第11話 ランスロット卿VSモードレッド卿
――体育館。
セシルとサリスは互いに向きあって、睨み合う。
体育館の作りは頑丈にできており、決闘が文化と言うこともあり広く作られ、多少の魔法では傷はつかない様にできている。
「君はなぜ未だ王国に敵意を向けるんだ」
セシルのいた国は王国との戦争に敗れたことにより領土の大部分が消失し、残った国も無政府状態が続いている。
いまではスラム街と化してテロ組織の方が力を持っているくらいだ。
「あそこは、あの国はわたくしとお父様、お母さま、そしてお兄様たちの故郷ですの。かつての故郷を取り戻す為に裏切ったのですわ」
セシルにとって故郷は両親と兄弟の思い出が詰まった大事な場所だ。
たとえ今は見る面影すらなくとも、いつか少しは昔の様に楽しくあった場所に戻すために裏切った。
「そうか、残念だよ。わたしからみて君の答えは間違っているからね」
「……どういうことかしら」
「そのままの意味だよ、君は故郷を取り戻したいのではない。復習したいんだ、自分の家族を殺した王国にね」
故郷を取り戻したい、そう言っていたがやっている事は復讐そのものだ。故郷を取り戻すのであれば他にも方法はあった、モードレッド家の権力や外交官に就職したりなど様々な方法があったが、セシルのとった行動は王国への反逆。どうみたって復讐にしか見えないのだ。
「……そう、かもしれませんわね」
「君が復讐に燃えていようが故郷を取り戻したいだろうがどうでもいい、どちらにせよ勝った方が全てを手に入れられる」
「そうですわね、でも感謝しておきますわランスロット卿。貴女のおかげでわたくしの気持ちを明確にすることができましたもの」
今までは漠然とした気持ちで王国に反逆していたが、サリスの言葉に明確な意思を持てるようになった。
「では、いきますわよ!闇炎魔法・黒炎!」
「聖炎魔法・閃光爆裂」
黒く渦巻く炎と白く輝く爆炎が衝突する。
黒の炎に飲み込まれた白い爆炎が爆裂し辺り一帯に炎が巻き散らかれる。
決闘を前提に建てられたこともあり、炎は燃え広がらずにとどまり続ける。
「まだまだですわ!血液魔法・血海!」
「氷結魔法・凍結の時代」
セシルの足元から大量の血液が波の様に押し寄せ、先程飛び散った炎を呑み込み血液の海が襲い掛かる。サリスの氷結魔法によって血海は凍結され、呑み込まれた炎ですらも鎮火される。
「見事だな、まさか初手で一級魔法を使えるとは…‥君の階級は二級のはずだ」
「それは貴女も同じことですわ。まさか特級魔法をお使いになられるとは思ってもいませんでしたわ……貴女は一級魔法使いのはずでして」
黒炎は愛武が使用した一級魔法と同じものだ、それを相殺できる所までは予想できていたが、奥の手である特級魔法”血海”を相殺されるとは思ってもいないかった。
愛武の魔法階級は一級、実力的には特級だがそれに並ぶくらいサリスは強い。
(先程、使ったのは間違いなく特級魔法……向こうも実力を隠していたとみて間違いありませんわね……)
(ここのわたしに特級魔法を使わせるとは……さすがは元・王女、魔力量が桁違い過ぎるな、幼子だったからと甘く見ては負けるかもしれんな……)
お互いに警戒する。事前情報と実力があまりにも違いすぎるからだ。サリスの実力はせいぜい愛武より下だと思っていたセシルは考えを改める。
(本気で行かなければ消耗戦になりますわね……そうなれば、勝機がありませんわ。向こうはわたくしにはない長年の経験と実力がありますもの)
(短期決戦で行かなければ魔力量で押し切られる……ならば!)
互いに考えている事は同じだ。セシルもサリスも互いを下に見ていたが今は違う、一瞬でも気を抜けば隙を突かれて劣勢に立たされる極限の戦闘だ。
当然、そんな長期戦に持ち込めばどちらも勝機を失っていく。だからこそ両者はこの一撃の短期決戦に持ち込んだ。
「雷魔法・天界の雷!」
魔法陣が大きく広がり巨大な雷が放出される。
その威力からみて間違いなく特級魔法だ。魔力が一点に集中しているのがわかる、直撃すれば間違いなく死ぬ魔法だ。
それに対し、セシルもまた魔法陣を大きくし魔力を集中させる。使うのはもちろん特級魔法だ、それも切り札の内の一つ。
「吸収魔法・暴食の青!」
放たれた雷がセシルの展開した青い魔法陣に吸収される。
セシルが魔力を集中させたのは魔法陣と魔力の流れ、暴食の青はその名の通り魔力と魔法を吸収する魔法だ。
こんな物に直撃なんかしようものなら魔力をごっそりと持っていかれる。
「ぐ、ぐあああああっ!!!」
雷の魔法が解けても暴食の青は止まらない、サリスの魔力にくらいついてく。
絶叫を上げるサリスにセシルは魔法を解除する。
「はぁ、はぁ、はぁ、なぜ助けた……」
「貴女が提案したんですの、負けたらわたくしの下僕になると」
「だから、助けたのか……」
「そうですわ、貴女を駒として動かすためにその命をわたくしが手に入れたんですの」
「そうか……私の負けか」
「そうですわ。貴女の負け、ですわ」
倒れているサリスに近づき勝ち誇った笑みで言う。だが、セシルの心にはもう一つ別の感情があった。
「でも、最初に言った感謝の気持ちは本当でしてよ。貴女のおかげでわたくしは自分の気持ちが理解できましたもの」
「…………そうか、わたしの教えは届いていたのか」
天井を見上げるサリスはどこか嬉しそうだった。
ランスロット卿VSモードレッド卿、勝者モードレッド卿。




