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第三話 初めまして、幼なじみ

学校用語で、「あてる」が方言なのは知ってましたが、「教務室」も方言だったんですね……!?投稿間近で知り、ちまちま修正しました。

第三話 初めまして、幼なじみ


 驚いた顔をした二人はしばらくお互いを見ていたが、

和叶は急にスンっとした顔をして、

「愛助、入って」

と冷静に言い、愛助の手を引っ張り部室に引きずり込んだ。


 ガチャリ 

和叶は部室の鍵をかけた。

「ごめん、悪いけど着替えるから後ろ向いててくれる?」

 和叶はそのままの顔で、自分より小柄な愛助の肩をがしっと掴み、後ろを向かせた。

「……わ、分かった……」


 何か脅されたりするのだろうか。いや、まさか。

 愛助は嫌な思いがぐるぐるしていた。


「終わったから、いいよ」

 振り向くと、いつものロングヘアにメガネ姿の和叶がいた。

「あーあ、ばれちゃった」

和叶は、後ろを向き伸びをする。

「ここ実は、ちょっと前に廃部になったんだって。じゃあなんで部外者の私が入れたかっていうとさ」

 和叶は愛助にばっと鍵を見せつけた。

「これ、どうしたでしょーかっ!」

 そして、少し高い棚に座る。

「クイズね。

一、職員室から直接盗んだ。

二、先生を騙してその間に盗んだ」

 姿こそは同じでも、いつも見ていた委員長のイメージとは全く違う。

「衣装だってあったの勝手に着ちゃうし。

ほら、ね。あたし全然いい子じゃないでしょ」

 強気で、まるで悪い女王が見下すような表情をし、指に鍵をぶらさげ見せつける。

 そして、そのままにやりとした顔のまま顎に手を乗せ、足を組む。

夕焼けの光が彼女を照らしていた。


 ――ただどこか、哀しそうな顔にも見えた。


 愛助は気になっていた事を聞いてみることにした。

「……ねえ、さっきの君さ、すごく嬉しそうだったよね」

「へっ!?」

 和叶は素っ頓狂な声を出して驚いた顔で愛助を見る。

「……ああいうの、好きなの? お姫様とか、可愛いの」

「え、うん、まあ……」

 和叶は、ちょっとむっとしつつ、恥ずかしそう横に目をそらす。


 和叶はすとんと棚から降り、愛助の近くに寄る。

「愛助だってさ、こんな綺麗な声してたんだね」

「え?」

 和叶は、ふふっといたずらっぽい顔で愛助の顔を見た。

 愛助は、落ちつきのある優しい話し方と声をしている。

声変わりはまだしていないが、少年らしさと、どこか大人びた面を併せ持っていた。

「この世の誰一人、愛助の声を聞いた事がないのかと思ってた。私ってレアな事に直面したのかな」

 和叶は、ん〜、と腕を組んで考える。

「……家では普通に声は出せるよ。たまに方言とか入っちゃうけど」

「えっ、うっそ、そうなんだ!?」

「……和叶こそ…普段と声の高さや話し方が違うね」

「まあ、これが素のあたしだもん。声の高さも話し方も、しっかり者に見えるようにずっと作ってたってこと! ……でもいいね。愛助は、家では素で話せるんだ? 羨ましい」

「……どういうこと?」

「私は、ママの方針で常にいい子でいなきゃならないの。そうしないと、どこにも居場所がなくなっちゃうから」

 和叶は哀しさを隠しきれない顔で笑った。

そういえば、和叶の母親を行事などで見かける度に、キツそうな人だったのを思い出した。

自分も入学式で陰口を言われたっけ。


 そして和叶は、愛助は話している時、いつもの無表情だったり目つきが悪い感じではないのに気づいた。少しではあったが、表情が豊かになっている。

(愛助、こんな顔出来るんだ)

 和叶は驚きの連続だった。


――すると急に。

愛助は、うつむきながら尋ねる。

「……ねえ、さっきのクイズさ。一も二も違うでしょ」

「え? 違わないけど。だって、職員室にいた先生に演劇部見たいですって言ったら廃部になった、って言われたからさ。

でも、部室の中だけでも見たいって言ったの。そしたら先生一緒に来てくれる流れになったんだけど、その時、先生に用事が出来て鍵を机に置いて走って行っちゃって」

「で、そのまま持ってきちゃったと?」

「そうだね、結構待ってても全然来なかったし、忘れちゃったのかなって一人でここに来ちゃった。友達のお姉ちゃんが昔入部してたから場所は知ってたの」

「……それって騙してないし、盗んだとも言わないんじゃないかな。……来なかったとはいえ、持ち出すのはダメだけど」

 確かに素の和叶は委員長タイプではないらしいが、だからって不良かというと違う気がした。 

「……」

 和叶はそれを聞き、なんともいえない難しい表情をした。

それは、試したのに当てられてしまったという気持ちなのか、はたまた自分がやったことを重く見すぎていたのか――。


 そんなのもつかの間、

「あのさ、はじめまして。……みたいだよね、私達。まるで」

 和叶は愛助にぽつりと言った。

「え?」

「ずっと保育園の頃から知ってた……いや、知ってたはずなのに、お互い全然違う人間だったんだもん。ていうか愛助、私のこと内心ずっと呼び捨てにしてたんだ〜。へええ〜」 

 ニヤニヤしながら、うりうりとひじで愛助を小突く。

「……そ、そりゃ……保育園の幼なじみ達は皆呼び捨てしあってたから、まあ、自然と? だけど……」

 愛助はさっきの和叶みたいに、むっとしながら恥ずかしそうに目をそらす。


――お互い、ちゃんとした幼なじみとしての、はじめまして。


 それが今、中学生になって行われた。


「他の人にばらす? 素の私のこと」

 和叶は、愛助の顔を横から覗きこみながら、少し困り顔で言う。

「まさか! 言う必要ないから……」

「じゃあさ、またお話しようよ。私、今まで知らなかった愛助の事知りたいの! 私の事も話したいし!」

 和叶はにへへ、と子供らしく笑い愛助に提案した。

「……僕も、家族以外で初めて話せたから、また、話せたら、話したい……」

 愛助も頷き、了解をした。

「じゃあお互い秘密の共有者ってことで!」

 和叶は部室の鍵を閉め、ウィンクをしつつ親指でぐっとサインを出した。

「……そうだね」

 愛助は、少し頷きながら、今までの関係を考えたらまさかこんなことになるとは、という感覚でいた。


 なんだか不思議で奇妙だけど、

幼なじみの再出発が始まった。


「あっ、愛助、鍵持ち出したの一緒に怒られてくれない?」

「なんで!?」

 部室を後にし、他に誰もいない廊下には歩き出した2人の声が響いていた。

 

次からはギャグを挟みつ進めていきます,

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