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第五話 キラキラ光る君の笑顔

ついに愛助が和叶に話せるようになった理由が明らかになります。

 愛助は、考えながら一息置いて和叶に話した。

「僕は途中から保育園に入ったんだ。覚えてる?」

「あ〜、確か年中の途中からだっけ?」 

「うん。家の都合でね。

だから、最初は皆の顔や名前もよく覚えられなかったんだけど、多分……君と二人で、話して遊んだことがある」

「え!?」

 和叶はうーんと考えて、思い出せないと言った。

「覚えてないのは無理ないよ。

だって、僕はその時ヒーローごっこをしてて、父さんが作ったお面とマントをつけていたからね」

「ん? んんん? なんかそういえばそんな事あったような……」 

 和叶は必死に思い出そうとして更に歪んだ顔になり、考える像みたいなポーズになる。

愛助はそれを見て、ふふっと笑いながら昔話をし出した。


***


 二人が保育園の年中の頃。

愛助が入園して少し経った頃だった。

 休日、同じ組の仲良し数人で、大きい公園でかくれんぼをしようという事があった。

もちろん見守りのボランティアは何人かいたし、小学生のきょうだいがいる子達は下の子の見守りも兼ねて、そのきょうだいも参加し大体八人くらいの子供がいた。


 愛助はというと、その仲間に加わりたかったが、まだ入園してまもなくだったからと、その頃すでに皆の前で話せなかった。

だから友達がいなくて、その日は父が作ったお面と、ヒーローマントをつけ一人で遊んでいた。 

 

 ――大体二時間くらい経った頃だろうか。


鬼以外の、隠れた六人は揃っていた。

ただ、一人の少女だけは見つからなかったのだ。

大人を含んだ全員は必死に探したがいっこうに見つからない。

大きな公園というのが災いしたのか、全く見つからなかったのだ。


 もしかして、誘拐?などという声も出た。

「あの子はしっかりした子だし、知らない人にはついていかないのでは」

「いや、いくらしっかりしてても大人ならさらう事はたやすいぞ」

「誘拐でなければ、どこかに落ちたとか? 出られなくなったとか?」


 ――幼かった愛助は察した。こういう時がヒーローの出番だと。


「ぼくだったらあそこにいくかもなあ」

 そんな事を言いながら、マントをひるがえし走っていく。

よく父や祖父と来ていた公園だから、ある程度の場所は把握していた。


 公園には野鳥観察が出来る場所がある。

しかし、鳥が集まっていると、

その鳴き声でかき消され、声が聞こえなくなる所がある。

愛助も前に野鳥観察に来て、野鳥の声で近くにいる父の声さえ聞こえない時があった。


――そして。


よく耳を澄ますと、

「うわあぁん」

  という泣く声が小さく聞こえてきた。


 やっぱり近くに隠れている子がいる。


 愛助はそう確信し、椅子が並んだ場所に来た。

実は中が開く仕組みになっているのだ。


 一つ一つ覗く愛助。

すると、中に人の姿が見える物があった。

「きみ、だいじょうぶ? たすけにきたよ」

 愛助の予想通り、少女が出られなくなって泣きじゃくっていたのだ。

お面のおかげで愛助はすんなり少女と話すことが出来、

なんとか頑張って中からその少女を出すことに成功した。


「ぐすっ……わたしのこえ、だれにもとどかなくて。

みんなのこえもきこえないし。

こわかった……」

「もうだいじょうぶだ」

「たすけてくれてありがとう。

あなたはだあれ?」

「えっと、なをなのるほどのものではない。とおりすがりのヒーローだ!」

 と、言うと、わあっと目を輝かせた。

「ヒーロー!」

 少女は、ついさっきまで泣きじゃくってたのが嘘のようにキラキラした笑顔で、愛助に抱きついたのだ。

「こ、こらあぶないぞ!」

「ねえ! ヒーローさん! ちょっとだけあそぼ!」 

「ヒーローはひとだすけしたらかえらねばならんのだ!

 きみも、しんぱいしてるみんなのもとにもどるんだ!」

「ふふっ! ちょっとだけだよっ!」

 そう言って少女は笑顔で愛助の手を引っ張り、愛助の両手と自分の両手を繋いでぐるぐる回る。

「ヒーローさんはどこからきたの?」

「ち、ちきゅうのそとだ!」

「ちきゅうのそとってどんなかんじなの!?」

「いろんなほしがたくさんある!」 

 キャッキャッと、あの時の嬉しそうなキラキラした笑顔。

星にも負けない輝き。

ずっとそれが、愛助の記憶のどこかに残っていた。

 

***


 和叶は全て聞き終えて、目を丸くした。

「あの時助けてくれたのって愛助だったの!?」

「そっか、やっぱり君だったんだね」

 愛助は良かった、合っていたんだと安堵する。

「あの後皆にめちゃくちゃ心配されてね、私も、もう出られないかもって困ってたから……。

ほんと改めてありがとう! 愛助は命の恩人だよ!」

 和叶は目をうるうるとさせ、愛助の両手を握って感謝を伝えた。


「昔遊んだ時の笑顔と、部室で見た時の笑顔が同じだったんだ。

作り笑いじゃない、純粋な気持ち。

それが伝わってきたから、きっと僕は、君には緊張が解けたんだろうね」

愛助は穏やかな表情で和叶を見る。


「実は演劇部に入りたかったのも、未だにヒーローに憧れてるからなんだ。特撮に出てる好きな俳優はよくチェックしてる。

中学になっても夢見るなんて、変かな?」

 愛助は、あはは、と苦笑いしながら話した。


 ただ、和叶は、

「変じゃないよ!」

 と、大きめな声ですぐさま否定した。

あ、周りの人に聞こえたらまずい、と和叶はそそくさと口に手を当てる。


「だって今、小さい頃から特撮ヒーローに憧れて、実際に夢を掴んでヒーロー役としてテレビに出てる俳優さんが増えてるんでしょ? そうじゃなくても、憧れや夢に歳なんて関係ないよ!」 

「そ、そうかな……」

「うんうん、出来る出来る! 私が背中を押すよ! 頑張って演劇部復活させよう!」


 和叶は愛助に、あの笑顔で拳を見せた。

愛助も笑顔で、その拳に自分の拳を当てて、誓いのポーズをした。


演劇部復活に頑張る二人、応援してくださると嬉しいです!

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