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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第2章 天星

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第23話 「ホースチェイス」


 隣の厩舎にいる厩務員に訊く。


「おい。ここにいた連中はどこへ行ったか、わかるか?」

「ああ。確か馬を荷車に乗っけて、自動車でいてったな。目黒通りを東に走ってったぜ」

「いつだ?」

「30分も経ってないと思うが」

「荷車…馬運車には何か書いてなかったか?」

「ええと。丸字に『坂』だったかな。たぶん馬主のだろ」

(大吉一家坂崎組……確か、築地の組だったはずだ)


 スカイキッドの厩舎に戻る。

 こちらも馬運車に乗せるところだ。


「テキ。スカイを貸してくれ」

「そ、そりゃオーナーの馬ですからいいですが。何かあったんですかい?」

「六平がさらわれた。こいつに追わせる」

「誰が乗るんです?」

「俺だ。鞭をよこせ」


 レース後でさいわい鞍も積んである。

 ひらりと飛び乗る。


「スカイ。レースの後で悪いが、おめえの兄ちゃんの危機だ。もうひと踏ん張り頼む」


 ポンポンと首を叩いてから、鐙を蹴る。


「ハッ!」


 馬は何かを察したのか、レースさながらに飛び出した。


 目黒通りを走る。

 当時の公道には自動車はあまり走っていない。

 馬運車を牽引しているのなら後ろからでも目立つし、追いつけるかもしれない。


(だが、見合いの時間には間に合いそうにねえな)





 結局一周回って、着物になった。

 

(慣れないわあ。帯はきっついしトイレ我慢しなきゃだし)


 正午。

 約束の時間になった。


「失礼しやす!」


 現れたのは江田島だった。


「ウチの二代目は、やっぱりまだのようですね」

「あら。何かございましたの?」

「はい。実は今朝方目黒の方に仕事の用がありまして、そのあと組に戻って着替えてからこちらに伺うと言ってたんですが……」

「戻ってらっしゃらない?」

「へえ。用事が長引いて直接行ったのか、と思って来てみた次第です」

「あら。困ったわねえ」


 この時代は、固定電話も普及していない。

 あるのは大企業か国の官公庁だけで、使用料は年間45円……家一軒が買える値段なのだ。


「約束は必ず守る、律儀なひとなんですがねえ」

「何か事故にでも遭っていなければよろしいですわねえ」

「いや。車にはねられても死ぬひとじゃありやせん。そこんとこは心配しちゃいねえんですが……」


 星児はこの場で縁切りを、別れを告げる気だ。

 あるいは、足が重いのかもしれない。


「あっしもこちらで、待たせてもらってもいいですかね?」

「どうぞどうぞ。珈琲でよろしいかしら?」


 凛音は、ほっとしたような肩透かしを食らったような気分だ。


(いやいや。先送りになっただけだ。油断はなるまいぞ)




 目黒通りを東に走り、北へ向かう街道に入った。

 行先が築地だと目星をつけたからだ。

 だがもう長いこと走っている。


(下手すりゃ、築地の組事務所に逃げ込まれちまうな)




 六平が馬運車の中で目を覚ました。

 後ろ手に縛られている。

 足も口もだ。

 馬運車の中を見回すと、黑鹿毛の馬が横たわっている。


 運ばれるときの馬は立ち寝をする。

 何かあったらすぐに動けるようにだ。

 こんなにぐったりとしているのは、興奮剤の反動だろう。

 息はしているが、目をひん剝いている。


(くそ。ひでえことしやがる。ぜってえ許さねえぞ!)


 だが自分は猿ぐつわをかまされ、手も足も縛られている。

 何もできない無力感。


(スカイの仇、この黑鹿毛の仇……ちきしょう。オイラはなんでガキなんだよ!)


 


 そろそろ街中に入っていく。

 日本有数の市場が見えてきた。

 だが、この辺りでも乗用車は稀だ。


(エンジンの音だ、捉えたか?)


 馬運車のガタガタ揺れる音も一緒だ。

 間違いない。


 鞭を入れる。

 みるみる荷車に近づいていく。

 至近距離に来たところで、両膝で鞍を締める。

 減速する。


(騎手の意図を汲み取れる、賢いいい馬だ。乗馬向き、か?)


 馬運車の中に人の動く影が見える。


「キッド。俺だ。助けに来たぞ。返事しろ!」


 反応した。

 頭を上げる。

 口がふさがれている。

 手足も拘束されているのだろう、と判断する。




「兄貴。なんか妙な馬がついてきやす」

「なに?」


 兄貴と呼ばれた着流しの男が、窓から首を出して確認する。

 この頃の自動車には、バックミラーも窓ガラスもない。

 馬に乗った白スーツの男が、馬運車を覗き込んでいる。


「憲兵じゃねえようだが、用心のために速度を上げろ。引き離せ」


 ハンチング帽の運転手が、アクセルを踏み込んだ。




 引き離されていく。

 そろそろ、坂崎組事務所に通じる道に差し掛かる。

 やはりそこに逃げ込んで、やり過ごすつもりだろう。


(追えない速度じゃねえ。ただ、車は疲れねえがスカイはレース明けだ。なにか…)


 鞍に結びつけられた麻袋を探る。

 いいものが見つかった。

 スカイキッドの替えの蹄鉄だ。

 馬運車の中に向けて叫ぶ。


「キッド、起きろ!起きて、飛び降りる準備をしろ!」


 六平がのそのそと上半身を起こす。  

  

「スカイ。すぐに休ませてやる。第4コーナー、ラストスパートだ!」


 ビシッという鞭の音。


 スピードを上げたとはいえ、大正時代の自動車で馬運車も牽引している。

 たちまち右に並んだ。

 運転席側だ。


「おい」


 運転手が星児の方を向く。


「寝てろ」


 ガラスのない窓から蹄鉄を投げつける。

 運転手の首がかくんと折れて、ハンドルが左に大きく切られる。


 自動車と馬運車が道の真ん中で転倒した。

 その反動で、中にいた六平と黑鹿毛の馬が道端に放り出された。


「キッド!」


 スカイキッドを反転させて、状態を確認する。

 馬体に守られながら転がった少年が、顔を上げる。

 猿ぐつわは外れている。


「オーナー!オイラは大丈夫です!それより、あの悪党を!」


 安堵して馬を降りる。


(ああ。成敗してやるさ。これからな)


 鞭をしならせて地面を叩いた。




 つづく



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