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エピローグ

 あれから数ヶ月。寒い冬もだいぶ和らぎ、もうだいぶ陽が長くなった或る日のこと……。

 潮見川の「あの現場」に三人の人影があった。

 新谷壮介・藤田洋、そして萩田亮平だった。

 亮平はあの後、しばらく危険な状況が続いたものの、奇跡的に回復し、つい数日前に無事退院した。しかし首には痣が生々しく残っていた。

 亮平が退院して、今日が壮介たちと再会の日となった。再会はそれこそお互い涙を流すくらい嬉しいものだったが、三人はそれもそこそこにこの場所へと向かった。

 

 あの日以降、事態は急激に動いた。あの晩の翌日、川奈晶子は警察へ自首。リン・エイミ殺害を告白した。

 晶子は現在も拘置され、警察の聴取を受けている。晶子は聴取の際、後悔・懺悔の言葉を繰り返し述べ、涙を流しているとのことだった。


 汚れきった潮見川を眺める三人。全てはここから始まったのだ。

「なあ壮介、洋、お前たちには迷惑をかけたな、すまない……」

 亮平は二人に向かって頭を下げる。すると壮介たちは顔を合わせ、両手を横に振る。

「いやいや、こっちこそ……」

 壮介は頭をガリガリと掻く。

「こっちこそ、あの約束守れなかった」

「約束?」

 その言葉に亮平はキョトンとした表情を作る。

「あの手紙だよ。あの手紙で、萩田君は俺に誰も悲しまない形で真相を導き出してくれって言ってたけれど、そうはならなかった……ごめん、本当に」

 壮介は亮平に向かって深々と頭を下げた。

「壮介……あ、頭を上げてくれ」

 頭を下げ続ける壮介に亮平が近寄る。

「気にするな。どんなことでも、真相を導き出してくれたんだ。俺はお前に感謝しているよ」

「そうだ、気にするなよ壮介」

 亮平に続き、洋も壮介の肩をポンと叩く。顔を上げた壮介の瞳には涙が滲んでいた。

「ごめん、本当にごめん……」

 壮介は目尻を袖で拭う。

「気にしないでくれ壮介。でないと俺もまた悲しくなるから……」

 亮平は優しく壮介の肩を叩く。そしてようやく壮介の顔に笑顔が戻り、頭をポリポリと掻いた。

「そう、そうでなくちゃな」

 亮平にも笑顔がこぼれる。あれから亮平はだいぶ明るくなった。

「萩田君は、これからどうする?」

 洋が亮平に訊ねる。すると亮平は視線を下に落とす。

「晶子のことか? 待つよ。出てくるまで」

 その言葉を聞いた洋は口元を緩める。

「今度は俺があいつのことを支えてあげなきゃいけない。俺がリンに支えられていたように。その日がくるまで、俺はどんなことがあっても待ち続けるよ」

 亮平は力強く、そう言った。それを聞いた壮介はニカッと笑った。

「そうか!」

 壮介は頭をガリガリと掻き、亮平の肩をポンと叩いた。



「行くか、そろそろ。お前バイトの時間だろ?」

 壮介が洋に話す。

「そうだな。そろそろいいかな萩田君?」

 すると亮平は軽く頷いた。

「行こうか」

 三人は「あの現場」から歩き始めた。

「そういや洋、あの人覚えてるか?」

「あの人って誰だよ?」

「ほら、キューピットであった仁藤冴子さんだよ」

 すると洋はピンときた様子。

「ああ、あのオバちゃんがどうかしたのか?」

 すると壮介はニヤリと笑う。

「この間偶然道でばったり会ったんだよ。あの人この街を出て行くんだってさ。何でももう一度神戸へ戻って自分の店始めるらしいわ」

 壮介が笑いながら話す。蚊帳の外の亮平はポカンとした表情。

「いやあ、お前さんを捜している時に、色んな出会いがあってね。普通に生活してたら出会えないような人とも出会っちまったよ」

 洋も笑いながら亮平に話した。


 笑いながら潮見川沿いの道を歩く三人。

 太陽はもうだいぶ西の方角へと傾いている。

 そしてその反対側で、白い満月が薄っすらと輝きはじめていた……。



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