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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか(実録!知らんけど)  作者: 真夜航洋
第1章 凛音

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第10話 「華族のプライド」


「リンちゃん。まずは、じっくりとお顔を見せて」


 雅が凛音をじっと見てから、抱き寄せて頬ずりをする。 


「う~ん。赤ちゃんみたいな肌触り。私のリン。無事でほんとうによかったわ」

 

 痛いほどにぎゅっと抱きしめられた。

 どうやら、叔母は姪を溺愛しているようだ。


「奥様、いつからいらっしゃったんだすか?」

「カフェを経営する、ってとこからよ。でもあなたたちお話に夢中で、誰も気づいてくれないんだもの」

「あの。さっきの話ですが、銀行からお金を借りることはできるんっすか」

「ええ。たとえ他の銀行から清流院家には貸せないと言われても、宅の銀行で借りればいいんじゃないかしら?」

「タクノ銀行?」


 霧子が凛音に耳打ちする。


(『宅の』は旦那様の、という意味です。雅さんの旦那さまは、四菱財閥の方なんです)

(財閥?ならさあ、借金も返してもらっちゃおうよ。そしたらお屋敷だって…)

(事業に失敗して借金したのは麗華夫人ですよ。雅さんや旦那様が肩代わりするいわれはありません)


 やはり、義理の姉妹には確執があるようだ。


「叔母様。銀行からお金借りれるよう、旦那さんにお願いしてください!」

「う~ん。でもリンちゃんはまだ17歳なんだし、銀行も経営者としては認めてくれないんじゃないかしら?ほかに誰か、いないものかしらねえ」


 思わせぶりにキョロキョロ捜すふりをする。


(あ。これユードージンモンだ。このひともカフェ経営に興味あるんだ)


 叔母が望んでいる提案をしてみる。


「じゃあ、叔母様が社長になってくれませんか?」

「あらまあ。言われてみればそうね。それが一番手っ取り早いわね。全然気づかなかったわ。じゃあ、ここからはわたくしもお話に参加させてくださる?」

「もちろんです!」


 ずっと話の輪に入りたかったのだろうか。

 娘と友達のガールズトークに割り込んでくる、母親のように生き生きしている。


「では、運転資金の融資については雅奥様に…」

「いやん。社長って呼んで。呼んでくんなきゃ、お金貸してあげないもんね」


 さっと空気が変わる。

 付き合いが長いのだろう、霧子と小梅は「はじまった」というあきらめ顔だ。


「で、では社長。経営方針については……」

「そんなの後でいいからさあ。みんなは好きな殿方とかいるの?聞きた~い」 


 読めた。


(はは~ん。雅ちゃんは、どうやらド天然だな)


 


 お金の目途がついた。

 銀行との交渉や法的な事は四菱財閥に任せる。

 店の経営方針などは、銀行とも話し合っていくことで第1回経営会議はまとまった。

 解散となったところで、雅が凛音にささやきかける。


「ところであなた、心臓の方は大丈夫なの?この間も倒れたそうじゃない」

「え。あ、はい。今んとこ健康っす」

「よかった。お商売を始めても、無理だけはしちゃダメよ」


 そう言えば、凛音はもともと心臓が弱かったという話を医者から聞いた。

 だが転生して以来、あのとき以外に動悸がするとか息苦しくなるようなことはない。

 

(あの幽体離脱も謎だな。転生と何か関係があるんだろうけど…)


 本来なら真っ先に、今回の転生だかタイムリープだかについて考えるべきだった。

 原因はなにか?

 いつまで続き、令和に戻ることはできるのか?等々。

 だが立て続けに事態が急展開して、考える余裕はなかった。


(ま。なるようになる、ってことだな)


 しばらくはこの経営SLゲームを楽しもう、と思い直した。





 天童組事務所兼私邸。

 屋敷の敷地には、武道場がある。

 星児は日課であるフェンシングの練習中だった。

 洋服店から買い取ったマネキンを的に見立て、マルシェ(前進)とトゥシュ(突き)を繰り返す。


「若…いや、親分。上原が吐きました」

 

 江田島が報告に来た。

 練習の手を止める。


「拳銃を撃ち込んだ野郎は、口封じに殺られてやした。今頃品川沖の海ん中でしょう」

「…そうか」

「それとやはり今回の襲撃の裏には、華族がいやした。そいつが憲兵を唆して上原に拳銃を貸したようです」

「で、誰だったんだ?」

「それが……清流院家の……」

「清流院だと?」

「…正妻・麗華でした」

「……」

「もちろんお嬢…凛音さんは一切関わっていません。麗華の独断のようです」


「だがそもそも、あの女が作った借金をこっちが肩代わりしてやるのが結婚の条件だったはずだぞ。恩を仇で返すにもほどがあるぜ」

「どうやら、その肩代わりをヤクザにしてもらう、そのヤクザが清流院家の当主になる、ってことが我慢ならなかったようです」

「華族さまのプライド、ってやつか」

「プライド?」

「…ああ、いや。英語で矜持のことだ。だが、そうなると俺以外の保証人が見つかったってことか?」

「そこまでは上原も知らないようでした。麗華を探し出して、問い詰めますか?」

「…まあいい。華族とはいえ、無一文の未亡人だ。放っておけ」


 星児は練習を再開するために、フルーレという剣をとった。


「だが、いい勉強になったぜ。ヤクザなんかより、華族さまの方がよっぽど腹黒いってことだな」


 苦々しい顔で、マネキンの喉元にフルーレを突き刺した。




つづく



「リンちゃん。ド天然って何ですの?」

「……そのう、えっと、天然ブリ、みたいな?」

「あら。ブリのように美しい、ということですわね?おーほっほ」

(そーゆーとこだよ)

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