第5話 ランクルVS愛武
ランクル邸、決闘の間――。
愛武はランクル伯爵の後に続きついて行くと通されたのは戦闘の痕跡が残る広々とした場所だった。
「愛武殿、お気づきかもしれないが”わたし”が『王女殿下暗殺未遂事件』の犯人だ」
「認めるのですね」
「ああ、ここへ来たと言うことはあらかた予想がつく。こう見えても潔い方だと自負しているからな」
「では、どうしてこんな物騒なところに移動したんです」
ここがどんな場所か、それは来たことのない愛武でも理解できる。
口では認めておきながら行き着いた先は戦闘をする為に作られた部屋、しかも壁には武器が飾られている。
「フフ、なにわたしとてただで捕まる気はない。ここは我が国の文化に乗っ取って”決闘”で決着をつけようではないか」
この決闘受ける必要性は全くない。愛武の知る原作ゲームにはもともとない仕様だ。
だが、断りを入れて下手に逃げられでもすれば後が面倒だ。
「私が勝てば、事件に関わったロイズ家の者全員を引き渡すのであればお受けしましょう」
「では、わたしが勝てばこの場は見逃してもらえるかな?」
「勝てれば、ですが」
ランクルと愛武は一定の距離を保ちながら向かい合う。
審判は必要ない。法や命令ではなく、勝者こそがこの場を決める。
合図はない、ランクルが先制攻撃を仕掛ける。
「雷魔法・猛虎の威」
ロイズ家が代々得意とする魔法、雷魔法を放ち直線状に稲妻が駆ける。
「風魔法・龍の息吹」
愛武が放った風魔法は一点に集まり渦となり、駆けてくる稲妻を相殺しようとぶつかり合う。
激しくぶつかる稲妻と旋風は互いにぶつかり合い、相殺しながら周囲に当たり散らかす。その光景は風神と雷神が戦っているようだ。
やがて互いの魔法が相殺されるとランクルは手を叩きながら愛武を称賛する。
「さすが愛武殿。我がロイズ家御用達の雷魔法を相殺するとは」
「ずいぶんと油断してますね」
「強者の余裕と言うやつです」
愛武の問いにランクルは嘲笑いながら次の魔法を仕掛ける。
「氷結魔法・創製結晶」
周囲の温度が魔力で氷点下へと下がり氷の結晶が生まれる。
結晶はどんどん大きくなり、やがてランクルとよく似た分身として愛武に襲い掛かる。
「これは……」
「分身ばかりに気を取られすぎだ」
一瞬、ランクルから目を離した隙に愛武の背後に現れ間合いへと詰められる。手には氷でできた剣が握られており、分身と共に襲い掛かる。
「闇炎魔法・黒炎」
「っ!!」
氷の刃が体に触れようとした瞬間、黒い炎が体にまとわりつく。身の危険を感じたランクルは武器を手放し、体をよじって姿勢を崩し足元に倒れ込む。
その判断は正しかったようで凍結していた部屋の氷が溶け、下がっていた温度も上がっていく。
(この魔法は第一級魔法、わたしが使った二級魔法よりもはるかに強力な魔法を隠し持っていたとは……)
魔法には階級が存在する。数字が小さければ小さい程、強力な魔法とされている。ランクルが使った氷結魔法は氷魔法の真価と応用を兼ね備えている、それに対し愛武が使った闇炎魔法は二種類の魔法を組み合わせた合成作品である。
この世界にとって多数の魔法を組み合わせる合成魔法は二級魔法以上とされている。
「お見事ですね。まさか、一級魔法を使えるとは……!」
「貴女が相手ですので、一級魔法使いの辺境魔導士、元第13師団ランクル・ロイズ団長殿」
相手にとって不足なし。ランクルは王国きっての魔法使いである、それ故に手加減は無用と考え第一級魔法を使ったのだ。
魔法使いは本来、試験規定である第3級以上が使えれば合格である。
「ならば、王道で……本気で行こう」
その中でも第一級魔法は特別だ、使えるのも王国で数人だけである。
王国では第二級魔法を使用できれば一人前とされ、第一級魔法を使用できたものは歴史に名が刻まれる。
「水雷魔法」
魔法には5つの階級がある。最下位の第4級魔法から最上位の特級魔法まで存在する。
ランクルが魔法試験を受けたのは12歳の頃、周囲の人間が第三級魔法に手こずる中ランクルは第二級魔法である『猛虎の威』を使った。
「獅子神威!」
これはその上位互換である第一級魔法である。
獅子の様に荒々しく、王の名の如く轟く轟音はまるで神の威光の様である。
響き渡る轟音と共に青い稲妻は荒れ狂う天候の様に愛武に向かっていく。
「水風魔法」
当然、黙って受けるわけがない。
12歳にして魔法使いとなったランクルの才能は天才である。
ただし、一部を除いて。
愛武が魔法試験を受けたのは転校してから1か月後のことである。
よそ者の愛武を嫌うものは多くいたが、試験の日。第三級魔法を周囲が使う中、愛武が使用したのは第一級魔法である。その日、愛武は学校の憧れの存在へとなった。
「龍王の咆哮」
この魔法は愛武が試験で使った最初の第一級魔法だ。
周囲の風が巻き上がり、台風の如く荒れ狂う風は一つの塊として旋風しながら『獅子神威』にぶつかる。
青い稲妻は旋風に呑まれ、中で相殺し合いながら大きくなっていく。やがて膨張に耐えきれなくなった両者の魔法はバラバラになり周囲に爆散する。
「ぐっ!」
稲妻を帯びた旋風が飛び散るのをランクルは躱す中、その合間を愛武は駆け抜け、拘束魔法を放つ。
「拘束魔法・天界の拘束」
上空から無数の鎖が現れ、ランクルを拘束する。
「貴方の負けです。ロイズ伯爵」
「まさか、負けるとは……」
「それでは約束通り今回の事件に関わった人たちを引き渡してもらいます」
「そうだったな、では案内しよう」
「……その前に一つ質問にお答えてください」
「なにかね?」
「どうして今回の事件を起こしたのですか」
ずっと疑問だったことがある。セシルとは別にランクルがなぜ今回の事件を起こしたのか、二人の共通点は無いように見えるがもしかしたら何かあるのかも知れない。
「理由ですか、商売が上手くいかずに王族が貴族の権力を弱めようとしようとした、こう言えばわかるか」
「…………そうですか」
愛武はなにも感じなかった。ランクルにどんな理由があろうと感情を表に出してはいけない、故になにも感じない様にした。