うさぎが家にやってきた日
星灯りだけが夜空を彩る、ある冬の晩のことだった。
彼は家路を急いでいた。
彼は腕の中に、小さな段ボールの箱を抱えている。
中では、友達の家で生まれて2ヶ月ほどの、先ほどもらいうけたばかりの白くて小さなうさぎが、包まれたタオルから顔を出して震えている。
友達の家から自分の家までは、徒歩十分ほどの距離。
道ゆく人は誰も彼のことを気にとめない。
ましてや、段ボールの中に小さなうさぎがいるなんてことすら気づいていない。
ただ彼だけが、段ボールのうさぎのことを気にかけている。
早く家に連れて帰ってあげたい。
歩きはいつの間にか小走りに変わる。
うさぎは臆病な生き物だから、できるだけ段ボールは揺らさないように、丁寧に走っている。
しかし。
あっ
彼は小さな段差にうっかりつまづいた。
いともたやすく、段ボールは彼の手から離れ、地面の上に転がってしまった。
彼は半分泣きたい気持ちで立ち上がると、転んだ時にできた膝小僧の擦り傷はお構いなしに、慌てて段ボールを拾いあげる。
段ボールは少し潰れている。
うさぎは無事かな?
段ボールの蓋は互い違いにしているため、空いてはいないし、うさぎは中から逃げていない。
星灯りの中では、段ボールを開けても中の様子は分からないだろう。
ここでうさぎは外に出せないし、様子を伺うこともできない。
あと家まで少し。
彼は段ボールを再び抱えて走り出す。
今度は転ばないように。しっかりと足元も確認しながら走る。
家の柵を越え、玄関扉を開け、明るい部屋に入ると、彼は段ボールを開けた。
段ボールの中には、小さなうさぎが震えながら横たわっていた。
彼は段ボールから、そっとうさぎを取り出そうとするが、うさぎは暴れてうまく捕まらない。
段ボールの開き口を横にすると、小さなうさぎが震えながら飛び出してきた。
どうやら怪我はないようだ。
彼はうさぎを新しい小屋の中に入るよう、手で追った。
白くて小さなうさぎは大人しく小屋の中に入り、隅っこでうずくまって震えている。
ここが今日から君のうちだよ。
うさぎは震えたまま、何も答えない。
彼は半分泣きながら、人の指先ほどのうさぎの小さなおでこを撫でた。
しばらく撫でていると、白くて小さなうさぎは気持ちよさそうに目をつぶった。
2025/1/10
誤字が報告あり、その部分については少し修正を加えました。