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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか(実録!知らんけど)  作者: 真夜航洋
第1章 凛音

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第14話 「初陣」


 その夜、従業員達は店に泊まり込んだ。

 みつえと栄子は、手際よく調理する練習をした。

 霧子は帳簿計算をしつつ、仕入れや価格の見直しを検討する。

 久美は、花と蝶子の新しいエプロンを手縫いした。

 

 そうなると、他の者も帰るわけにはいかなくなる。

 山田姉妹は、凛音に髪の結い方を教わったりメニューを覚えたりした。

 小梅だけは客席でグーグー寝ている。


「ひい様。これ、ただの一本しばりじゃないの?昔からあるやつだよ」

「ちょっち違うんだな。一本しばりは襟元でしばるけど、ポニーテールは髪をひっつめて頭の上の方で、こう」


 輪ゴムでしばられた黒髪が、垂れ下がって揺れる。


「横から見ると、仔馬の尻尾みたいでしょ?」

「ほんとだ。花、かあいい!ひい様。蝶子も、蝶子も」

(大正時代はカワイイじゃなくて、かあいい、なのか?でも、やっぱ可愛いものは時代を超えて、正義なのだ!)


 


「あら。そう言えば、結局これ一度も使わなかったわね?」


 こういう雰囲気が大好きで残っている雅が、蓄音機の前に立つ。


「ああ。余裕がなくて、すっかり忘れてた。せっかく持ってきてもらったのに、ごめんね。社長」

「いいのよ。それにこの機械、意外と難しいのよ」


 下の棚からレコード盤を一枚取り出して、ターンテーブルに乗せる。


「この針を下ろすときに、すごく集中しないと……あ!」


 針が飛んだ。

 スピーカーから大きな雑音がする。


「あん、もう。あたくし、いつもうまく乗せられないのよ……ん?」


 ゆきが興味深そうに蓄音機を見ている。


「あら、ゆきちゃん。やってみる?」


 ゆきが嬉しそうに頷く。


「いけませんよ。奥…社長。ゆきは不器用だから、高価なレコードを傷つけてしまいますよ」


 霧子が注進する。


「あら、そうなの?ごめんね。じゃあ、これは、また今度……」


 ゆきがポカンと口を開ける。

 そしてすぐに、あきらめた顔になる。

 おそらく、いつもそう言われてきたのだろう。


「やらせてあげてください!叔母様」


 周りが驚くような声で凛音が叫ぶ。

 前世の苦い思い出がよみがえる。




 小学校の頃、クラスにゆきのような不器用で何もできない男の子がいた。

 だいぶ経ってから知ったのだが、その子は発達障害児だった。

 脳機能の発達に偏りがあり、コミュニケーションや行動、学習などに障害が現れるのだ。

 他人と会話ができない、注意力がなく常にぼんやりしているように見える。

 本を読むことができない、スポーツに参加できない…など人によって症状は様々だ。


 子どもというのは、人と違う者を無邪気に遠ざける。

 無邪気に、イジメる。

 前世の自分は仲間外れにされたくなくて、一緒になってその子をイジメた。

 やがてその子は、特殊養護学校に転校を余儀なくされた。




「やめた方がいいですよ。この子が今日何枚皿を割ったことか。お嬢様も見たでしょ?」

「もしレコードを傷つけたら、私が弁償します。霧子さん。給料から引いて下さい」


 決意は固い。


(あーしはあの時も、取り返しのつかないことをした。せっかく生まれ変わったんだから、同じことを繰り返しちゃダメなんだ)


「わかったわ。じゃあ、ゆきちゃん。やってみて」


 雅が場所を空ける。

 針の位置はゆきにも届く高さだ。

 慎重にヘッドを持ち上げる。

 

「う。う……」


 唸りながら、ゆっくりと針を下ろしていく。

 いつの間にか全員が、その姿に注目している。


「う。う。ううううう!」


 回り続けるレコード盤に針を下ろす。

 乗った。

 じじじ…。


♪ カチューシャかわいや わかれのつらさ……


 当時大ヒットした松井須磨子の「カチューシャの唄」だ。


「鳴った。音、鳴ったよ!」


 店内にどよめきと拍手が沸き起こった。


「あらあ。ゆきちゃん。すごい。すごいよお!」


 雅がゆきを抱きしめる。

 抱きしめられたゆきが、得意げに笑った。


(こんな尊いドヤ顔、初めて見たんですけどお)


「な、何事だべ?」


 小梅が飛び起き、辺りを見回す。

 今日の疲労と明日への不安を抱えた女の子たちが、心の底から喜んでいる。


(そうだ。あーしたちだってできる。きっと、できるんだ)





 夜の闇の中を、天童組が行進する。

 組員たちはおおむね着物姿で、懐に短刀、腰には太刀を差している。

 火消しの道具でもある刺又やとび口、丸太を抱える者もいる。

 先頭を歩くのは、しゃれた中折れ帽、伊達なスーツ姿の星児だ。

 親分だけは、サーベルを腰に提げている。


 行先は、街道沿いにある寂れた大衆旅館。

 賭場であり、朔月会東京支部の事務所だ。


(代替わりして初めての出入り…初陣だ。武者震いが止まんねえぜ)


 殿しんがりを務める佐久間は、弓矢を背負っている。

 唯一の飛び道具だ。


(大丈夫だ。刀振り回すのは苦手だが、俺は弓引くのだけは自信があんだ)





「おい。協力しろ」


 江田島がそう言って、足を投げ出す。

 足袋のかかと部分に隠してあった剃刀が、床に転がる。


「そいつで、俺の縄を切れ」


 だが生気を失った上原組の者たちは、誰も反応しない。


「やれ!おめえらだって犬死にはごめんだろうが!」


 剃刀が拾い上げられる。

 

「やけにあっさり縛られると思ったら、こぎゃあなもん隠しとったんかね。知恵の回るネズミだな、おみゃあさん」


 番台の男だ。

 胴元として賭場を仕切るということは、おそらく名古屋本部から来た幹部なのだろう。


「ほんならまあ、このネズミの首から切ってまおうかしゃん。なあ」






つづく



「角刈りさん、ピ~ンチ!」

「江田島、です」

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