第3話 ロイズ伯爵
翌日、セシルと愛武は王からの極秘任務を与えられ行動していた。
目的地は僻地にあるロイズ伯爵が有するランクル邸。
「セシル様ここが……」
「ええ、ここに第3者、ランクル・ロイズ伯爵がいるわ」
『王女殿下暗殺未遂事件』の犯人確保。それが仕事だ、愛武はセシルの証言の元、犯人の邸宅へ向かったのだが……。
「セシル様、ランクル伯爵は本当にあの事件に関わっていたのですか」
「この目でしかと確認しました。あの事件を起こす前、ロイズ家の紋章が入った懐中時計がわたくしが仕掛けた爆発魔法の近くに落ちていたんですもの」
あの日、王女暗殺計画の要として装飾品に爆発魔法を仕掛けた時、式典には出席しないはずのロイズ家の刻印が施された懐中時計が落ちていた。
セシルは一応、懐中時計を持ち帰り保管していた物を愛武に見せ、現在に至る。
「それにしても、どうしてセシル様もここに来られたのですか?事件の擦り付け以外にも用があるのですか」
「そうね、そんなところですわ」
セシルがここに来たのには理由がある。それは第3者であるランクル・ロイズ……ではなく、彼が凶行に走った数ある理由の一つであるロイズ家の秘密、それが今回の目的だ。
「では私はロイズ伯爵に懐中時計のことと事件の関与をそれとなく聞いて来ます」
「わたくしは別館にある空き部屋に入って参りますわ」
馬車を止め、愛武はセシルと別行動を取ることとなった。
愛武視点──。
セシルと分かれた後、愛武はランクル邸へ一人赴いていた。
「止まれ」
門番の男に指示され馬車を止める。
「何者だ、ここはロイズ伯爵の屋敷だ。なんのようでここへ来た」
「ノエル王女殿下の騎士、恋道愛武です。ロイズ伯爵に大事な物を渡しに来ました」
被っていたフードを上げ、自己紹介をする。嘘偽りの無い身分だ、極秘任務とは言え嘘をついて怪しまれでもすれば本末転倒だ。
とは言え、もし本当に今回の事件の第3者がロイズ伯爵であった場合、暗殺に失敗した王女殿下の騎士が来たとなると相当怪しまれることになる。
「大事な物とはなんだ」
「言えません、王からの命令です」
「それでは通すことは──」
『構わん、通せ』
門番に断られようとした時、周囲に聞こえるように門番に魔法通信が入る。
「よろいしいのですか」
『ああ、ただし馬車から降りて"大事な物を持って"1人で歩いてこい』
「わかりました」
言われた通り、馬車から降りてランクル邸まで歩いて向かう。
――ランクル邸の玄関前に着きノックを3回する。
「やあやあ、愛武殿。取り敢えず中で話そうか」
ランクル邸、客間。
客間の一室に通され、お茶を出される。
「それで、王からの命令で渡しに来たと言う大事なものと言うのはどのような物かな?」
向かいに座るランクル伯爵はお茶を一口飲むと早速王からの伝言を聞きだす。
「これです」
「それは……」
セシルから預かった懐中時計を見せる。
それを見たランクル伯爵の顔が少しこわばる。
「わたしの家の懐中時計だな、それが王からの命令か?」
「これは先日の『ノエル王女殿下暗殺未遂事件』の捜索の際、現場付近で見つかった物です。どうして式典には出席しないはずのロイズ家の時計が見つかるのです?」
「フ、フフ」
愛武に追い詰められたランクルは自身の失態に笑いだす。
王からの命令と言う事はある程度の事は知られているだろう。
「愛武殿、場所を変えましょう。そこで全てをお話しします」
「わかりました」
ランクルと愛武は席を立ち移動する。