第117話 姦しい
しばらくすると、4人が戻ってきたのでローレンスと乾杯し、飲み食いを始める。
「お前、明日は飲みすぎるなよ。もうお前を運ぶのは嫌だぞ」
「わかってるよ。それにこの前は特別だったんだ」
ふーん……
「隊長もだが、旦那さんもいるんだからな」
「わかってるっての」
ホントかよ。
「ねえねえ、ローレンスさーん」
3人でしゃべっていたメアリーが満面の笑みで甘い声を出す。
「何だ?」
「ヴィオラちゃんのことが好きなのー?」
メアリーが聞くと、ローレンスがぐいっとエールを飲み、俺を睨んでくる。
「言ってない、言ってない。アンジェラにしか言ってない」
「私もメアリーにしか言ってない」
うんうん。
しゃべってない。
「え、何、何?」
「ヴィオラさん? ギルドの?」
カトリーナとシャーリーも満面の笑顔になった。
まあ、メアリーも2人にしかしゃべらないだろう。
「ハァ……いや、そんなんじゃない。エリックとアーヴィンと話した時にさっさと結婚しろ的な話題になったんだが、その時にエリックがその子の名前を出してきただけだよ」
ローレンスがやれやれと言った感じで首を横に振った。
「えー、そうなのー?」
「いや、まんざらでもない顔してたぞ」
軍の経理のノーラは反応が薄かったのにヴィオラにはちょっと食いついていた。
「マジ? マジ?」
「ヴィオラさんかー」
「小柄だけど、大人っぽいもんなー」
女子3人がさらに盛り上がり始めた。
「お前な……」
ローレンスが呆れる。
「いや、実際、そうだろ。町を出る時にちゃっかり挨拶だけはしてただろ」
ヴィオラに聞いているんだぞ。
「普通、挨拶くらいするだろ」
「え? 10年も来なかった奴が何言ってんだ?」
「悪かったよ……お前らがああ言うからちょっと気になっただけだ」
ほー……
「どうかな? いけると思う?」
「ヴィオラさん、結構、冒険者に口説かれてない?」
「あれ、口説いてんの? 冗談じゃないの?」
女子3人がひそひそし始めた。
「楽しそうだな……」
「楽しいんだろうよ。俺もちょっと楽しいし」
他人のことだと楽しい。
「そうかい」
ローレンスがぐいっとエールを飲んだので俺も飲む。
何故か一口目のエールより美味しかった。
「ローレンスさんはBランク冒険者だし、稼ぎはあると思うんだ」
「確かにね。きっと強いし、そこはいけるんじゃない?」
「先生、どう思います?」
シャーリーがアンジェラに聞く。
「ギルドで声かけはしない方が良いんじゃない? ヴィオラは慣れているし、適当にあしらわれるだけだと思う」
俺もそんな気がする。
「じゃあ、ナンパ?」
「それも同じでしょ。ここは私がヴィオラを飲みにでも誘いましょう。そして、その場にたまたまエリックとローレンスさんがいたから一緒に飲む。後はご自由に」
「わざとらしすぎませんか? 先生って飲みに行かないですし、ヴィオラさんと飲みに行くっていうのが想像できないんですけど」
「私もそう思います」
「アンジェラちゃん、付き合い悪いからなー」
まあ、そこは俺もそう思う。
アンジェラはヴィオラと仲が良いし、会えばおしゃべりをしているけど、飲みに行く感じではない。
「バカねー。ヴィオラは100パーセント勘付くけど、それが何よ? 男が女に話しかけるケースは8割、9割ぐらい下心があるもんよ。それもわかったうえで勝負なわけ」
そうかー?
「俺、そんなに下心ないぞ」
「俺も別に……」
なー?
「それ、アンジェラちゃんだからじゃない?」
「わかる……」
「先生だし……」
ほら、女子3人も賛同してない。
「私のことはいいの。ヴィオラも子供じゃないし、わかったうえで付き合ってくれるわよ。それでヴィオラがどう判断するかは知らないけど、ただのきっかけの一つでしかないわ。3人共、いい? 白馬に乗った王子様はいないの」
ウチには白馬に乗ったプリンセスがいるぞ。
あと、白馬に乗った漆黒の使者……
「大人だなー」
「さすがは奥様ですね」
「先生はすごいです」
そうかぁ?
「うんうん。ローレンスさん、そういうことだから」
「え? なんか色々決定してる?」
「ローレンス、グダグダ言わない方が良いぞ。お前は流された方が良い」
優柔不断なんだから。
「せんせー、エリックのどこが良かったのー?」
矛先がこっちに向いてきた……
ローレンスが美味そうにエールを飲んでいる……
「あ、それです、それです」
「気になる」
女三人寄れば姦しい……
「逆に悪いところはどこよ?」
アンちゃん、かっこいい……
「小うるさいところー」
「そりゃあんたが悪い」
うん。
お前が悪い。
俺達はその後も盛り上がりながら飲み食いしていったが、酒を飲まないメアリー達がお腹いっぱいになると帰ることになった。
「エリック、私が3人を送っていくわ」
「ああ。俺もすぐに戻る。メアリー、明日の予定は?」
「商業街に行く。まだ回り切れてない」
広いもんな。
「そうか。じゃあ、今日は早めに寝ろ」
「そうするー。おやすみー」
「おやすみなさい」
「ありがとうございました」
3人はアンジェラと共に帰っていった。
「すごいエネルギーだったな……」
ローレンスが苦笑いを浮かべながらエールを飲む。
「若いからな。特にメアリーは有り余っている」
「そんな感じだな……俺、ミルオンの町に行く感じか?」
「そうなったな。別にいいだろ」
フラフラするよりずっと良い。
「まあ、どこでもいいからな。だったら知己のお前やアーヴィンがいるところの方が良いかもしれん。ただ、何をしようかねー?」
「当分は冒険者だろ? それで金を稼ぎながら考えろよ」
「そうすっかなー……」
ホント、気分屋だな。
乗り気になってるし。
「俺達と一緒に帰るか?」
「あ、いや、それはない。実はあれから考えたんだが、ちょっとノクスに行こうと思っているんだよ」
ノクス……戦場だった地方だ。
「墓参りか?」
戦争が終わって数年後に遺体が戻らなかった兵士のための慰霊碑が作られている。
「ああ。王都が終点と思ったが、そこを終点にする」
まーた旅が伸びたなと思わないでもないが、墓参り自体は悪いことではない。
ビルやローランを始めとする多くの戦友達が眠っているのだ。
「わかった。いつ発つ?」
「明日は隊長に招かれたし、まあ、数日以内だな」
すぐだな。
「またアーヴィンを入れた3人で飲もうぜ」
「ああ。とはいえ、明日があるな」
「そうだな。じゃあ、明日」
「ああ。俺はもうちょっと飲んでから帰る」
ローレンスがそう言って星空を見上げる。
ホント、かっこつけだ……
「ほどほどにな」
そう言って自分のエールを飲み干すと、ローレンスと別れ、宿屋に戻った。
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