第四話 秘密の放課後
ギャグを入れたかったんですが、あと少し先になりそうです。すみません…!
あれから、和叶と愛助は放課後、人が来なさそうな秘密の場所を探して話をする、という約束をしていた。
割とどこも人がいて、自分達のクラスがあり、部活でにぎわう一階や、二年生のクラスや職員室がある二階となると難しかった。
そして、やっと見つけたのが、屋上に繋がる階段の一番上。ちょうど掃除用のロッカーなどが置いてある小さなスペースである。
そこに二人は座り、夕焼けに染まる踊り場の窓。たまに小さく映るサッカー部を眺めながら話しだす。
「わあっ! ここ景色いいね!」
和叶は愛助を見てキラキラした目で楽しそうに笑った。
素顔でいる時の、彼女の目の輝き。
ああ、あの日部室で見たのと一緒だ、と愛助は思った。
きっと夕焼けのせいじゃなくて、
本当に嬉しそうだったり楽しそうだったりすると、作った表情じゃない、キラキラとした目を輝かせるのだ。
――ふと。
あれ、と愛助は思った。
部室で見る以前にもどこかでそのような目の和叶を見た気がした。気のせいだろうか。
***
愛助は、最初こそは和叶と話すときに間が多い話し方をしていたが、もうそれはなくなっていた。
家では、家族と普通に話せる。
それとほぼ近い感じになっていた。
さすがに親譲りの方言混じりで話すわけにはいかないので、標準語で話す。
あと、愛助が和叶に伝えたのは、
「話さない」ではなく「話せない」のであること。
自分の意思ではなかなか思うように声が出せなく、声が出せる場所や場面、相手などが何故か限られてしまうこと。
「そっか、話さなかったんじゃなくて話せなかったんだね」
和叶はなるほど、と言って頷く。
「うん、何故か喉がつまった感じになるんだ。皆の前だと」
「へえ……」
「無意識に緊張がひどくなるみたいでさ」
「そうなんだあ。でも、家族以外でさ、何で私相手だとそれが急に出来たんだろう?」
「さあ……僕もよく分かんなくて」
「ふうん……でも、喉がつまる感じ、なんとなくだけど分かるかな」
和叶は胸にぎゅっと左手を当て、愛助に言った。
「そう?」
「あ、私は愛助じゃないから完全には分からないけど、ママの前やママの顔を思い出すと、
私も変な感じになっちゃうから」
「そっか……なんかこわばっちゃうよね。僕は笑うのも皆の前では出来ないけど、表情が固定されちゃうっていうか」
「そーう! 私も同じ!」
二人に共通していたものは、毎日、
「重くて自力では取れない仮面を常につけられているような感覚」という事だった。
「私も、無意識でそうなっちゃう。本当はいい子でいたくないの。ママの前でも学校でも、私らしく振る舞いたい!」
和叶は泣きそうな顔で本音を叫ぶ。
「自分」でいたい。
それは愛助も常に思っていることだった。
和叶は、座りながら顔をうずめてついに泣いてしまったが、
愛助は、分かる、分かるよ、と、うんうんと聞いてあげていた。
和叶は、安心して愛助に話していた。
「不思議だなあ、他の幼なじみや友達にはこんな事話せなかったのにね」
涙をハンカチで拭いながら和叶は愛助に笑いかける。
和叶も愛助と同じ、仮面がなければいたって普通の、まだたった十二歳の中学生なのだ。
ぎゅっ
「ごめん、ちょっとだけハグさせて」
「えっ」
和叶が小学校以来で、抱きついてきた。もうすることはないだろうと思っていたが、中学生に上がってもするとは。
さすがに愛助も思春期ではあるから、女子に抱きつかれるのは戸惑いはあったし、恥ずかしかった。
でも、小学校の時のような不快感はない。
あの時は、一人の人間として扱われてないようなハグだった。
しかし、これはハグだけに限った話ではない。
そしてなおかつ、和叶からだけとは限らなかった、あれだ。
「人形扱いして、いいようにされたあの感覚」
だから不快だったのだ。
自分の像を勝手に決めつけられ、こういう扱いをしていいと更に決められる。
――でもそれと同時に。
和叶の場合は、あの時のハグも、今のハグも、
「彼女の寂しさから来たもの」が根本にあったと、気づいてしまった。
もちろん、確かに無意識に人間扱いしてない点はあっただろう。
その点は愛助だって、許してない部分もあるのだ。
しかし、前は、「愛助を人形のように扱うことで癒されたかったこと」と、
今は「素でいられる相手に寄りかかりたい」というものに感じた。
「……大丈夫?」
時折、静かに泣く和叶を愛助は慰めた。
しかし、彼女は華奢で細い。
ちゃんと食べているか心配になるほどだ。
「大丈夫、ごめんね。ありがとう」
和叶は離れて、申し訳なさそうにお礼を言った。
***
和叶が大分落ち着いてきた時、愛助は腑に落ちたことを話すことにした。
「ごめん、さっき何で話せたか分からないって言ってたけど、
多分さ、多分なんだけど」
「?」
愛助が和叶に口を開いた。
その真相とは。
幼なじみっていいな、ってやっぱり最近何度も再確認してます。(今やってる朝ドラを見ながら)
昔から大好きな要素です。