プロローグ
見えない。
何も、見えない。
もうどれくらい歩いて、どのくらい遠くまで来たのだろうか。
目の前は真っ暗で何も見えない。ずっとこのままだ。
この先に何があるのかは勿論、今歩いている所は道なのかも判らない。
決して目を閉じているわけではない。ちゃんと目を開け、しっかりと前を向いているつもりだ。
なのに、なのにどうして、目の前には何も見えないんだ。
一度、立ち止まってみる。
でも、状況は変わらない。何も、変わらない。
目を閉じてみる。しかし映る景色は目を開けている時とまるで同じ。
再び歩き始める。
怖い、何だか怖い。
何も見えない、誰もいない、こんな真っ暗な所で心細く一人ぼっち。
声を出しても、何の反応もない、誰にもこの声は届かない。
あまりに怖くて、寂しくなって、再び立ち止まる。
初めて正面から視線を外し、下を向く。
するとそこには足先がぼんやり見える。
少々年季が入った白いスニーカー。
この靴を履いて、今まで歩いてきた。
上空を見てみる。
そこには、小さな満月。
その満月の放つ弱くて、そして優しい光が、足先を照らしていた。
そうだ、思い出した。
こんな真っ暗闇の中、何で歩き始めたのかを。
月が、月が足先を照らしていてくれたから、どんなに寂しくても、怖くても、どこまでも歩いていけると思ったんだ。
どんなに小さくても、弱くても、それが足先を照らし続けてくれる限り、くじけずに歩いていける。
だから、これからどんな暗闇が待っていようとも、歩いていけるんだ。
そう思うと、さっきまでの怖さや寂しさが嘘のように消し飛んだ。
そして、再び歩き続けた。
その先に何があるなんて判らないくせに、どんどん歩き続けた。
そう、歩き続けたんだ。




