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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第3章 生々流転

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第34話 「大正文化」



「親分。賭場の件は承知しやしたが、ほかのモンはどうやってしのいでいけば?」


 佐久間が心配そうに星児に訊いてくる。

 確かにカネの目途は立っているが、組員を遊ばせておくわけにもいかない。


「ああ。そこだ。これからの天童組のシノギのキモは…『興行』だ」


 しまった。

 テキトーなこと言っちまった。

 星児の中の小百合が舌打ちをする。


「興行、ですかい?しかし、そういうのは他の組も…」


 江田島が助け舟を出す。


「うん。相撲や能、狂言、それに歌舞伎なんかは入り込む余地はねえな。だがハイカラな演芸には、まだそれほど手はつけられてねえんじゃねえか?」

「ハイカラな演芸?あ!」


 若い組員が声を上げる。


「たとえば、歌唱ものっすね?いま流行りの松井須磨子や田谷力三みてえな、レコードを出しやあバンバン売れる歌唱ものなんか、いいんじゃねえっすか?」

「う、うん。そうそう、マツイ?タヤ?それそれ」

「三浦環や東海林太郎なんかも、大人気でさあね」

「うんうん。いま俺も言おうと思ってたやつらだ。まあつまり、アイドル……」


 いや。

 アイドルという言葉は通じない。

 概念すらない。


「…大衆歌手?を売り出していくんだ。そうすりゃあおめえらだって、やりがいも出てくるだろう?」

「松井須磨子の歌を世に広めたのは俺たちなんだぜ、って田舎の親戚に自慢できやすね!」

「おお。そいつあいいや!おもしれえ!」


 郷里の親戚には顔向けできないヤクザ者たちだ。

 いつかは見返してやりたい、という反骨心がくすぐられたようだった。


(アホギャルのことが頭に浮かんでつい口にしちまったが、なんか良さげ~、ってやつなのか?)


 やらざるを得なくなってしまった。


 


 土曜日のカフェ清流は、貸し切りになった。

 芥川龍之介が文壇や演劇、美術界の知人を連れてきてくれた。


 谷崎潤一郎、志賀直哉、新劇の父・小山内薫、竹久夢二などそうそうたる顔ぶれだった。

 大学出のインテリ霧子などは、足がガタガタ震えている。


「ね。霧子さん。そんなにすごい人たちなん?」

「あ、あ、当り前です!いまこの店が火事にでもなったら、大正文化そのものが焼失します!」


(へえ。でもみんなには言わんとこ。緊張させるし)


 向こうの席で、芥川と谷崎、志賀がライスオムレットを食べている。

 凛音が店長としてあいさつに行く。


「龍ちゃん。あんがとねえ。いっぱい連れてきてくれて~」

「やあ、ヤングマダム。貸し切ってもらって悪かったね」

「いいよお。どうせ半ドンは勤め人来ないし」

「お、おい。芥川くん。この可憐な少女は?」


 志賀直哉の方が、男子学生のように緊張している。


「ああ。ここの店長だよ。清流院家の若き当主でありながら、カフェの経営者というモダンレディだ」

「な、なんと!吾輩は、志賀直哉という文人です。どうぞ、よろしく」

「あーしは凛音だよ。直くん、でいい?」

「直くん?……う~~ん。是非!」


 谷崎潤一郎は、三人の会話に口を開けて目を丸くしている。


「天真爛漫。自由奔放。き、きみはナオミか?」

「はい?いや。凛音、つったじゃん」

「ああ。谷崎くんは今、新作の構想を練っていてね。そのヒロイン・ナオミというのがカフェ―の女給という設定らしいんだ。今日は彼に、ヤングマダムを紹介したかったんだ。ナオミの人物造形に悩んでいる、というのでね」

「た、谷崎潤一郎、だ」

「潤ちゃん?それとも、じゅんいちろー、って呼び捨てにする?」

「……呼び捨て、で」


 谷崎はこの翌年「痴人の愛」を発表し、純情な男主人公がナオミに翻弄される耽美主義の傑作となる。

 小悪魔的ヒロインはナオミズムと呼ばれ、何度も映像化された。

 そのモデルが凛音だったことは、文学史には書かれていない。





「あの山肌を、反響版の代わりにしたらどうだ?」

「ああ。なるほど、自然を利用して音を大きく響かせるわけですな?それなら材料費もかかりやせんね」


 星児は自分たちが爆破した旅館の敷地に、演芸場を作ろうとしていた。

 カチコミをかける前に監視した小高い山を背にして、ステージを造るアイデアだった。


「反対側に階段状の客席を、2000席くらい設えたいんだ」

「階段状?旦那は建築家の方ですかい?そんな演芸場は初耳ですぜ」


 施工会社の設計担当者が驚いている。

 星児がイメージしているのは、日比谷野音のような施設だ。

 当然この時代に、そんな建築物は存在しない。


「あとで図面を描いてみてくれ。それをたたき台にして設計図に起こしていこう」

「わ、わかりやした」


 星児も専門知識があるわけではない。

 前世の記憶をたどりながら、形にしていくしかないだろう。


(会場ができるまでは、櫓を組んで地べたにゴザでも敷いて使うしかねえか。さしあたって、夏祭りの盆踊り会場ぐらいはできんだろう)


 地の利はある。

 近くには目黒競馬場があり、日曜日は父親がそこで遊ぶ。

 それを待つ間、女子供がここで歌唱ショーなどを愉しめる。


(競馬も景品を賭けたお遊びだ。警官としての許容範囲だな)


 入れ物は確保できるだろう。

 だが、それではどんなイベントを興行として打ち上げるか?までは思いつかない。


(もと地下アイドルの意見でも聞いてみるか)





つづく



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