第7話 学園生活
ここはシルヴィデント王国、アロンダイト学園。
私立学園であり由緒正しき貴族学校でもある。名門私立であるアロンダイト学園は中高一貫の制度であり、年間およそ2000人が受験する難関学校でもある。
「ごきげんよう」
「「ごきげんよう、セシル様!」」
この学園には美を飾る2人の女生徒がいる。
そのうちの一人、セシル・モードレットは目の前にいる二人の少女に挨拶する。
「わ、わたし、セシル様に挨拶されちゃった……!」
「わたしも……!」
少女たちは小さな声で喜びを分かち合う。
『学園の花』そう呼ばれる憧れの人に声を掛けられたのだ、無理もない。本来なら関わりたくても貴族のしきたりやらなんやらで声すらかけずらい、なのに本人自らが声を掛けてくれたその事実だけで嬉しさが増す。
そんなことは気にも止めずにセシルは教室に向かって歩いていく。そんな彼女を見る者は皆一様に見惚れてしまい足を止め、一歩距離を置いてしまう。そこから取られたセシルの異名は『赤髪の令嬢』である。
「おはようございます、セシルさん」
「ごきげんよう、ノエル王女殿下様」
教室へ着くと退院したばかりのノエル王女殿下が他の生徒に囲まれながら談笑していた。ノエルはこちらの姿に気が付くと騎士である愛武に支えられながら近づき挨拶をする。
彼女こそがもう一つの美を飾る花、『白の王女』ノエル・シルヴィデントだ。
「お怪我の方はもう大丈夫ですの?」
「ええ、この通り元気になりましたわ」
くるりとその場で回ってみせるノエル、どうやら怪我の方はもう大丈夫そうだ。
隣にいる護衛の愛武に視線を向けると笑顔で返される、本当になにも言っていないようだ。
「?どうかしましたか」
「いえ、なんでもありませんわ」
問題が無いのであれば愛武のこと以外は気に掛けることはない。
距離を縮めればかえって怪しまれそうだ。それならいつもと同じ距離感に戻すだけだ。
「では、わたくしはこれで」
「待ってください、セシルさん」
「どうかいたしましたか?」
ノエルに呼び止められセシルは振り向く。
「その……先日は愛武とどこへ行っていたのですか」
「あら、気になられますか?」
「はい。愛武はわたしの騎士ですので」
こう言っているがセシルにはわかっていた、本当は愛武の事を騎士以上の異性として見ている事を。
「少し相談にのって頂いただけで、それ以外は何もありませんわ」
「……相談と言うのはどのような内容ですか」
ノエルの耳元に近づき小声で言う、馬鹿正直には言えないがある程度内容を省いて都合よく話す。
「詳しくはお伝え出来ませんが、わたくしの家の権力を使って襲撃事件の犯人の捜索をしていましたの、相手が貴族でしたので仲の良かったわたくしに協力を持ちかけて来たのですわ。陛下からは極秘任務として扱われていますから秘密になっていますが……」
「!!?」
驚きを隠せないノエルは目を丸くする。表向きは愛武が事件を解決したことになっているが、その裏では王の命令で協力していたセシルも入っているのだ。
まさか、自身を助けた人物が他にいたことを知らなかったノエルは驚きつつもセシルに会釈をしお礼を伝える。
「セシルさん、この度はまことにありがとうございます」
「はて?何のことかさっぱりわかりませんわ」
「そうでしたね、ですがこれはわたし自身の感謝の気持ちです」
「よくわかりませんが、どういたしましてと言っておきますわ」
ノエルが礼を伝えた後、席へ着き再び学園生活が始まった。