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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか(実録!知らんけど)  作者: 真夜航洋
第1章 凛音

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第2話 「 ドトーの祝言」

凛音は天童組二代目と祝言を挙げる最中に、抗争に巻き込まれたらしい。令嬢で極妻、という数奇な第二の人生が始まる。

 

 大事をとって、その日は一晩入院することになった。

 血染めの白無垢は寝間着に着替えた。

 外出用の着物も、誰かが持ってきたようだ。

 考えなければならないことがたくさんあった。

 だが転生する前の凛音の体力的な疲労と、今の凛音の精神的疲労が相まって何も考えることなく眠り続けた。


 翌朝。

 あの角刈りの男が迎えに来て、診療所のすぐそばにある天童家の私邸に通された。

 応接間で改めて話を聞く。

 

「話せば長い話になりやす」


 角刈りの名は江田島甚八。

 天童組の若頭なのだという。

 若頭は組のナンバー2にあたる立場だ。

 

 先代である天童組組長・天童侑李ユーリは、二年前にヤクザ同士の抗争により他界。

 壮絶な最期だったようだ。

 大黒柱を失い、周りの者は「この際組を解散すべきだ」と諭した。


「だけどあっしは、先代が遺したこの組を諦めきれなくてね」


 江田島は若頭として、残った組員やその家族たちと天童組の看板を守り続けた。


「この二年間の苦労ときたら、そりゃあもう聞くも涙、語るも涙…」

「すみません。で、あーしの話はどこで出てくるんっすかね?」


 待ちきれず、凛音が訊いた。


「幸いにも先代には、星児さんという息子がいた。そこであっしは、この若に二代目を襲名するよう説得をしたんでさあ」

「いや、だからァ」

「若の歳はまだ27。この渡世じゃひよっこもいいとこだ。せめて、嫁でも取って貫禄をつけさせなきゃ……そこでお嬢の出番だ」

「お。やっと、あーし登場」

「あんたは、ウチの二代目と見合いをしたんですよ」


(見合い?ああ、確かマッチングアプリの実写版だ)


 江田島の説明が続く。


「でもまあ、見合いはただの形式。あんたは先代の親友の娘でね。子供の頃から一緒にさせようって約束してたんでさあ」


 つまり、生まれた時から結婚する運命だった。

 天童組に嫁ぐ宿命だった?


「うっそ~ん」


 素っ頓狂な声が出た。


(ちょ待てよ。じゃ本人たちの意思は?恋愛感情は?コンプラは?結婚ハラスメントじゃね?)


 思っていることが表情に出ていた。


「覚えてねえようですが、見合いの席でお嬢はこう言ってやしたぜ。『こんな素敵な殿方でしたら、今すぐにでもお嫁に参りたいです』って」


 思い直す。


「あのう。その星児さんの写真なんてのは、あるんすかね?」


 見合いをするくらいだから、この時代でも写真くらいはあるだろう。


「写真?そんなもんはありやせんよ」

「はい?」

「写真なんてめったに撮るもんじゃねえっすよ。だからお見合いしたんでさあ」


 それがこの時代だ。

 ガーン。


(じゃあ今のあーしは、顔も知らない人の妻ってこと?)


「あ、いや。先代のお写真なら、ほれ、あすこに」


 この時代は、代々当主の遺影を客間の壁に飾る風習だ。

 示された先代・侑李の写真を見る。


(わ。なんかハーフみたいなイケオジじゃね?)

 

 聞いてみる。


「その星児さんは、この人に似てるんすか?」

「ですね。若の方がもう少し優男ですが」


 このハーフ顔を優しくしたのなら、顔面に問題はなさそうだ。


「星児さんの身長と体重は?」


 もしかしたら、この顔が乗っかったチビデブかも。


「6尺ちょっと、18貫目ってとこかね」

「いや。メートル!キログラム!」


 障子戸が開いて、入って来た麗華が口を挟む。


「6尺は180センチ。18貫目は68キロぐらいですよ」


(おお!モデル体型じゃん)


 どうやら見た目だけはSRのようだ。


「それと……きのう、祝言がどうとか言ってたけど?」

「ああ。記憶がないんでしたね」




 大正時代の結婚式は質素だ。

 来賓客を集めてホテルで披露宴、などというのは昭和の高度経済成長期以降の話。

 この時代は、新郎側の広間に身内を集めて三々九度の盃を交わす程度だ。


 天童星児と清流院凛音の婚礼もそうだった。

 白無垢の凛音と紋付き袴の星児が、媒酌人の前で盃を交わした。


 その時だった。


「おう、天童の。大吉一家だ。邪魔するぜ!」


 天童組の抗争相手である大吉一家が、婚礼の最中にカチコミ(殴り込み)をかけてきたのだ。


「天童。てめえのクビ、俺らがもらい受けるぜ!」


 日本刀を構えたヤクザたちが、障子を蹴破って乗り込んできた。


「くそ。無粋な真似しやがって」


 星児も予期していたのかもしれない。

 参列した身内の中に、懐にドスをしのばせた精鋭の子分たちを揃えていた。


 丁々発止の斬り合い。


「凛音。おめえは、俺の後ろに隠れていろ」


 星児は新妻に命じた。

 婚礼用の白無垢では身動きがとれず、逃げるに逃げられなかったからだ。


 不意を突いたはずの相手は、抵抗されることを想定していなかったのだろう。

 斬り合いでは決着がつかず、ついに拳銃を持ち出した。

 日本軍が使用している南部式拳銃だ。


「天童!かわいい嫁に傷を付けたくなけりゃ、組の看板を差し出しやがれ!」


 こともあろうに、銃口は凛音に向けられた。


「このくそが!」


 脅しだけのつもりだったのかもしれない。

 だが、拳銃を構える男に他のヤクザの身体がぶつかった。


「凛音!」


 引き金が引かれた。

 星児が身を挺して、凛音の前に立ちはだかった。


 銃弾は、星児の胸に命中した。


「だ、旦那さま!」


 凛音は無傷だった。

 だが、星児の返り血が白無垢を赤く染め上げた。


「いやあああああ!」




つづく




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