4ヶ条(2)
「旅館に着いた、はぁ〜」
どっと疲れを感じるな。
「広くていい部屋だから余計にね。くつろぎたくも〜 なるよ〜」
ちょっと休むか。土産をジュースで流しながら。
「禿同〜」
「……ハッ?! 寝ちゃってたか」
おはよう。
「起こしてくれてよかったのにぃ」
あまりに気持ちよさげだったから。
「もうこんな時間じゃないか。お風呂入って寝るくらいしかできないよ?」
それでいい。
「おぉ、絶景かな。部屋にこんないいお風呂がついてるなんて」
すごい。そこそこ高い部屋にしてよかった。
「う〜 寒い寒い。早く入ろう」
あぁ。
「……ふぉぉぉ〜 極楽極楽」
開放感がとんでもない。家じゃ到底味わえないな。
「嬉しさのあまり何かが出てきそうだよ」
出すな、引っ込めろ。
「まぁまぁ…… お湯が、外気が、染みていく……」
そうだな…… 疲れが、とれる……
「はぁ……」
……
「つい無言になってしまうね」
入り浸っちゃうな。
「そうだ、せっかくなら…… よいしょっと、おっぴろげ〜」
おい、みっともないぞ。
「こんな機会もここしかない、千載一遇ってやつさ」
そうかなぁ。
「真の解放感が得られるよ。君もどうだい?」
……まぁ、いいや。やってやる。
「お、ノリがいいね」
最後だからな。
「そうさ、ありのままの姿を取り戻そう」
んっ、はぁ。
「そうそういい感じ。綺麗だよ」
なぁ。
「ん?」
みっともないの、最高に気持ちいいな。
「だよね」
「くぅ〜 お風呂上がりの1杯は至高だね」
ほどほどにな、強くないんだから。
「もぅ、子どもじゃないんだぞ?」
見た目はな。
「何だとぅ?」
俺もそんなもんだ。だから一緒にいるんだ。
「そうだったね」
寝るか。
「寝るの?」
嫌か?
「いや、いいんだけどさ」
「暗いね」
電気消したら暗いわな。
「月明かりがほんのりしてる」
幻想的。
「終わったね」
終わったな。
「明日の深夜だね」
だな。
「満足した?」
あぁ。1人じゃできないこと、たくさん経験させてもらったよ。
「うん」
ありがとう。
「こちらこそ…… 何だけどなぁ」
ん?
「全く、君というものは、ここまで無粋になれるものかね」
は、はぁ?
「満足なんてしてないはず、そうだろう?」
どういうことだ?
「シたいこと、まだ終わってないよね?」
何を……
「分かる、よね?」
まさか…… アレのこと、か……?
「アレだよ。みなまで言わせないでおくれ」
でも……
「でももだってもない。心の解放、ありのままの姿、あるべきところに還って1つになるんだよ」
1つに……
「うん…… シよ?」
……
「シたくない?」
……そんなことはない、決して。でも、5個目にならないか?
「これもデートのうちさ。みんなシたいことシてるよ」
そう、か?
「だからさ、君の口からも聞かせてほしいな。どう?」
……シたい。
「ん?」
シたい、お前と。
「そうか、何よりだ。同意も済んだ。早速始めよう」
ちょ、ちょい、心の準備が。
「ずっと待ちわびていたんだ、この時を。焦らさないで」
あ、あぁ。
「ほら、おいで」
うん……
「あっ」
ふっ、ふぅっ…… うっ、うぅっ……
「涙、出てるよ?」
嬉し泣きだ……
「そっか。同感だね」
うっ、うぇっ……
「あぁっ」
くぅっ……
「……すまなかったね、あまりに無知なものだからさ」
俺も。すまん。
「でも何だか、すごくすごかったよ」
そうだ、すごすぎた。
「まだ全身が震えて動悸がする。君もそうかな?」
あぁ。イききったって感じがして止まない。
「間違いない。イきたよ、最後まで」
「疲れたね、さすがに」
風呂入ったのにな。
「もう1回入る気力は無いかな。このまま寝ちゃおう。布団を頭まで被ってさ」
風邪引くぞ。
「いいよ。それも『イきた』ってことで」
暴論。けど、いいぞ。
「ありがとう。じゃあ、お休み」
お休み。
「朝風呂もよかった〜 愉快爽快イイキブン!」
いい旅館だった。中居さんも優しかったし。
「汚した布団、笑って許してくれたね」
『そういう方は多いですから、お気になさらず』だってさ。
「ほら、みんなシてるんだ」
だな。俺たちもだし。
「うん…… さて、もう準備はいいかい?」
万全。準備しすぎたまである。
「何よりだ。では行こうか、門出の式へ」