第014話 ご機嫌
遠見の魔法でゴブリンを探していると、見つけたので近づいていく。
もちろん、その間もアンジェラの周囲の警戒を怠ることはない。
音も出さず、気配も完璧に消して近づくと、転移を使い、ゴブリンの後ろに回った。
まるでこちらを警戒していないゴブリンの姿がかつての敵兵とダブる。
「作業だな」
ぽつりとつぶやいた。
しかし、ゴブリンがその声に反応することはない。
何故ならゴブリンはすでに息絶え、倒れているからだ。
「腕は……落ちてないか」
戦争が終わり、10年が経つ。
あれからほぼ戦いをしてこなかった俺が10年ぶりの戦いがこれだった。
さすがにゴブリンでは相手に不足であまり参考にならないが、それでも自身の動き自体は悪くないと感じた。
その後もスライムとコボルトを見つけたので瞬殺する。
「てんちょー、薬草を採ったよー」
アンジェラが草を持ってこちらにやってきた。
「悪いな。俺は薬草の分野は詳しくないんだ」
正直、アンジェラが持っている草も雑草にしか見えない。
「いいの、いいの。そっちはどんな感じー?」
アンジェラが倒れているコボルトを見る。
「問題はないな。ブランクが思ったよりない」
30歳になり、色々とガタが来ているかと思ったが、そうでもなかった。
「それは良かったじゃん。運動は大事だよ。私だって、たまに冒険に出るし、毎日ストレッチは欠かしてない」
俺も軽く体を動かそうかな。
「さて、そろそろ帰ろうかと思うが、熊がいるな」
「え? どこどこ?」
「あっちだ。50メートルといったところか?」
右の森の方を指差す。
「あー、ホントだ。よくわかるね」
アンジェラも遠見の魔法を使って見つけたようだ。
「感覚だな。それとこれだけ殺気を出されればわかる」
向こうもこちらに気付いているし、ヤル気だ。
「この時期の熊はなー……冬が終わってお腹が空いているから人を襲ったりするんだよね」
そういうのを駆除するのも冒険者の仕事だ。
「大きさ的にはそこまでだが、やっておいた方が良いかもしれんな」
「放置して帰ると、メアリー達とぶつかるかもしれないしね」
それもあるが、この森は猟師や山師も入る。
駆除できるものは駆除しておいた方が良いだろう。
「あいつらでも熊ならやれるだろうが、見張りを立てないで採取しているくらいだからな」
「そだね。それは今日のうちに言っておくから今日は手助けしてあげても良いと思う。それでどうすんのさ?」
「さっさと仕留めて帰る。ついてこい」
「熊に近づくのか……初めてだよ」
距離を取るのが魔法使いだからな。
「私がいるから何も問題ない」
「王子様役がフルフェイス・マスクマンかぁ……」
もう脱いじゃおうかな……
そう思いつつも歩いていき、足を止める。
理由は熊が逃げずに近づいているからだ。
熊は魔物ではなく、普通の獣だが、脅威度でいえば、この辺にいる雑魚よりも数段上であり、力もスピードも普通の人間ではとても適わない。
しかし、熊というのは非常に臆病であり、人間だけじゃなく、下手をすると、相手が犬だろうが逃げ出す生き物である。
だから人を認識したら普通は逃げ出す。
「アンジェラ、森での被害は出ているか?」
「うーん? 聞いてないね。大きくない町だし、ケガをするだけでも噂になるからないんじゃない?」
となると、逃げだして荷を奪われた程度か。
「熊がこちらに近づいている。これは味を覚えた熊だ」
「あー……ギルドや軍に報告してないパターンかー」
山師でも猟師でもないな。
ったく……バカなガキか?
「やはり駆除だ」
積極的に人を襲ってくる熊は早急に駆除しないといけない。
下手をすると、森から出てくる可能性もあるからだ。
「大丈夫?」
「何も問題ない」
そのまま待っていると、草むらから熊が出てきた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「でっかっ!」
普通のサイズだよ。
むしろ痩せているからそこまでだ。
「絶対に俺より前に出るなよ」
「出ない、出ない。ちょーこわー……」
熊ならアンジェラでも倒せる。
でも、ここまで近づいたことはないだろうな。
「来い」
熊が理解したのかはわからないが、熊が爪を立て、その太い腕を振るってきた。
しかし、その腕を右手で簡単に抑える。
「へ?」
アンジェラが呆けた声を出すが、気にせずに抑えた手とは反対の左手を熊の胸に当てた。
すると、熊がビクンッと震え、そのまま倒れる。
「倒したぞ」
「え……」
「もう死んだ」
熊はピクリとも動かない。
「もう? というか、何をしたの?」
「魔法だ。心臓だけを破壊する攻撃魔法だな」
ぱっと見は外傷もないし、即座に息の根を止められる。
「何それ……こわー……この前の投擲ナイフといい、店長の攻撃って殺傷能力が高すぎじゃね?」
「それが暗部だし、戦場だ」
いかに迅速かつ、確実に殺すかが大事になってくる。
「冒険者とか兵士になればいいのに。それこそ歴史に残るかもよ?」
銅像はいらんな。
「もう戦いで金儲けをする気がないんだ。お前とあの店で細々とやれればいい」
「そ、そっかー。じゃあ、仕方がないね」
アンジェラが手をもじもじさせる。
「アンジェラ、熊はどうすればいい?」
「熊は売れないから放置で良いよ」
食べられないこともないが、肉が豊富に獲れるこの地では食べないからな。
熊の手とかも聞いたことがあるが、調理法を知らんし、別にいいか。
「じゃあ、帰ろう」
「うん。私達の店が潰れたらマズいもんね!」
頬を赤く染めたアンジェラがバンバンと叩いてきたので帰ることにした。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




