第1話 追い詰められた悪役令嬢
投稿は滅茶苦茶遅いです。
シルヴィデント王国。
この日、ある事件が起きた。隣国との魔法戦争の終結から10年を記念した式典でノエル第2王女殿下を乗せた馬車が爆発したのだ。
「王女様!」
「急いで消化を!!」
「まだ、王女様が中に!!」
「水魔法・水霧!」
人目の多い街中での出来事だ、当然すぐに護衛や魔道師による消化活動が始まる。
「どうなってる!」
「どうして!どうして、火が消えないの!?」
消火をするために放った水魔法を使っても火は消えず、むしろ燃え上がっている。
このままでは中にいるノエル王女は無事ではないだろう。
「フッフフ」
その様子を遠隔から透視魔法で眺める一人の令嬢は自室で笑みを浮かべる。
「これでおしまいですわね、ノエル王女殿下?」
彼女の名はセシル・モードレッド。モードレッド伯爵の娘にして子爵である。
美しい艶のある赤髪に整った容姿から『赤髪の令嬢』と呼ばれている。
そして、セシルはモードレッド家の人間ではない。いわゆる養子と言う奴だ。それでもバレていないのは偶然にもモードレッド家と同じ"赤髪"だったのが最大の理由だろう。
「オーホッホッホ!これでわたくしの計画が上手く行きますわ!!」
セシルは外に漏れないよう、声量を抑えて自室で高らかに笑う。
何を隠そう、この状況はセシルが作り上げたものなのだから。
「おや?なにか様子が変ですわね」
暗殺計画成功の愉悦ひたっていると、少し目を離していた隙に現場の様子が変わっていた。
「王女殿下!」
「急いで病院へ運べ!」
なんと燃え上がっていた火は消え、さらに暗殺したはずのノエルは何者かに抱き抱えられている。
「い、一体なにが起こってますの!誰が火を消したんですの!?」
念密に練られた暗殺計画の要とも言える、炎魔法・炎の大食い(フィアマ・グラットン)はそう簡単には消えないはずだ、少なくとも魔法師団の要請が必要な程には強力にしている。
おそらく、消したのはノエルを抱えている人物に違いない、透視魔法でその顔を覗く。
「な!こ、この男は!?」
ノエル王女殿下を抱えている人物。
彼の名は恋道愛武、つい先日転校してきた人物だ。
整った顔立ちと優しげな笑顔から溢れる爽やかな雰囲気から女生徒の間で人気をはくし、入学試験で歴代最高の成績を残したことからノエル王女殿下の騎士に命じられ騎士公にまで上り詰めた実力者だ。
「恋道愛武~!また、貴方ですの!」
愛武の姿を見たセシルはかなきり声を上げる。
彼女は決して愛武のことは好きで奇声を上げている訳ではない、むしろ嫌っている方だ。
「なんなんですの!この男は!!」
座っていた椅子を蹴り倒し、ベットの上で暴れる。
(もー!初めて会った時と言い、何者なんですのあの男は!!)
セシルが愛武と出会ったのは転校してきてからすぐのことだ。
愛武に呼び出されて、セシルは一人学園の屋上に来ていた。
「あら~、転校生がわたくしになんのようで?もしかして惚れてしまったとかかしら?」
初めは冗談のつもりでからかうセシル。そんなセシルに次の瞬間衝撃的な言葉が発せられる。
「セシル・モードレッド子爵様、どうかこの私、恋道愛武とお付き合い下さい」
「…………は?」
冗談のつもりで言ったのだがどうやら通じなかったらしい。そう感じたセシルは高らかに笑う。
「オーホッホッホ!冗談はよして下さいます、わたくしが愚民と付き合うとでも思いで?」
「それでも私の気持ちは諦められません」
高らかに見下して振ってやったつもりだが、相手は本気らしい。
もう一言、酷いことを言えば流石に諦めるだろう。
「だいたい、転校してきた見ず知らずの他人と──」
「セシル・モードレッド。モードレッド伯爵の娘で幼少期から優等生として育ってきた一流のお嬢様」
「あら、よくご存じで」
モードレッド家の人間として経歴は恥ずかしくないものでならなければならない、そう教えられてきた。
幼少期の経歴を知っていると言うことはこの男、かなりの危険人物だ。
セシルは少し愛武に対して警戒する。
「それで?それがどうかしましたの、わたくしが貴方の告白を振ることには変わりな──」
「そして、これ等の経歴は全て作られたものだ。本当の出身地は10年前に敗戦した隣国であり、モードレッド家の養子縁組と言う身分を隠した偽りの令嬢、そして国家の乗っ取りを企む『裏切り令嬢』セシル・モードレッド」
愛武の言葉にセシルは冷や汗をかく。
「貴方、一体何者ですの」
「私は外の世界、いわゆる神の世界から来た転生者です。セシル・モードレッド子爵様、貴女の企みもある程度は知っております」
セシルは歯を食い縛り、愛武に問いかける。
「脅しのつもりですの」
「…………」
セシルの問いに愛武は沈黙する。その様子にセシルは苛立ちを覚える。
(腹が立つ!、腹が立つ!、腹が立つ!、腹が立つ!!)
「気に食わないですわ!貴方のその態度!わたくしは決して脅しになんて屈しませんの!」
愛武に顔を近づけ、セシルは仁王立ちで宣言する
「よく覚えておきなさい!セシル・モードレッドは全てを手に入れますのよ!貴方ごとき男の手玉に取られるつもりはありませんわ!!」
そう宣言してから数ヶ月、あれからセシルの計画は愛武によってことごとく阻止された。
そんなものだからかセシルは常に愛武を警戒して、今回の様な暗殺にもタイミングを見計らい高度な魔法だって仕込んだ。
にもかかわらず失敗したのは、この男が転生者と言う奴なのだろうか。
(もしかして、あの男が言っていることは本当なんですの?)
ひとしきり暴れた後、再び透視魔法で現場を覗く。
「ひっ!」
透視魔法越しに目があった。
どれほど優秀な魔法使いであっても魔法探知しかできない、故に透視魔法越しに目が合うことなどあり得ないのだがセシルの本能が危険を知らせるように愛武と目が合ったと言っている。
「今、確実に目が合いましたわ!なんなんですの!この男は!」
愛武の行動は常軌を逸している。
街中で事故に見せかけた計画だって始めから知っていた行動で防がれ、今回の暗殺だって防がれた。
この男の行動にセシルは一種の恐怖すら感じていた。
すると突然、魔法通信がセシルの元へ繋がる。
「ヒッ、こ、こんどはなんなんですの!」
「セシル・モードレッド子爵様」
繋げてきたのはまさかの恋道愛武だ。
この状況から考えられる連絡は最悪の一手だ。
「な、なんですの」
「どうか私、恋道愛武とお付き合いを」
「断りますわ!例え、貴方に脅されようともわたくしは決して挫けませんわ!」
セシルは虚勢を張りつつも内心は恋道愛武への恐怖とこれから起こる自信への裁きに涙を堪えながら震える。
「そうですか」
通信の向こうにいる愛武は深く息を吐く、ため息と言うやつだ。
「でしたら、どうすれば私のものになってくれますか」
「…………へ?」
唖然とする。てっきり脅されるものだと思っていたセシルは口から変な声が出てしまう。
(ここで怯んではダメよ、セシル・モードレッド!貴女には成すべき事があるでしょ!)
だが、ここで怯む訳にはいかない。
戦争に敗れた結果、両親は死に妹とは引き裂かれた。かつて気高かった両親が教えてくれた心を虚勢と言う形で保っている。
セシルは虚勢と心の奥底に眠る野望を胸に口を開く。
「オーホッホッホ!なら、わたくしに忠誠を誓いなさい、恋道愛武!。そして約束しなさい、このわたくしが王国を、いえ……世界の全てを手に入れられると!!」