第106話 語彙力を失う
翌日、朝起きると、朝風呂を楽しんだ。
そして、ベルを鳴らして朝食を頼み、アンジェラと一緒に食べる。
「あー、良い朝ね」
「そうだな」
よく眠れたし、風呂も気持ちよかった。
さらには朝食のパン、スクランブルエッグ、サラダも美味しい。
「あの水筒があんなに売れたうえにこんなところに泊まれるようになるなんて本当にすごいわね」
「確かにな」
水筒様様だなと思いながら朝食を食べ、食後のコーヒーを楽しむ。
そして、準備をし、部屋を出ると、1階に下りて、受付に向かった。
「すまない。娘達はもう出ただろうか?」
店員に聞く。
「いえ、先程起きられたようですね。朝食を頼まれました」
疲れもあったし、起きたばかりか。
「今日の夕食は俺達もあいつらも外で食べるが、伝言を頼む。ちゃんと帰ったら顔を見せろと伝えてくれ」
「かしこまりました。伝えておきます」
「頼む」
用件を伝えたので宿屋を出た。
「まずはどこ行くの?」
「最初はノルマだな。神父さんが行けって言ってた大聖堂だ」
「確かにノルマね」
アンジェラが笑ったので中央に向かって歩いていく。
「大聖堂はどこにあるの?」
「町の北の方だな。そこには城もあるから併せて見よう」
正直、あまり城は行きたくないがな。
「ちょっと楽しみね」
まあ、アンジェラがこう言っているから仕方がない。
「それとはぐれないようにな。北の方は本当に人が多いから」
「わかった」
アンジェラが頷き、腕を組んでくる。
そのまま通りを歩いていくと、中央の公園となっている広場にやってきた。
まだ朝だが、すでに多くの人がおり、賑わっている。
「ずっとこんなに人がいるのかしら?」
「夜も多いぞ。多分、この時期なら屋台で酒も提供していて、外で飲食を楽しむ人も多いはずだ」
「へー……部屋の方が落ち着けると思うんだけど」
アンジェラは酒も飲まないし、結構なインドアだからな。
「たまにはそういうのもありってことだろう」
「ふーん……冒険者が好きそうね」
自分も冒険者だろうに。
「そうかもな」
俺達は広場を抜け、北の通りに向かった。
そして、北に向かって歩いているが、すでに城がちょこっとだけ見えている。
「お店が多いわね……どこにでもある」
飲食店だけではなく、様々な店が通りに並んでいる。
もちろん、通りから入った町中にもある。
「人が多いからそれでも需要があるんだ。ただ、競争も激しい。ウチみたいな殿様商売だとすぐに潰れるな」
適当な時間に開き、適当な時間に閉める。
しかも、しょっちゅう出かけたり、奥で休憩しているし。
「昔、お母さんとお父さんが王都は遊びに行くところで住むところじゃないって言ってたのがよくわかるわ」
穏やかさと静けさが特徴のあの町に住んでいたらそう思うだろうな。
ここに住んでいた昔はそう思わなかったが、今は俺も同じ気持ちだ。
「まあ、殿様商売でまったりやろうぜ」
「そうね」
そこから30分くらい歩くと、広場に出た。
「見ればわかるが、あっちが城であっちが大聖堂な」
右と左にある大きな建物を指差す。
右にある城は厳かな雰囲気があり、高さは数十メートルもある。
左の大聖堂も大きいが、こちらは白を基調としており、神聖な感じがする。
そして、広場にはやはり多くの人がおり、城や大聖堂を見学していた。
「あれが大聖堂……中に入れるの?」
「一般公開されてるな。皆、お祈りをしていく。行くか?」
俺は人生で一回しか行ったことがない。
「お祈りならウチの教会でもできるわね」
しないじゃん。
「まあ、神父さんに聞かれたらちゃんと行ったって言えばいいと思う」
「神秘的で心が洗われるようでしたって言おう」
「俺もそう言おう」
大聖堂はもう良いので城の方を見る。
「あそこに陛下がおられる。ウチの国のトップだ」
「そりゃね……城はさすがに入れないわよね?」
「ああ。年に1回くらい公開することもあるが、普段は無理だ」
なんか子供達の見学会があった気がする。
「エリックは城の中に入ったことがあるの?」
「何回かあるな。陛下に会ったことはないが、見かけたことくらいはある。普通のおっさんだった」
「不敬ね」
アンジェラが笑う。
「別にいいだろ。ちなみになんだが、あの城なら簡単に忍び込めるぞ」
「それこそ言ったらマズくない?」
「マズいだろうな。まあ、忍び込む用事もない。さて、次に行くか」
ここはもういいだろう。
「そうね。というか、王都って広くない? ここまで来るのに結構かかったわよ」
「王都だからな。広さ的にはウチの町の数倍はあるぞ」
「歩くのか……」
「仕方がないだろ。まあ、次は東にある商業街に行こう。店を回りながらだから楽しいと思うぞ」
アンジェラはそっちの方が好きだろう。
「うん。行く」
俺達はこの場を離れ、東区にある商業街に向かった。
商業街はその名の通り、様々な店が密集している区域であり、人気のスポットだ。
アンジェラも楽しそうに色んな店の商品を見て回り、俺も新しい商品開発のインスピレーションが沸く感じがして楽しかった。
昼になり、定食屋で昼食を食べると、午後からも店を回っていったが、あっという間に時間が過ぎ、夕方になったので最後にアクセサリーを売っている店に入る。
「ほー……」
アンジェラは指輪が並んでいるショーケースを眺めながら感嘆の声を漏らした。
「どれがいい?」
「いや、エリック……高くね? 桁がヤバいっしょ」
アンちゃんがギャルに戻っている。
「高いけど、気にするな」
昨日の夜に俺もメアリーに倣って宿屋の受付の子に聞いた店だ。
まあ、高いんだろうなとは思っていた。
「最低でも50万ミルドなんだけど?」
高いのだとその10倍はするな。
「買ってやるって言っただろ。一生モノなんだから気にするな」
「おー……」
アンジェラが再び、ショーケースを見る。
「やっぱりシルバーか?」
「こういうのはそういうイメージがある。まあ、シルバーが好きだしね。金は髪と一緒だから映えないの」
なるほどね。
「これとか良くないか?」
シンプルなシルバーの指輪を指差す。
「100万……いや、悪いよ」
「気にするなっての。水筒で儲かったし、これからも儲かる予定だ。それに100万ミルド程度ならお前の価値には釣り合わないくらいだ」
「仮面を被っていないエリックが言いそうにないセリフだ……」
フルフェイスを被った方が良いか?
「こういう時くらい言うわい」
「うん……しかし、なんでこんなに高いんだろう?」
高いな。
俺が銀で作ったら1万ミルドもかからない。
「これは南部の方でしか採れない白聖銀だ。教会の神事で使われる神聖なやつ」
「ほー……いいの?」
「ああ。そういう約束だっただろ」
指輪はちゃんと買うっていう約束だった。
「そっかー……じゃあ、エリックが選んでくれたこれにする」
「わかった」
店員を呼び、これを買う旨を伝えた。
すると、アンジェラの指のサイズなんかを測り、合ったものを持ってきてくれたので金を支払う。
そして、その場で指輪をはめてやり、店を出た。
「ほー……」
アンジェラが夕日に染まる空に手を掲げ、指輪を見る。
「ミルオンの町に帰ったら神父さんのところに行って、祝福をもらおう」
「うん……ケーキ焼くね」
どうも。
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