第9話 私立アロンダイト学園
夜、愛武とセシルはアロンダイト学園の警備をくぐり理事長室に向かっていた。
「警備の方は問題ありませんでしたね」
「そうですわね、それでも気を抜いてはいけませんわよ。理事長室に何があるのかわかりませんから」
「そうですね。ところでセシル様」
「なんですの?」
「マーガレット様は今どちらに……」
「あの子は家に置いてきましたわ。危険な事に巻き込ませないように約束したもの」
「そうでしたか」
セシルはマーガレットとの約束を守っていた。
あの日マーガレットを助けた時、セシルはこれ以上彼女を悲しませたくないと思ったからこそ、事情を知っていながら家に匿っているのだ。
そう話している間に理事長室の前まで来た。
「ここですね」
「侵入する前に中の様子を確認しますわ」
侵入する前に中の様子を確認する。
用事があるのはサリス・ランスロットだ、それ以外の人物がいればややこしくなる。
魔法で理事長室の中を確認する。
「視覚魔法・深淵の観測者」
魔法を通して理事長室を観測する。中には椅子に座りながらゆったりと紅茶を飲む理事長だけ、それ以外の人物はいないようだ。
「理事長だけしかいませんわ」
「それでは、早速――」
愛武が開いた時、セシルは理事長と目が合った。
「ッ!?」
「どうなさいましたか」
「い、今、理事長と目が合いましたの……」
「魔法越しにですか」
あり得ないはずの事が起きている。魔法とは本来、魔力と言う力の流れを利用した法則で成り立つものだ。そして魔力と言う物は五感で視認することができない代わりに魔力が宿るもので感知するしか方法がないのだ。
それを視認できると言うことは、人間の域を超えていると言う事だ。
「そこに居るのだろ、入れ」
「どうやら、本当に見えているようですね」
「入りますわよ」
理事長室に入ると相変わらず優雅に紅茶を飲んでいる理事長が待っている。
「それで何の用かね」
「質問に答える前に一つ聞きたいことがありますわ。どうして魔力を視認できるのかしら」
「……」
サリスは何も答えぬまま、髪をかき上げる。隠れていた左目から覗かせるのは瞳ではなく、ギラギラと輝く埋め込まれた魔晶石だった。
「魔晶石……!」
「体質でな、生まれた時からこうなんだ」
「どおりでバレたわけですの」
魔晶石。魔力の込められた鉱石でその希少価値から高値で取引されることが多い。魔晶石が体からでる特異体質を持つ者はマーガレットも同じことだが、体内にあるのは珍しいことだ。
「それで何の用だ、王女暗殺未遂の犯人さん」
「っ……!?」
引き出しの中から一枚の写真を取り出す。そこには装飾に爆発魔法を仕掛けるセシルの姿が写っている。
それは間違いなくあの日の写真だ。『第二王女殿下暗殺未遂事件』、そこにセシルが関わっていたと言う事実が写っている物だ。
「なぜそれを貴女が持っているんですの……」
「それはお互い様だろう、とりあえず場所を移そうか」