第010話 寒い時季の方が好きなアンジェラちゃん
しばらくすると、ケーキとお茶を持ったアンジェラが戻ってくる。
「はい。どうぞ」
「悪いな」
俺達は休憩にすることにし、お茶を飲む。
「作戦会議って何だ?」
「昨日のパーティーメンバーの件。ギルドのヴィオラに相談したらやっぱり店長と同じ意見でもう1人か2人くらい入れた方が良いって言われたんだってさ。まだ浅いところはいいけど、奥に行くなら必須って」
あのヴィオラもちゃんとギルド職員としてやっているんだな。
ホント、皆、大人になったわ。
「それで誰を誘うかの会議か」
「みたいね。『アンジェラちゃん、全身鎧を着て、剣を持たない?』って聞かれた」
無茶言うな。
下手をすると、アンジェラは一歩も動けんぞ。
「冗談だと思うが、無理に決まっている」
「そもそも私は片手間だから無理よ」
アンジェラはウチの従業員だからな。
「となると、誰だ? それこそアーヴィンのところのパトリックか?」
「ないんじゃない? 軍に入りたいみたいだし」
そう言ってたな。
「どうすんのかねー?」
「それは2人で考えるでしょ。フルフェイス・マスクマンがパーティーに入るのはやめてね」
さすがにそれはない。
「俺も仕事があるしな」
アンジェラが言うようにこの店を潰すわけにはいかない。
「そこもだけど、そこじゃない」
わ、わかってるよ。
フルフェイス・マスクマンは見守り系ヒーローなんだ。
休憩を終え、仕事と変装グッズの改造を再開すると、住居スペースの扉が開き、メアリーとカトリーナが出てきた。
「エリックー、ちょっと出てくる」
んー?
「どこ行くんだ?」
「シャーリーのところ」
シャーリー……肉屋のバリーの娘だ。
こいつらと同世代であり、剣術を得意としている子である。
「ついでに晩飯を買ってきてくれ」
「りょーかい。アンジェラちゃんも一緒に食べようよー」
「そうね……そうするわ」
「じゃあ、買ってくるー」
メアリーはカトリーナを連れて、ご機嫌に出ていった。
「夕食をご馳走になるわ。ま、私が作るんだけど」
アンジェラは昼食もだが、よく夕食も作ってくれる。
「悪いな。昔から料理をしていたし、好きなのか?」
正直、俺は得意ではないから助かった。
「あー、はいはい。好き好き」
何故に呆れる?
「それにしても、あいつら、シャーリーを誘う気か?」
「良いんじゃない? シャーリー強いし」
あいつ、騎士になりたいんじゃなかったっけ?
アーヴィンに剣を習いに行ってたし。
「シャーリーが受けるかね?」
「さあ? メアリーが上手く誘うんじゃない? 交渉事は上手だし」
そうかなー?
俺達が仕事をしながら待っていると、メアリーとカトリーナ、そして、赤みがかかった金髪の女の子がやってきた。
肉屋の子のシャーリーだ。
シャーリーは背が高く、すらっとしているし、姿勢も良いために立っているだけで絵になる。
「おじさん、アンジェラさん、こんにちは」
シャーリーが挨拶をしてくる。
「よう」
「いらっしゃい」
俺達も挨拶を返した。
「おじさん、これ」
シャーリーが袋を渡してきたので見てみると、中身は鶏肉だった。
「いくらだ?」
「2000ミルド」
ミルドがこの世界の通貨単位だ。
「じゃあ、これ」
袋をアンジェラに渡し、料金を支払った。
「まいど。それとだけど、お父さんが良い感じの肉切り包丁を作ってくれって」
良い感じっていうのがアバウトすぎるな。
「わかった。ウチの娘に冒険者にならないかって誘われたか?」
「うん。それで来た。作戦会議らしい」
ということは冒険者になるわけか。
「いいのか? お前、騎士になりたいんじゃなかったっけ?」
「それは変わってない。でも、今の自分ではなれるだけの実力がないのもわかっている。だから冒険者になって経験を積もうと思っていて、冒険者カードだけは持っているんだ」
この子はメアリーとカトリーナよりも1歳上だ。
すでに冒険者登録をしていたらしい。
「そうかい。勉強もしろよ。騎士の試験は座学もあるぞ」
「うん。頑張っている」
こんなに良い子で真面目なのに親父と口を利かない時期があったのか。
ウチもそうなったらショックだな……いや、ウチの子はまったく黙らないおしゃべりか。
「頑張れ。それとメアリーとカトリーナを頼むわ」
「うん。任せておいて」
これで少しは安心かな?
「シャーリー、こっち、こっち」
メアリーが手招きする。
「お邪魔します」
3人が奥の住居スペースに向かったので仕事を再開する。
しばらくすると、17時前にはカトリーナとシャーリーが帰っていったので夕食をアンジェラに任せ、店の片付けをした。
そして、3人で夕食を食べる。
「メアリー、無理やりシャーリーを誘ってないだろうな?」
「無理やりじゃないよー。『一緒に伝説を作らない?』って聞いたら『いいよ』って」
伝説……
こいつ、こんな感じでカトリーナも誘ったんだろうか?
そして、2人共、頷いたのか……
「伝説は作らなくていいからコツコツやれよ」
「なーにを言ってんのさ。やるからにはメアリー・ローウェルの名前を世界に轟かせ、各ギルドに銅像を建てられるような歴史的人物にならないと」
壮大だな。
夢は大きい方が良いと言うが、なんでこいつはバカっぽいんだろう?
「そういう人物でも最初はコツコツやっているから地道にやっていけよ」
「わかってるってー。今日、そういう話をしたし」
まあ、カトリーナとシャーリーがいれば大丈夫か。
「明日も行くのか?」
「うん。シャーリーを入れて3人になったし、確認と修行を兼ねて、森の浅いところでわちゃわちゃやる」
その擬音はよくわからないが、良いことだな。
「迷惑をかけないようにな」
「わかってるってー。エリックは心配性だなー。やっぱり娘が可愛いんだな。うんうん。わかる、わかる。でも、仕方がないよー。あははー。ごちそうさまー。お風呂行ってくるー」
メアリーはこちらが何かを返す前に矢継ぎ早に言い終え、風呂場に行ってしまった。
「1人でよーしゃべる奴だ」
さすがはタンスに説教をする女。
「私もご馳走様。じゃあ、洗い物をして帰るわ」
アンジェラも食べ終えたようだ。
「いや、洗い物は俺がする。それに送っていこう」
「暴漢が出たら守ってくれるの?」
アンジェラが嬉しそうに笑う。
「もちろんだ」
平和な町だし、暴漢なんて出ないけどな。
せいぜい酔っ払いぐらいだ。
「じゃあ、お願いする」
俺達は立ち上がると、家を出て、アンジェラの家に向かって歩いていく。
辺りは暗くなっているが、ぽつりぽつりと街灯があるので真っ暗というほどでもない。
「夜もだいぶ暖かくなったな。外を歩きやすくなったものだ」
「そうね…………明日は行くのよね?」
もちろん、メアリーのことだろう。
「シャーリーに迷惑をかけていないかの確認だな」
「はいはい。ほどほどにね」
俺達はそのまま歩いていくが、アンジェラの家は100メートルも離れていないのですぐに着く。
「じゃあ、おやすみ。また明日な」
「うん。おやすみ……」
アンジェラが家に入っていったので家に戻り、洗い物をする。
そして、メアリーが風呂から上がってきたので俺も入り、寝る前に変装道具の改造を行い、就寝した。
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