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第九話 レッテルとルッキズム

約半年ぶりの更新になります。

体調不良が続いていたため、かなり遅れて申し訳ないありません。

二人はしばらく、しん、と黙り込んでいた。

話を聞いて、意味を察した和叶は愛助を見つめる。

愛助はとっさに下を向き、目をそらす。


 ――それは、もしかして私の行動も含まれてる?


と、和叶が愛助に言おうとした時、学校のチャイムが鳴った。

もう下校の時間だ。


「ごめん、僕急いでるから帰るね……! 

今の忘れて!」

 愛助は、モヤモヤを言って気持ちが少し軽くなった反面、言わなければ良かっただろうかと思いながら走っていった。

「あっ、愛助ちょっと待って……」

 と、和叶が止めようとしたが、

愛助はそんな間もなく颯爽と走っていってしまった。


***


 話は保育園時に遡る。

年中の途中、愛助が新しく入ってきて数日。

その頃から、愛助は皆の前では話せなくて、緊張して笑顔が作れなかった。

それに加え、背も低く髪質も綺麗で、顔も同年齢よりは幼く見える。


 だから、なにかあるとすぐ面倒見が良い女の子達がよく愛助の周りに集まるようになった。

「おとなしくてかわいい」

まるで小動物を可愛がるようにな、愛玩人形や赤ちゃんを愛でるような、そんな扱い。

愛助は無表情が多かったし無口だったから、それを嫌がってるのかどうなのか、周りも和叶も分からなかった。


 当時の男子は、基本的に女子みたいなことをする子はいなくて、黙っている愛助に

「いっしょにあそぼうよ」

と声をかける子が何人かいた。

愛助は、こくん、と頷き一緒にその子達と遊ぶこともあった。


 女の子は可愛いものが好きで、

母性があるから弱い存在を本能的に守りたいものだ。

そんなことをよくテレビでも見かけるし、雑誌でも見る。どんなところでも。それは当たり前、という世の中である。 


それと同時に。

集団心理として、

「あること」が存在している。

それは和叶が後に、偶然にも気付く機会が来る事となる。


***

 和叶は当時から、

「母に抱っこして」、と言っても気まぐれでしかしてもらえなかった。

だからか、保育園では色んな子や先生にぎゅっとくっついていた事があった。

とてもとても、寂しかったからだ。

けれど、

「自分が人にくっつきたくなるのは、寂しいという気持ちからくる」というのが分からなかった。


そして、

「お人形みたいで可愛いから」

「守ってあげなきゃいけないから」

和叶は他の女の子達のそういう言葉を聞き、真似をしてみようと考えた。

愛助にぎゅっとしてみよう。

なんだか周りの女の子は楽しそうだし、きっとしてもいいことだろう。

愛助だって嬉しいんじゃないか、と。


 和叶は、とことことやってきて愛助にぎゅっと抱きついた。

愛助はびくっとして、目を伏せていた。

確かに、愛助は可愛い。

抱きついていると安心する。


 ――そう、皆やってることだから私もやっていいんだ。

お姉さんやお母さんみたいに、守ってあげなきゃ。


 しかし、和叶には無自覚にも、他の女の子とは違う気持ちが含まれていた。

(この子に許されたい。甘えていたい)

この感情がなんなのか、もちろん知る由もなかった。


***

 小学校にあがり、三年生のとある面談の日。

担任は和叶の母にこう言った。

「和叶さんねえ、成績優秀だし本当に優等生でいい子なんだけど、一つ問題がありましてねえ」

母は首をかしげて担任に対して問いかける。

うちの子に問題なんて、といった感じだ。

「問題、とは……?」

「だれかれかまわず抱きつく癖があるんですよ。もう小三だから、

変な大人もいるし、男の子を勘違いさせてしまうからやめなさいね、ってこちらから言ってるのですけれど……」

「そうなん、ですか……? 

確かに昔はそういうとこありましたけど、今も学校でもやっているなんて初めて聞きました。家に行ったらきつく注意しておきます」

「お母さん、その前に……」

「なんでしょうか」

「和叶さんとの時間、ちゃんと作ってあげられてますか? もしかしたら寂しいのかもしれません」

「なっ、何を! 私だってシングルマザーでこれでも頑張ってます! これ以上どうしろって言うんですか!」

「お、お母さん、落ち着いて!」


 実はその当時、愛助はそばでそれを聞いていた。

(さみしい、か……)


***


 愛助は、あのいつもの場所での会話の後、和叶から逃げるように走って帰宅した。


自己嫌悪と共に、小三の時に和叶の母と担任の先生が話していたことを思い出した。

「寂しい……かあ。もしかしたら和叶は皆とは違うのかな」

でも、自分が嫌な思いをしたのも事実だ。

皆の前で勝手にいいように扱われるのは、どんな理由があってもいい気はしなかった。


 ――だけど。

愛助には自分の気持ちを伝えたら、否定や拒絶された経験が何度かあった。

以前、女子の数人に、

「申し訳ないけど、赤ちゃんや人形とか、動物みたいな可愛がりはやめて欲しい」

と筆談をしたのだ。

すると皆、この子自分の意思あるんだ、と言いたげな驚きの表情をして、

「あ、うん、そうなんだあ〜。分かった、もう近づかないようにするね」

と言われて曲解され避けられたことがある。

とある先生からは、自発的に動かない子だとしつこくからかわれていた。

それに対して、

「そういう事を言うのはやめて下さい」

と筆談をした。それに対して、

「アハハ! なーにー、私に逆らうのね〜。

そういうこと出来るんだ!? 

逆らってきたのあんたが初めてよ。絡んであげてるのにさあ〜」

と、笑いながら肩を押されたことだってある。


 それらの体験はつまり、自分が下に見られているからだろう、と愛助は悲しい気持ちになったのだ。

下に見られている限りは、どんな事を言っても何かしら理由をつけて否定、拒絶される。

悲しいかな、人間とはそういうものだと

中学一年でもう理解してしまったのだ。

 

 明日、和叶とどう接したらいいだろう、と愛助はひたすら考えていた。

きっと和叶だって、皆と同じかもしれない。


***

 そして、和叶宅では。

「仕事が遅くなるから、ご飯を食べて寝ていてね」

 母親は仕事で留守であり、書き置きがあった。

和叶はというと、愛助の事が頭にちらつきながらも、

ご飯を食べながらテレビを見よう!と意気込んでいた。


母がいない時は見たいテレビを見られるチャンスであり、色々とチャンネルを変えながらワクワクしていた。

「う〜、何がいいかな、何があるかな〜!」

その代わり、見た形跡をなるべく残さないようにしなければいけないので、気をすり減らすのだが。


ぱっとつけたチャンネルがにぎやかで面白そうだったので、和叶はそれを観ることにした。

番組のサブタイトルが画面の真下に記載してあった。

「レッテルとルッキズム……」

和叶は口に出して読んでみた。


 画面には、二十代のぽっちゃりした体型の男性がインタビューに答えていた。

「ぼく、小さい頃から太ってたからみんな勝手にお腹や手とか触りにくるんですよ!」

 あはは、と彼は笑いながら頭をかきながら話す。

しかし、徐々に声のトーンが落ちていき、笑顔がなくなって悲しそうな、悔しそうな声と表情になった。

「……でも、とても嫌でした。けれど、いじめじゃないし、ノリ悪いって思われそうで、嫌だけど笑ってその場では我慢してて……。今、この場で本音が言えて、良かったです」

彼は少し泣いてしまったが、何とか持ちこたえてこう続けた。

「何で嫌かっていったら、こういう人間だからこうしていい、っていうレッテル、つまりラベルが勝手に貼られていたからです。

別に触るなって事じゃなくて、

許可なくだったり、知らない人に通りすがりに触られたり……。

まるで人間扱いされてないような。人形のような扱いがずっとずっと、嫌だったんです。

そういう、【集団レッテル】が」


――そうか。なるほどそういうことだったのか。


 和叶は腑に落ちた。

多分、愛助もそういう理由でああ言ったのではないか、と。

私は、話さなかった……ううん、話せなかった愛助に、

「こういう人間だからこう接していい」と、勝手に思っていたんだ。和叶はそう気づいた。

皆がしていたから、私もそうしていいんだと勝手に思っていたんだ。

愛助の気持ちなんて、汲もうともせずに。


「ああ、そっか、私だってレッテル貼られるの嫌なのに、そんなのも気づかないでずっとやってたんだ……」

 和叶はテレビを観ながらぽろぽろと泣いてしまった。

「明日、愛助に謝ろう」

 和叶はそう決意して、母が帰って来る前にそそくさと片付けを終え、部屋に向かった。


***

 そして、次の日。

(私は変わらねばならない!)

と決意した和叶は、いつもより真剣に、そして慎重に一日を過ごそうと決めて登校してきた。


「あれっ、なんか委員長今日いつもより気合い入ってない?」

「そ、そう!? 気のせいじゃない?」

クラスメイトに言われて少しびくついたが、全ては放課後のあの時間のためだ。


 体育の授業後、いつの間にか、

「いつもの場所で待つ」

と、愛助の机に張り紙があった。

「決闘でも申し込むつもりなのかな……」

名前は伏せてあったが、筆跡と内容から和叶だと分かった。

話す事がまだまとまってなかったが、愛助は行く事に決めた。



 放課後。

愛助が少々不穏げな表情でいつもの場所に行くと、和叶が既に座っていた。

「愛助っ!」

 意外だった、と言いたげな驚いた表情で和叶は愛助を見る。

愛助は片手を頭に当てながら、

「物理だったら多分僕の方が勝つと思うんだけど……決闘の申し込みじゃあないよね?」 

愛助は和叶の張り紙を持ってきて見せた。

「け、決闘じゃないよ! 

そう見えた!?」

あわあわとギャグのようにパニックを起こし、和叶は顔を真っ赤にする。

「……君、天然なの?」

「ンンンッ、ごめん、気合入れすぎてなんか空回りしてたの!」


 恥ずかしさで茹でダコのようになっていた和叶だったが、

すうっと息を吸って、和叶は愛助に言った。


「っ、あのね!」


 ――君を知りたい、変わりたい。

だって、だってそれは。


 和叶は想いを告げる決意をした。

九話自体がすごく長くなってしまったので、一度切り、十話に繋ぎます。近々更新予定です。

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