第二話 本当の君
ついに物語の基盤となる回に突入しました。
2人を見守っててくれると幸いです。
本格的に中学生活が始まった。
他の小学校からも子供達が集まるため、また新たに友達を作ったり、小学校からの友達と話に花を咲かせるのだった。
和叶は、わかちゃん、かなちゃん、カナッペ等色んなあだ名を女友達からつけられていた。
が、友達含め全体からだと、委員長呼びをされるのが一番多い。
もうこれもあだ名みたいなものになっていた。
「おはよー、委員長。また同じクラスだね、よろしく」
「委員長は中学に入っても委員長すんの?」
「委員長殿! あなたと同じクラスになれて光栄ですぞ〜っ!」
なんて、声が飛び交う。
そう、私は、
「しっかり者でまじめで明るい委員長」
和叶は笑顔で自分に言い聞かせた。
――けれど、顔は笑っていたが心は全く笑っていなかった。
***
「えーと、これから自己紹介の時間になります。皆さん、少し時間を与えるので、何を話すか考えていてください」
清水先生が生徒達に向かってこう言った。新しいクラス恒例の自己紹介だ。
「ちなみに、私、清水慈は、昔ここの中学に通っていました。つまり皆さんの先輩に当たるわけですね。あと、好きな食べ物は果物全般、苦手な食べ物は……ええと、ないです」
「せんせー、身長何cmですか?」
「恋人いますか?」
「なんで先生を目指しましたかーっ!」
生徒達は清水先生に興味津々だ。
先生は、ふふと苦笑いして、秘密ですよ、と受け流す。
そして、一人一人自己紹介をする時間がやってきた。
皆それぞれ、名前を先生に呼ばれたら、特技や好きなもの、どこの小学校出身かなどを答えていく。
「では次、佐藤愛助さん」
「……」
愛助はうつむきながら、両手の拳を膝に置き固まっていた。
(どうしよう)
自分の番が来るのは分かっていたが、いざ来るとやはり話せないし、固まってしまった。
自己紹介が筆談だと時間がかかるし、皆にも見えない。
「あれ、佐藤愛助さん? どうしましたか?」
しーんと静まりかえる。
「先生ー、あいつは頑なに喋らないんです」
と、同じ小学校出身の男子が言った。
「そうなんですね。何か事情があるんでしょう。佐藤さん、話すのが難しいようなら飛ばしていいですか?」
こく、となんとか頷き、愛助は震えていた。
(先生ありがとう。そしてごめんなさい)
愛助は内心そう思い、次の生徒の自己紹介を聞いていた。
そうして、数日がたち、皆は部活動はどうするか?という話になってきた。
愛助はというと、学校で話せはしないが、演劇に興味があった。
というのも、昔見ていた特撮ヒーローがかっこよくて憧れがあったのだ。特にリーダーのレッド。
父親が特撮好きで、一緒に見ていて興味が湧いたというのも理由にあった。
だから、祖父から空手を教わった時期もあったし、実は幼少の時、かくれんぼで取り残された女の子を助け出したこともある。
父お手製のマントをつけ、顔を隠してもいたから、向こうには誰か気づかれなかったが。
でも、父親はよくやった、偉いぞ!と褒めてくれたのだ。
優しく穏やかで、愛助と同じ小柄ながらも、たくましく頼もしい父。
「愛助」の名前の由来も、愛を持ち誰かを助ける、という実に父らしい理由だった。
入学式は来られなくて残念だったけど、誇らしい父だ。
***
あちこちの部活動では入部体験が始まり、愛助は演劇部を見たいと思った。
以前に文化祭に来てお芝居を見た時、部室がある場所をこっそりと見ていた。
多分、あそこだったはず。
愛助は走っていった。
すると、わずかながら、ドアが開いている。
そこから見えたものに対して、
「あ……っ、え? は?」
思わず驚いて声が出てしまった。出せたのだ。自分でも正直びっくりである。何故かというと、予想だにしない人物が、そこで、ある事をしていたからだ。しかも、たった一人で。
そこにいたのは、髪をボリュームあるツインテールに結い、メガネを外し、薄い桃色の可愛らしいドレスを来て鏡の前で目を輝かせている和叶だった。
幼い頃から見ているから間違いない。髪型を変えても、メガネを外しても、和叶だとはっきり分かるのだった。
――しかし。
気配に反応したのか、
「えっ! 誰!?」
と和叶はドアの方向を見る。
声が普段とは違い、少しあどけなさを感じる高い声だった。
いつもの委員長的じゃない、年相応の声。
愛助はとっさに逃げようとしたが、和叶はドア付近まで来た。
「愛助? だよね……? なんでここに?」
愛助は自然と、
「それは、えっと、君こそ……」
と声が出ていた。
愛助が話した。
「嘘でしょ……」
和叶が驚くと同時に、愛助も自分に驚いていた。
まさか、こんなタイミングで声が出る日が来るとは。
次は部室で2人があれやこれやと、やり取りします。