第六話 私の居場所
今後も2人でどんどん悪いことしちゃいますよ
放課後、和叶はいつもの所に向かう。
――そう、それは、最近出来た自分の居場所。
「お待たせ、来たよ〜!」
和叶はニコニコの笑顔で先に来ていた愛助に声をかけた。
「うん、お疲れ様」
愛助は、読んでいた本を閉じて和叶を迎える。
こんな風に安心してほっと出来る時間。
それが、孤独を感じていた二人にとっては何より楽しかった。
「何読んでたの?」
和叶は愛助の隣に来て、持っていた本をまじまじと見つめる。
「図書室で借りた本。これのコミック版持ってるんだけど、小説も読んでみたくて」
「ふ〜ん、愛助は漫画すき?」
「うん。好きだよ。漫画も小説も図鑑も。本なら割と何でも好き」
「そっか、いいね。私も好きになってみたい。うち、ママが決めた本以外は読ませてもらえないから」
「……お母さん、前々から感じてたけど随分厳しい人みたいだね」
「そうだと思う。だって、皆の家の話を聞くたび、うちって他の家とは大分違うんだなって感じるの」
和叶は話しだした。
家では、母親指定の本以外は読ませてもらえないこと。
お菓子は常に母親手作りのものか、母のレシピでの自作以外は食べさせてもらえないこと。飲み物も同じとのことだ。
皆の前では「いつも笑顔でしっかりした子でいなさい」と常に言われていて、何かちょっとでも母の気に障ると、他の人が見ていても怒鳴られること。
だから、母といるとすごく息苦しいとのことだった。
「お父さんは? その事をどう思ってるの?」
愛助は、心配そうに和叶に質問をする。
「パパはね、私が年少の頃にママと離婚していなくなっちゃった。
パパ優しい人だったから……女には手をあげないだろう、仕返し出来ないだろうって、ママがパパをよくぶってたよ。
だから、ママの事まるごと全部嫌になったんだと思う」
「そっか……」
愛助は少しの間考えて、じゃあさ、と提案をする。
「先生にバレないように漫画持ってくるから、君も読む?」
「え、いいの!? でもバレたらどうするの……説明、ただでさえ大変でしょ?」
「大丈夫、その時はその時。で、
どういうジャンルが読みたい?」
「えっと、えっとね……!」
わあっとまたあのキラキラした嬉しそうな顔で、愛助を見る。
目を輝かせながら和叶は、
あれかな、でもこれも読みたいな、どうしよう!
と言いながらワクワクを隠しきれないという感じで言葉が溢れていく。
「そんなに沢山は持ってこれないよ」
と、愛助はふふ、と笑った。
――ああ、僕は何でヒーローになりたいのか、分かった気がする。
きっと、誰かの笑顔が見たいんだ。
愛助は、ワクワクしつつ悩む和叶を横目にそう思った。
***
愛助と別れてから、和叶はいつも通りいい子の仮面で帰宅した。
「ただいま、ママ」
「おかえりなさい。また最近遅いけど何かあるの?」
静かだけど、どことなく、圧を感じる母の声色。
和叶は表情を崩さずに、
「部活動の体験入部とか色々あって、どこにしようか迷ってるの」
「そう、分かったわ。変な部活動には入らないようにね。あなた運動神経いいんだから、スポーツ系に入ればいいのに」
「うん、ちょっと考えておくね。ありがとう」
和叶は手洗いをして、そそくさと自室に向かった。
和叶は自室にある大きな鏡の前に立ち、こう思った。
――とってつけたような笑顔なのに、これがいいなんて。
ママは、どうかしている。
鏡の前に立った和叶から、ふっと仮面が消えて、憂いを帯びた顔になる。
「パパに会いたいな」
記憶はおぼろげだけど、面倒見が良く優しくて大好きだった人。
家の中で唯一自分の居場所になってくれた人。
自分の顔はどの辺が父と似ているのだろうかと、和叶はしばらく鏡を見つめるのだった。
他の方の中学生青春作品がもっと見たいです、安西先生。