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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第四章 諸行無常

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第42話 「卑怯者」


 夏の雨が降ってきた。

 夕立だろう。

 降りはじめから雨足が強い。


(また、雨か)


 大川は、ふと天童侑李との決闘を思い出す。


(だが、きょうのは恵みの雨だぜ)


 多勢に無勢だが、勝機が出てきた。

 浴衣を脱いで褌一丁になる。

 刀を抜いて、鞘は捨てる。


「おい、小僧ども。刀の遣い方を教えてやる。かかって来い」

「ち。老いぼれが、ほざくな!」


 賞金首がどうの、と言っていた男が斬りかかってくる。

 予想通り、大上段からの振り下ろし。

 その刀を大川は腰をかがめてやり過ごしながら、男に足払いをかける。


「うお」


 勢いあまって転がった。

 手放した刀を、大川が取り上げる。

 その刀をうつ伏せる男の耳元に突き刺す。


「ひいい!」

「まず、足元を固めろ。基本だ」


 別の男が斬りかかる。

 これも大上段。

 刃を鍔で受け止める。


「馬鹿の一つ覚えみてえに振り下ろすな。斬れてもかすり傷にしかならん」

「なにをお」


 人間の心理として、裸の人間を斬るのはかなりの覚悟を要する。

 自分のためらいを断ち切るため、自然と勢いをつけた大上段からの振り下ろしになりがちなのだ。

 大川は衣服を脱ぎ捨ててその心理状態を作り出し、太刀筋を読み切っている。


「刀は、切るもんじゃねえ。まず…」


 男の足のつま先を突き通した。


「突く」

「うぎゃあああ」


 つま先には神経が集中している。

 男は刀を放り出して、のたうち回った。


 たったふたり倒されただけだが、多勢にまかせ油断していた男たちが慎重になる。


「そもそも刀の選び方を間違ってやがる。鍔なし柄巻なしの白鞘」

「それが、どうした!」


 また別の者が、今度は突きに来た。

 大川がよけながら、柄頭で相手の手元をはたく。

 刀が手から滑り落ちた。

 白鞘には滑り止めがないため、グリップが利かないのだ。


「この雨じゃ握り切れねえ。刀ってより棒っ切れだ。こんなモンしかねえのなら、出直した方が身のためだぜ」


 大川の言葉に暗示にかけられたかのように、襲撃者たちの動きが止まった。

 貫禄、そして気迫に押されている。


「獲物一匹に、何をモタモタしてるんだ?」


 固まった群れの背後から、洋装の男が現れた。


「会長」

「桜田さん!」

「まったく。これだけの駒を揃えたのに、なんというザマですか?」

「す、すいやせん」


(桜田?そうか、こいつが民同会の会長か。てこたあ俺は、愛国会の一員として狙われてるわけか)


「これだから古いヤクザは使いものにならない。やはり、革新が必要だ」

「おいおい、坊や。偉そうに宣わるんなら、おめえから来たらどうだ?」

「行くさ。刀じゃなければいいんだろ?」


 桜田が背広の内側から、拳銃を取り出す。


「これなら雨は…」


 言い終える前に引き金を引いた。


「ん!」


 銃弾は大川の左肩を貫いた。


「関係ない」





「坂崎、乗れ。そっちの子分も助手席で道案内しろ」


 星児が運転席に座る。


「お、すまねえな。天童」

「許嫁者のお遊びに付き合ってもらった礼だ」


 車を走らせる。


「で?大川辰吉は誰に襲われたんだ?」

「へい。どうやら民同会の連中のようです」

「民同会?確か愛国会の敵対組織だろ。てことは、大吉一家も愛国会に入ったのか?」

「ウチには後藤と言う若頭がいてな。その人が会の偉いサンと昵懇で、名前を貸すだけって話だったんだ。大吉一家は東京市の最大組織だから箔が付く、てな」

「ところが愛国会の連中、ウチの名前で民同会を挑発しやがって…」


 子分も坂崎も、所属している民同会のことを快くは思っていないようだ。


「それにしても、いきなり総長を襲うとは。民同会ってのはどういう団体なんだ?」

「だから、トウシロなんだよ。ほとんどの構成員は、労働組合の勤め人とか土建屋や港湾の人夫たちなんだ。渡世のしきたりを知らねえんだよ。ふつうはまず、どっかの組の若衆を襲って相手の出方を見るもんだが、それがわかってねえ」

「先手必勝を狙った、ってことはねえのか?」

「ヤブヘビだな。これで愛国会は一枚岩になる。オヤジさんはそれほどの人望を持ってる」


 いわゆるカリスマであり、象徴だ。

 象徴を汚されて黙っているはずがない。


「だが、その総長が斬られたんじゃあ…」

「いえ。斬られちゃあいねえようです」

「さっき『襲われた』って言わなかったか?」

「撃たれたそうです」

「撃たれた?」


 嫌な情報だ。

 自分が撃たれたとき、憲兵とそれを操る華族が関わっていた。

 今度もまさか。


「で、命の方は?」

「ああ。いや、それが……」




 左肩を撃たれた大川だったが、自分の傷を確認するとその場で踏みとどまった。


「大川総長。もう斬った張ったの時代は終わったんだ。これからは極道も科学技術を扱いこなせないと務まらないんだよ」


 得意満面の桜田だったが、周りの空気が変わったことに気づいていない。

 

(おい。今、刀相手に飛び道具を使ったぞ)

(しかも、不意打ちだった)

(卑怯、なんじゃないか?)

(いや。卑怯だろ)


 見物人はおろか、味方のはずの民同会構成員すら引いている。


「おい。まだ、名前を聞いてなかったな。おめえの口から言ってみろ」

「……」


 大川に問われてはじめて、自分が名乗っていなかったことに気づく。

 戦うときの最低限の礼儀だ。


「は?見りゃあわかるだろう?俺はこの民同会の…」

「何だって?」

「だから俺は、極道の世界にデモクラシーの風を吹き込む、民同会の…」

「おい、聞いたか?民同会の言うデモクラシーってなあ、卑怯な手を使ってもいい、ってことらしいぞ!」

「な…」


「卑怯だぞ、ミンドーカイ!」

「正々堂々と喧嘩しろ!」

「みっともねえ!」


 途端にヤジが飛んできた。

 見物人を敵に回したのだ。

 思わぬ展開に桜田が歯噛みする。


「うるせえ!黙れ!」


 パーン!

 興奮して空に向けて発砲する。


「俺たちはヤクザだ。喧嘩なんてなあ、勝てばいいんだよ!」


 静まりはしたが、周囲の非難の眼は決定的になった。




つづく




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