しよう。
「達? え? 私も?」
そんなに驚くなよ。
「こんな格好で一人で外を歩けるか。地元民のお前と一緒に行って、無害さをアピールするんだよ」
「こいつ、めんどくせー」
アンジェラが嫌そうな顔をする。
「ボーナスは弾んでやるから」
「はいはい。ギルドに行くまでに偽名とかも考えておきなよ。本名だと店の評判に関わるよ」
確かに……
「俺はフルフェイス・マスクマンだ」
フルフェイスが名前でマスクマンが名字。
「だっせー……店長、ことごとくセンスがないね」
名前なんて何でもいいんだよ。
「いいから行くぞ、アン」
「エリック……お願いだからその格好で愛称を呼ばないでちょうだい。冷めそう……」
そんなに嫌か?
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