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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第3章 生々流転

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第40話 「お見合い稽古」


 大正12年(1923年)8月。

 民同会に所属する高田組の博徒・川瀬という男が、大吉一家の沢村組の盆で丁半賭博をした。

 この日はついていなかったため、持ってきた一升瓶で酒を飲みながら悪態をつく。


「おいおい。なんでさっきから丁ばっか出てんだよ。サマでもやってんじゃねえのか?」


 サマという言葉に反応した胴元の高田が、川瀬に歩み寄って耳打ちする。


「お客さん。飲み過ぎじゃあござんせんか?ちょいと外で、頭を冷やされた方がよござんすね」

「ああ?この盆じゃ酒も飲めねえのかよ。ち。なら、河岸変えさせてもらうぜ」


 おとなしく帰るかと思ったが、川瀬は去り際に瓶の中の酒を盆に撒き散らした。

 これから壺を上げようかというときだったので、客が気色ばむ。


「こら。てめえ、何しやがる!」

「おっと、すまねえ。勝負に水を差すたあ、このこったな。わはは」

「てめえ!」


 川瀬は沢村組の若衆に連れ出されて、叩きのめされた。

 ただ渡世において、この程度は日常茶飯事だ。

 厄介だったのは、川瀬が高田組ではなく民同会に泣きついたことだった。


「俺は博打なんてのはデモクラシーに反するから、注意をしに行っただけなんです。ところがあいつらは『そんなもんクソくらえだ』と言って、大勢で暴行を加えてきたんです」

「ほう。デモクラシーを否定する愚か者か。これは再教育する必要があるな」


 桜田直也はインテリヤクザで、極道の世界にも革新を起こすべきと民主同道会という政治色の強い団体を立ち上げた人物だ。


(このところわが民同会に対抗して、古臭いヤクザどもが愛国会とやらを組織したようだ。いい機会だから、ここらで一戦交えてみるか)


 つまり川瀬某の言い分などどうでもよく、きっかけになるのなら喧嘩をしてみたい。

 それだけだった。


「川瀬くんとか言ったな。きみの無念はわれわれ民同会が晴らす。この話はここだけに留めておいてほしい。きみの親分・高田組長にも秘密にしておいてくれ」

「あ、いや。しかし、それでは極道としてのスジが…」

「だから、その古臭いしきたりが問題なのだ。スジだの仁義だの、合理性のない風習を打破せねば、この国の極道は滅びるしかないのだ。今は組での自分の保身を優先する時ではない!」

「は、はあ。すいやせん」


(さて。古い体制派どもの、どこから攻めていくかな?)


 桜田はただ、生きた人間を駒にして戦争ゲームがしたいだけだった。





「清流院凛音です。よろしくお願いします」

「天童星児だ。よろしく頼む」

「田中小梅ですだ。よろしくお願いするだ」

「オイラ、六平だ。よろしく」

「権俵よしこです。よろしくお願いいたしますわ」

「…おい。天童」

「よし。男の子三人と女の子三人。無事揃ったことだし、ここでみんなで山手線ゲームでもしよう!」

「げーむって何だ?」

「また、ぎゃる弁ですだか?」

「う~ん。あ、お遊戯?って言えばわかる?」

「おい。天童!」

「どうした、坂崎。山手線は乗ったことないか?」

「そうじゃねえ。なんで俺がここにいるんだ?」

「なんだ。記憶喪失か?」

「て、め、え!」





 ほんの10分ほど前。

 星児は乗馬倶楽部の帰りに自動車に乗って、厩務員の少年・六平と新橋に来ていた。

 カフェ清流で凛音に頼まれごとを受けていたからだ。

 その時、新橋でうろうろしている坂崎組の組長を見かけた。

 護衛らしき子分をふたり連れている。


(キッドでごまかそうと思ってたが、こいつでもいいか)


 車の中から声をかける。


「おい、坂崎」

「……天童?おめえ、こんなとこで何してやがる?」

「こっちの台詞だ」

「俺は、新橋にいる兄貴分に挨拶に行った帰りだ」

「なら、もう暇だな。ちょっと面を貸せ」

「……」


 関東一のドスの遣い手が懐に手をやる。


「この間のケリをここでつけようってのか?俺は、別にいいぜ」

「……ついて来い」


 星児が車を降りる。


「おい。おめえらは先に帰ってろ。後で加勢があったから負けた、なんてほざかれちゃかなわねえ」


 子分ふたりが一礼して去って行く。

 星児は六平と坂崎を引き連れて、カフェ清流に入って行った。


「天童。店の中じゃドスは抜けねえ。こんなとこじゃ…」

「いらっしゃいませ。三名様ですか?あ、なんだ。店長の許婚者の天童さんじゃないですか」

「凛音に『いちおう連れてきた』って伝えてくれ」

「おい。天童!」

「坂崎。おまえに『合コン』の楽しさを教えてやるよ」

「ごーこん?」





 そして、今。


「天童。ちゃんと説明しやがれ!」

「えっと、坂崎くんだっけ?あーしから説明するね。坂崎くんの前に座っている、さっき自己紹介したあーしの友達・権俵よしこ。あの子が今度、お見合いすることになったのね」

「…そ、それがどうした?」

「坂崎。それがどうした、はないだろ。ここは『いいひとだといいね』だろ」

「はあ?」

「でもよっちゃんはずっと女学校にいたから、17になる今まであまり男の子と会話したことがないわけ。ここまで、わかる?」

「あ、ああ」

「でね。よっちゃんに男慣れしてもらうために、星児さんに男の子を用意してもらって、会話の練習をさせてあげようってことなのよ」

「それが、なんで俺なんだ?え?天童」


 たまたま見かけたから、とは言えない星児が目をそらす。


「そりゃあ…坂崎はちっちゃいけど男前だし、きっぷもいいし…あ、そうだ。この間なんかも、この子が怪我した時医者に診せてくれたし。な、キッド」

「うん。坂崎さん、優しいよ。ちっちゃいけど」

「ちっちゃい、は余計だ。小僧。それと天童」

「まあ。素敵!素敵ですわ!」

「え?」

「わたくし、子どもやお年寄りに優しい殿方に憧れますの。坂崎さま!」

「お、おう」

「不束者ですが、どうかお見合い稽古のお相手をお願い申し上げます」


 華族令嬢に頭を下げられ、坂崎は断れなくなった。


(お見合いの稽古だと?サシの喧嘩よりおっかねえぜ)




つづく


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