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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか(実録!知らんけど)  作者: 真夜航洋
第1章 凛音

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第3話 「 ガチャはSSR」


 凛音はその場で卒倒した。

 もともと心臓の弱い娘だった。

 一旦は、凛音は仮死状態となった。


「よし。獲物はとった。引き揚げろ!」


 床の間に飾られた「二代目 天童組」と書かれた看板を奪い、襲撃者は逃走した。

 それを追う者、星児と凛音を救助する者、リーダーを失った天童組は大きく動揺した。


 いずれにしろ襲撃者のカチコミは成功し、二代目天童組は敗れた。


 


「…てなわけで、お嬢には詫びても詫び切れねえ大失態でした。申し訳ございやせん」


 江田島はその場で土下座した。

 その頭を見下ろしながら、麗華がため息をつく。


「謝って済むことではありません。だから私はこの縁談には大反対だったのです。これからでも遅くはないはず。破談と致しましょう。いいわね?凛音…」


 見ると、凛音はうるんだ瞳で宙を仰いでいた。


(命がけで新妻を守ってくれるなんて、あーしどんだけ愛されてんのよぉ…ロマン。これぞ、大正ロマンだわ!)


 感無量。

 結婚ガチャもSSRだ!

 令和の現実世界では到底味わえない、大河ドラマのヒロインとなったことに酔った。

 ただそのヒロインは、転生する前の凛音ではあるのだが。


「凛音!」

「あ、はい」


 我に返る。


「あなたは命を落としかけたのよ。こんな縁談は白紙に戻していただきます。いいわね?」


 返す言葉もない江田島がうなだれる。


「あの。角刈り…江田?田島?さん」

「江田島です」

(どっちかにしろよ)

「それで、天童星児さんはどうなったんすか?その、容体は?」

「すぐに大きな病院に運んで、弾を抜く手術をしてもらいやした。ただだいぶ出血が激しかったようで、今朝方若は……」

「…」

「若は、死にました」

「え?死ん…だ?」


 ゆったりと温泉につかっていたところに、頭から冷や水をかぶせられたような感覚。

 麗華が立ち上がる。


「それは良うございました。破談手続きをする手間がはぶけた、というものですわ。もうこのような場所には用はなくてよ。さあ、帰りますわよ。凛音」


 否も応もない。

 なにせ、展開が早すぎる。

 情報が多すぎる。

 嫁いだ先の新郎が亡くなったとはいえ、顔も知らないひとに対して同情以外の感情も湧かなかった。




 T型フォードという古い乗用車に乗せられた。

 窓の外には映画やマンガでしか見たことのない景色が広がっていた。


(ここが……東京?)


 石やレンガで造られた建物。

 路面電車。

 ガス灯。

 道行くひとたちの大部分が着物姿。

 なのに、帽子や革靴、ショールを着けている。

 和洋折衷、とかいうやつだ。

 たまに目にするのは、モボ・モガと呼ばれる洋装の男女。

 まさに異世界だった。


(でも、なんか……映える。イケてる)


 そうだ。

 何周か回ってファッショナブルなのだ。


(もろもろ、悪くない転生じゃね?)


「凛音。気落ちするのではなくてよ」


 ゴージャスママが語りかける。

 いや、全然オケマルっす、と言いかける。 


「あなたには、もっといい別の縁談の話があるわ。明日からは改めて、花嫁修業に励みなさい。よろしいわね?」

「ああ、はい」


 花嫁修業が何をするのか、知らない。

 野球部みたいに朝練したり、滝に打たれたりするのだろうか?

 今のところいい事の方が多いが、華族でいるのも大変なのかもしれない。

 少しブルーになる。


 そうこうしているうちに、車は郊外に出た。

 しばらくすると、瀟洒な豪邸が見えてきた。


「着いたわよ。あなたはここで降りなさい」

「はあ。お母様は?」

「私は大事な用があるので、このまま行きます。あなたのことは女中たちに話してあるから、その者たちを頼りなさい」

「…はあ」

「いいこと。しばらくはおとなしくしているのですよ」


 ドアが閉まり、乗用車は走り出した。


(ええ?たいへんな目に遭った娘を、放って行くわけ?放任主義強すぎなんですけどお)


 まあ、自分もあの女性が母親だという実感も親近感もないのだが。


「おひい(姫)様あ~!」


 振り返ると、着物姿の巨漢がこちらに突進してきている。


(え?力士?)

 長い黒髪を振り乱している。

(髷を結う前の十両?)


「お帰りなさいましい~」

 両手でこちらの腰を抱え上げてきた。

(が、がぶり寄り?)


「おひい様。ご無事でしたか?」

 差されたもろ手に力が入る。

「…ええ。さっきまではね」

「へ?今は?」

「痛い!腰が折れそうよ。お、降ろして」

「ああ。こりゃ申すわけねっす」


 放してくれた。

 地べたに尻もちをついた。


「お、おひい様。立つのもつらいほど、お疲れに?んだば…」


 力士が後ろを向いてしゃがんだ。


「オラの背中におぶさるだよ。おひい様」

「…」

「ほれ」


 言うとおりにした。


「でも、よかっただあ。ひい様がご無事で。あだすはほんどに心配で、心配で…グス」


 おんぶされているので顔は見えないが、この人は泣いてくれているようだ。

 それに背中の体温が実感を与える。


(そうか。このあったかさ……やっぱ、夢じゃないんだね)


 話だけを聞いていると、どこか空想の世界のような気がしていた。

 だが、どうやら女性らしいこの力士だけは実体として認識できる。


(ってことは、この転生だかタイム・リープだかも現実ってことなんだろうな)




つづく




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