第26話 「告白」
令和なら「チューゥ。チューウ」とはやし立てられていただろう。
居合わせた女性達の期待の眼が、星児に注がれる。
(すげえ威圧感だ。ヤクザに取り囲まれるよりこええ!…ん?)
今か今かと待ちわびる群衆の中に、江田島の姿もあった。
瞬きするまいと拳を握りしめている。
(なんでおめえが一番ワクワクしてんだよ!)
悪い流れを断ち切らねばならない。
「できるわけねえだろ。そんなこと」
「あら、なぜですの?このままでは、姫は永遠に眠り続けますわよ。王子」
「俺は王子じゃねえし、凛音も姫じゃねえ。心臓発作じゃねえんだったら、余計な事せずに安静にしてやった方がいいに決まってんだろ」
(しまった。バレたか)
よしこが舌打ちする。
(よし。ここだ)
一時は期待したが、さすがにホンモノの凛音に申し訳ない気がしていた。
悪ノリの嵐が止んだところで、凛音が目を覚ます。
「う。うう~ん」
「お嬢様が」
「ひい様!」
「……あ、星児さん。みなさまも。わたくし、いったいどうしてしまったのかしら?」
星児が駆け寄り、手を握る。
「凛音。大丈夫か?」
「ええ。ほんの少しめまいがしただけですわ。星児さんがいらっしゃるということは…ああ、そう、お見合いでしたわね。また、記憶が乱れてましてよ。おほほ」
星児の手前、本来の凛音っぽい芝居をした。
不本意だが、権俵よしこと叔母を参考にしている。
いつもと違う言動に、女性達が不審がる。
(ひい様が華族みてえに…あ、華族ですだ)
(バカが治ってる?あ、いいことですわね)
(あれ?どっちだっけ?)
令和で言うところの、キャラがブレブレだ。
(だがここは、こっちのキャラで罷り通る!)
凛音がすっくと立ちあがる。
「さあ。それではわたくしと天童星児さんのお見合いを始めますわよ。霧子さん」
「あ、はい」
「約束通り、みなさまにはお帰り頂いて、ここはふたりだけにさせていただきます!」
断固とした態度で霧子を睨む。
「ええ、そうでした。さあ、みなさん。宿舎に帰りますよ」
「ええ~」
「先生。もう少し」
「お見合いは、当人だけでするものです。行きますよ」
不承不承に女中たちが帰り始める。
よしこや江田島も追い出されていく。
「リンちゃん。わたくしは仲人だし、残っても…」
「若い二人だけのお時間ですわ。叔、母、さ、ま」
「ん~ん。でもでも…」
「あとで、ちゃんと報告しますから!」
「しゅん」
ほかに誰もいなくなったカフェ。
あらためて、ふたりが向き合う。
「あの……清流院凛音、と申します。よろしくお願いします」
「あ、ああ。天童星児だ。ずいぶん長いこと待たせてしまった。すまん」
本当に律儀なようだ。
ヤクザの組長が深く頭を下げる。
「あの。本日はお日柄も良く」
「うん。五月晴れ、だったな」
そこで途絶えた。
「あの。縁談を進める前に、聞いていただきたいことがあるんです」
「…」
「きっと、こいつは頭がおかしくなったのか、とか、笑えない冗談だ、とか思うと思うんすけど。話しておかないと、あーしの、その、ギャル道がすたるんです!」
「ぎゃる道?」
前世でギャルを始めたのは、近所に住む美咲という年上のお姉さんの影響だった。
美咲はつねづね言っていた。
「いい?ギャルっつーのはさ、愛にだけは忠実なんだ。そこだけは譲っちゃダメなんだよ」
「愛にチュージツって…ミサキ姐さん、マジっすか?超重いんすけど」
「重いさ。愛は地球より時間より重いんだよ」
「…」
「親がうぜえのは、あーしらが親の愛を見過ごしてるからだ。彼氏が浮気すんのは愛が足りないからだ。どっちも、てめえの承認欲求に負けてっからだ」
彼氏のことはわからないが、自分は母子家庭だ。
シングルマザーの母を尊敬も愛してもいる。
ただときどき、うざくなる。
「うぜ。死ね、ババア」と言ってしまった日、姐さんに相談をした。
「ギャルは、愛にだけは嘘ついちゃダメなんだよ」
さっき上空から見ててわかった。
凛音と目の前の男の人は愛し合っている。
そのひとに嘘はつけない。
あーしは、ギャルだから。
ミサキ姐さん。
言うよ。
「あーし、清流院凛音じゃないんす。見た目は凛音だけど、中身は違う人間なんす」
唖然としている。
当然だ。
「最初から話しますね。あーしは…あ、あーしってのは私って意味っす。あーしは今から100年後の令和って時代でギャルってのやらせてもらってて、名前はサーセン、匿名でオネシャス」
頭を下げる。
「何を謝ってんのかわかんねえが……続けてくれ」
「あざっす。そこで、自分なりに頑張ってたんすけど、いろいろあって、崖から飛び降りまして、そんでまあ、死んじゃったんす」
「……」
「ところがっす。目を覚ましたら、この清流院凛音になってったんす。正確には凛音の体に魂だけが乗り移ってたっつーか、こういうの大正の人にはハテナでしょーけど、令和の小説とかアニメじゃ転生つって……」
「もういい!」
星児が話を遮った。
頭を抱えている。
当然だ。
怒らせてしまったかもしれない。
これも当然だ。
さっきまで再会の熱い抱擁を交わした女が、急に訳の分からないことをまくし立てているのだから。
あれは何だったんだ?
俺はおちょくられていたのか?
そんな風に思ったかもしれない。
このひとを傷つけたかもしれない。
(嘘をつくことは簡単なのに、つかないことがこんなに難しいって……)
「あ、つまりその…この縁談はなかったことに…」
「いつだ?」
「はい?」
「崖から飛び降りたのは。令和何年何月何日だ?」
「え?ああ、4年4月4日っす。4並びなんで覚えてるっす」
星児が大きくため息をつく。
「やっぱりそうか。あのときの…」
「はい?」
「俺も……転生者なんだよ」
はい~~~???
つづく




