8 君と彼は、似てるようで違う。もう、私には分からない。
「うっ....また点数低い。やっぱり私の歌って、あんまり聞けるような声してないかも...」
「そうかな?五十点だけど、別に音感は悪いとは思わないんだけど、なんか変な部分で伸ばすし、変な部分で音程変えちゃうし、ある意味....オリジナル感が凄いというか」
「......それって、褒めてる?」
「褒めてる。褒めてる。」
「そうかなぁ....」
カラオケに来たら、初めに採点を入れる。それが、普通らしい。
健人は、来た瞬間に、精密採点DXという採点機能をパパっと、慣れるように入れてしまって...私の音痴加減が点数に現れてしまう。
ハッキリ言って、点数なんて知ったことじゃない。
私は、私になりに歌えればそれでいいと思ってる。
「それでも、凄いなぁ...こんなに、音外しまくってるのに、聞いてる側は結構 心地いいんだよな。そのセンスがあれば、作曲とかしたら売れるんだろうなぁ」
「作曲なんて、無理無理。絶対、無理。だって、凄い言葉の羅列が凄い高度だもん」
「そうかなぁ.....」
この話を続けてたら、私が作曲させられる可能性がある。
私は速攻取り消しボタンを押して、次に促す。
「早くっ!!次の曲、健人でしょ」
「あ、うん。」
マイクを手に取って、歌い出す。
私は、知らない曲なので....適当に、次の曲なににしようか。と悩みながら、曲を入れる。
そうやって、テンポ良く進んでいく。
二人だけだから、結構ドキドキするかな。っとか思ってたけど、割とテンポ感早く進んでしまう。
でも、健人の声....歌を歌い始めると、結構高めになるんだなぁ。
「〜だっ!!.......ふぅ....結構 喉が、限界になってきたな。」
「なにか頼む?ポテトチップスとか」
「塩分が水分をすいとって、逆効果だな。」
「ふふふ、確かに、そうだね。」
返し方が予想外すぎて、笑ってしまった。ポテトチップスで、喉を気にする人...初めて見た。
「なに、笑ってんだよ。」
「いや....面白い返し方だなぁ...って」
「カラオケだよ?本気でやんないと。時間一杯、楽しみたいでしょ。」
「そうやって、ガチガチでやってたら楽しいものも、楽しくならないかもよ?」
「今楽しくない?」
「全然」
「なら、いいじゃん」
「あ......」
採点機能が、よく分からない音を発した。重低音と、高音の強弱が強くなった?と思った時に、九十点という点数が出てきた。
「凄い。九十点だよ?私は、四十点なのに」
「そうだね。でも、俺は凜音の歌い方の方が好きだよ。」
「..........高みの見物やめてもろて」
「本音なんだけどなぁ.....」
なんだか、一緒にカラオケをしてるっていうだけで、テンションが上がってきて、口調がおかしくなってる気がする。
別に、変じゃないからいいよね。
「......あ、この機能使ってみたいっ!!」
「ん?なに.....え、」
私が、見つけたのは可愛い女の人の動画が歌う途中で流れてくる機能。
可愛い子を眺めながら歌えるんだよ?最強じゃん!!
「いや....まぁ、その、やりたいなら、いいけど」
「うん。じゃあ、入れるね」
「遠慮がねぇ....」
そうして、歌ってる途中で流れる際どい格好をした女性の動画。と、歌....
可愛い。一生見れる。
「これ、どんな気持ちで歌えばいいんだ」
「楽しい。」
「楽しいんだ。」
「うん。楽しいよ」
歌ってる途中の、健人の顔がちょっとだけ引きつってるような気がするけど...やっぱ、癒されるなぁ.....私、この子の絵を描いてもいいかも。
「........ね、ねぇ.....あの、元に戻さない?」
「え?んー、別にいいけどなぁ...楽しいのに」
「......う、うん。ごめんね。」
元の画面に戻った時の、ホッとした表情が、ちょっと癖になりそうだった。
また来たら、この機能使お。
健人を遊べるのと、私が嬉しいので一石二鳥だし....
途中、店員さんが健人が歌ってる途中で入ってきて、その度にちょっと居にくい顔するのも、面白かった。
『ご注文頂きました。ロシアンルーレットたこ焼きでございます。』
「ありがとうございまーす」
私は、テーブルに置かれたモノを、ジュースとかをズラしながら、置く。
名前の通り、普通のたこ焼きではなくて、三つくらいの唐辛子がたこ焼きの中に入ってるという体験型パーティーゲーム用の食べ物。
段々、テンションが上がってきたので...こういうモノを注文するのも悪くないと思うんだよね。
「これ、俺と一緒に食べるの?」
「うんっ!!」
「.........嘘だよね?」
「こういうのも、楽しみの一つでしょ?」
「.............そ、ソウダネ」
初めは、ノリノリだった健人は、もはや私の勢いに追いつくことが出来ずに、従順な下僕となっていた。
そんなことには、一切目もくれず、私は適当に二本の爪楊枝を取って、たこ焼きに刺す。
「じゃあ、私からいくよ」
「え....う、うん。分かった。」
一つ口の中に入れる。
もろりとホグれる.....とか、なんとか言うのは、食レポになってしまうので、とりあえず美味しかったと言っておく。
辛味はなかったので、セーフ。
「.......はい、次、健人の番だよ。」
「え、あ.....うん。分かってる。や、やってやるぞぉ」
たこ焼きに、刺して食べる。
目を瞑って食べるので、なんて言うか....可愛いな。
「大丈夫だった。」
「よし、次は私ね。」
そうして、パクパクと食っていく。運がいいのか悪いのか。
ライトの一個を、健人が食べることになった。
「え....これ、絶対ハズレじゃん!!」
「いやいや、もしかしたら食べちゃったかもしれないよ?」
「そんなわけないだろ。絶対ハズレだからっ!!確信を持って言える。これは、ハズレだっ!!」
「じゃあ、食べないの?」
「食べるに決まってる。」
「よく出来ました。あっ....」
なんだか、流れで言ってしまった言葉を口をふさぐ。
こういうのは、年上にはよくないって、思ってたのに...
凄く今更な気がするけど...今のは、流石に...
そうやって、気にしてると、思い切ってパクッとたこ焼きを食べて、涙を浮かべてる健人が見えた。
「辛っ!!はぁ...はぁ....水、水っ!!ゴクッゴクッ....プハッ.....はぁはぁ」
「.........」
私が、深刻なことを考えているのに、凄いマイペースに食べていく健人。
なんで.....なんで、そうやって...
「........はぁ.....まだ、口が辛い。小さなことを気にしてるみたいだけど」
「........うん。」
「俺は、別に気にしないから」
「............うん。」
「というか、今更だろ。そういうの」
「そう....だね。」
別に...気にしてたやけじゃないけど...少しだけ、心の中で、分けていた。
彼との距離感を...
彼との...心の幅を。
だから...別に、本当に気にしてるわけじゃないけど....気にしてるって気づいてくれた彼が、とても...気遣いのできる人間なんだ。って、改めて実感する。
「別に....気にしてないし」
「ならいいけど。」
言葉では、言うけど...
こうやって、この人に寄りかかってしまうと、抜けられなくなるような気がして...時間、経つのは早いはずなのに...
「どうして、」
「ん?」
「どうして、こんなに、私と付き合ってくれるんですか?」
「んー....それは、多分」
そうやって、言葉を出そうとした時に、コップを手に取る。
ゴクリッという、水を飲み干す音がカラオケの画面に移る女の人のCMでかき消される。
「楽しいからじゃないかな」
「........」
どこか落胆のようなモノを感じた。これが....私の欲しかった答えじゃなかったことは頭の中では分かってる。
多分、そんなに人との距離って、縮まらない。
でも...今は、これでいい。
というか、これがいい。
私が、求めていた言葉よりも...ずっと、ずっと心に響いた。
「.....私と居ると、楽しいんですか?」
「......うん。楽しい。楽しかったら、一緒にいない」
それは、そう。
だから...こそ、物足りない。どうして、どうしても...別の言葉が、頭にチラつく。
でも、その言葉には余りにも早すぎるから...
「ありがとうございます。」
「ん?どうしたの?」
「........別に、どうしようもしてない。次の曲歌いたい。」
「え、あ...うん。そうだね。」
ポテトチップスの塩分を、気になってた人が一番喉にきそうな辛いたこ焼きを食べた。
楽しいからって分かってるわけじゃないけど、楽しいって思う...そうやって、感じてくれてる人が隣にいる。
なら....私も、精一杯楽しもう。
これが....楽しいじゃなくてなんだというのか。
「健人」
「ん?どうした?」
「また、デートしようね。」
「んー...時間出来たらいいなぁ」
「作ってっ!!」
「分かった。分かったから...暴力に頼るな。」
ふふっ、とどこか頬を緩めた健人に、私は笑顔で返した。
そうして、再び今日という日が始まる。
恋物語に...悲哀は付き物とは誰が言った言葉か。
あ、私の言葉だ。
「痛い....」
起き上がれない。
思ったより、深刻な痛みに私の体は、一ミリも動くことができなかった。
なにが痛いかって、一番は背中が痛い。
まるで、骨の中に響くような痛みが襲う。
でも...骨までは、行ってないんじゃないかな。直感的...というのは、よくないけど...骨まで言ってたら、修復するために熱くなると思う。
昔...骨折を一回だけしたことがあるけど、そんな感じだったなぁ...という、経験談だから...信憑性がある。
(動けない程の痛みを感じたら、医師をきちんと相談してください。)
「仕事に、行ってくるわね!!学校行くのよっ!!」
「お母さん。私は、学校にいけないって行っておいて」
「はぁ?また?あなた、そろそろ出席日数を気にした方がいいわよ。」
「.....これっきりにするから....」
「はぁ...分かったわ。伝えておくけど、出席日数は大事だからね!!」
「はぁい!!」
出席日数は、大事である。休めば休むほど...単位が取れない場合があるため、きちんと授業に出るのが一般的ではあるものの...やっぱり、動けないため...うん。休む時は、休んだ方がいいと思った。
はぁ...今日休んだら、学校行けるかな...
そうして、私が思ったことを呟く。
「彼のことを忘れない」
「彼のことを、忘れるためにやってきたこと」
「幸せになること」
「努力が足りなかった」
「私を攻めてスッキリしたいだけ」
そして....
「私は、あなたを私は忘れることはできない。」
全ての言葉が、私に刺さる。なにかもが...私の心を抉る。
涙が、つうっと、頬に落ちる。
声が出ない。
まるで、あの日のように....
「.....っ......ぅ.......」
私は、涙を流すことができる。
感情がバグってるのかもしれない。
仰向けになって、布団に声を出せない。
だって...私は、天井を見ているから
「ふっ....ふっ......ぅ......」
嗚咽とも、呼吸音とも言えない音が、私の耳に届いて、私自身を催眠していく。
私は、今泣いてるんだ。と、気づいてるから...
こんなことに...果たして意味があるんだろうか。
「正論を、言われなくても分かってる。」
きっと、心の中で、分かってる。正論なんか、頭の片隅にあるのに...それでもしてしまうんだ。人間だから...
「明日は、少しだけ...勉強に集中できるかな。」
勉強をした方がいいことは、分かってるけど...実際は、そんなに勉強出来ないし....健人が、私と一緒にいるのが楽しいとかも、分からないものだから、結果だけが着いてくる。
そうやって、色々考えていると、なにもかもがどうでもよくなってくる。
でも、明日はやってくる。
「っ.....!!!」
ガタリッと、私はベットから転げ落ちる。
必死に、腕の力が体を動かして、ダイニングへと向かう。
そこにあるナイフを目指して....私は、ゆっくりと、ゆっくりと進む。
別に、大したことじゃない。握りたくなっただけ。
別に、大したことじなない。ちょっと、見てみたくなっただけ。
私が、死ぬ姿を見て...満足する。
そしたら...もしかしたら、漫画やアニメみたいに死んだ後で私達は、巡り会うかもしれない。
「ぅ....はぁ.....ふぅ.......」
幸せ?私の幸せは、あなたと一緒にいることだって、初めから分かってた。
なんで、呑気に生きているんだろう。だって....こんなに、意味の無い時間を過ごしてる方がどうかしてるじゃないか。
正論だったら...
「君は、さっさと死んでしまった方がいい。」
というのが、一番正しいじゃないか。
私の口調変かな?かも....
突然、ピーンポーンという音が鳴る。
私は、そっとドアに目線を向ける。
......ガチャリと、私が開けずに扉が開く。
お母さんが、カギを閉めなかった性で.、入ってくる。
「........なにしてるんですか。凜音さん」
「.......なんで、雪斗くんがここに来るの」
私は、恨みがましい目線を向ける。
小さな男の子が、私に駆け寄って、そっと私のベットへと持っていく。
「嫌だっ!!嫌だっ!!」
「..........ダメです。絶対に」
「嫌だっ!!離してよっ!!」
「それだけは、ダメです。僕が認めません。僕が許しません。」
「なんで!!なんで、なんで....私のことを止めようとするの」
「死んでいい人なんていない」
「私は、健人に会うの。あの世で...きっと、物語の人物みたいに、向こうで愛を囁きあって、結ばれるのっ!!」
「そんなの、ありませんっ!!物語は、物語です!!僕は.....あなたに会えてよかった。」
「嫌だぁ!!嫌だァ!!」
バタリと、扉が閉じる。それが...合図である。私が、外へと出られない。私が絶対に会うことができない...と、分かる。絶望への合図である。
雪斗くんは、私の足を引っばって、その場で手を離す。
「ぁ......なんでっ!!雪斗くんには、関係ないでしょっ!!!私は、雪斗くんがよく分からない。正論で通すなら、私は死んだ方がいいはずっ!!どうして、一番正論を押し付けた君が私を止めるのっ!!」
「.............」
「ねぇ!!答えてよっ!!努力が、足りなかったんでしょっ!!人一倍努力すれば、彼を救えたんでしょっ!!ねぇ!!私は、努力をしなかった。だけど、死んだらっ!!会えるでしょっ!!死んだら....」
「ただの願望でしょ。」
「チッ!!お前がっ!!それを、言うなっ!!」
ガンッと、床を叩く。私の声が、響く。なんで...こんなに、嫌な気分にさせるのか。
そんな....そんな一言で終わらせて欲しくない。
そんな言葉で、終わらせられるようなものじゃない。
「なんで!!そうやって!!なんでそうやって、人をキレさせるようなことを言うの?ねぇ!!なんでっ!!」
「.........凜音お姉さん。僕は、嫌いなんです。死のうとしてる人が」
「だったら、関わらないでよっ!!」
「感情的になって、モノを言う人が嫌いです。人と、話をしてて...全部真剣に答える人が嫌いです。」
「だからっ!!だから.....なに?」
地面に足を踏みつけて、私を上から目線で見てくる雪斗くん。
まるで、醜く地面を這いずり回る幽霊のように...私は、ボサボサに垂れた髪の毛から、呪いでも浴びせるかのような目線で、彼を見つめる。
雪斗くんは、真っ直ぐに声を出す。
「希望的観測でなにかをしようとすんなよ。僕は、あなたのような人間が大っ嫌いだ」
「..............」
顔を近づけて、言葉を口にする。
生意気な子供の言葉が、妙に尺につく。
「なんで...お飾りみたいに生きてなきゃいけないんだ。」
「............」
「どうして、あんたは写真を取られた時に、取るなっ!!と口にしなかった。」
思ってたよりも、長かった彼の前髪が、私の目に入って痛い。
「なぁ.....お前、分かるかよ。そうやって、醜く下に這いつくばって死ぬんだろ。それがお似合いだよな。お前......」
「誰が.......」
「.........なに、言葉に惑わされてんだよ。」
「だからっ!!」
「見てて、イライラする。」
「子供の癖に」
「あぁ...そうだよ?子供だけど、悪いかよ?僕は、子供だ。悪いか?」
「何開き直ってんの」
思わず、目線を逸らす。言葉が、出てこない。なにも変わってないのに....なにも、言葉が出てこない。
なんて言えばいいの...私。
「僕は、別にあなたを嫌いな人だと思ってる。こんなやつだったら、正美の方が、骨がある。」
「なんも、知らない癖に」
「.......僕は、凜音さんが大っ嫌いです。でも....同じくらい、大好きです。」
..........は?
「.....ちょっと、怖いんだけど....なに、どういう流れでそうなったの」
「別に、どうもこうもないですよ。だって、一番張り合いがいのあるのって、凜音お姉さんくらいしか思いつかないからです。」
「.........はぁ........」
「ちょっとは、シラケましたか?」
「.............」
なんか、バカらしくなってきたと言えば、嘘では無いかな。よく分からないけど、凄い馬鹿らしさのようなものを感じた気がする。
それは、どちらかといえば、あ....この子には、なにを話しても、響かない子なような気がするという意味での馬鹿らしさに近いかもしれない。
「じゃあ、そろそろベットの上で大人しく寝てください。全く、手間を掛けさせないでくださいよ。」
「え、あ、うん。」
私は、流れるように雪斗くんの肩に乗っかって、そのままベットへと運ばれる。
あれ....おかしい。
だって、さっきまで私....死んでやる。って意気込みだったのに、一気に消化されたような気がする。
「よし、これでおkっと」
「というか、なんで雪斗くんがこんなところにいるの?君....なんで、私の家に上がりこんでるの?」
「いや....昨日の怪我の具合だと、きっと学校にいけないだろうな。と思って、ちょっと寄ってみようと思っただけです。そしたら、こんな具合に」
と、言いながら少しだけ目線をずらして話す雪斗くん。
嘘....だよね?それに、前と同じように病衣を着ている。
「どこかから.....抜けだけしてきた?」
「いや...ほら、コスプレですよ。コスプレっ!!ほら、たま〜にあるじゃないですか。病衣姿のコスプレ、子供用の服とか全然売ってますからねぇ」
「あるあ.....ねぇよ。あ、んん....いや、あなた....本当に抜け出してきてる?」
「..........そんな、訳......ないでしょ」
歯切れの悪い雪斗くんに、なんだか心配になる。
また、もし....早く見つけていたら、なんて不安が....
「ダメだよ。雪斗くん。病院には、いかないと.....イテテ」
「はぁ....背中が、痛いんでしょ?ちゃんと休んでくださいよ。」
「.............うん。」
動けないなら、どうしようもない。
勝手に中に入りこんだ子供に、私は少しだけ困惑しつつ、どうしようかと悩む。
「さっき、死のうとしてましたか?」
「............」
「死のうとしてましたよね。般若みたいな顔で、僕を睨みつけてましたもんね。それは、もう....凄い形相でしたよ。木下 奏さん。でしたっけ?あの人に会った時くらいには......」
「ぅ......うん。」
私は、背中の痛みも気にせず、雪斗くんに背を向ける。
多分....どうしようもないくらい、みっともない姿だっただろう。
そっと、手で髪を整えておく。
まぁ....子供だから、あんまり気にしてないけど
「はぁ.....僕、こんなに人が本気で死のうとする場面を初めて見ました。」
「うん......」
「でも、怖いですよね。一人って、本当になにを起こすか分かったものじゃない。こうやって、僕と二人でいる時は、全然問題ないのに」
「.............」
なにか、グサリと刺さる。やっぱり...雪斗くんは、嫌いだ。大っ嫌い。
私は、自殺を必死に正当化していた。
「ねぇ.....雪斗くん。」
「ん?なんですか?」
「...........明日が来なければいいのに。って、思ったことはない?」
「........何度もありますよ。色んな人に怒られたりするので」
「そしたら、明日なんて来なくてもいいんじゃない?」
「....今、僕と話してる時間。嫌いですか?」
「........嫌い。」
「それは、良かったです。じゃあ、別にいいんじゃないですか?それで」
「答えに、なってない.......」
モヤモヤとしたモノが残る。
だって.....だって、別にいいじゃん。死んだって.....
明日....明後日、生きなくたっていいじゃん。
もしかしたら、天国で彼に会えるかもしれない。
その希望だけでいいじゃん。
「雪斗くん。幸せって、なんだろうね」
「嫌いって思うことじゃないですか?」
「訳が分からない」
なんで、嫌いって思うことがいいことになるのか。
なんで、嫌いが正当化されるのか。
意味が分からない。
「凜音さん。正論って、嫌いですか?」
「嫌い.....大っ嫌い」
「じゃあ、嫌いって思うことが幸せって思うのは、正論じゃないと思いますか?」
「正論じゃない」
「じゃあ.....嫌いが、幸せってこともあるんじゃないんですか?」
「.......トンチじゃん。ただの......」
なんだか、言葉を使ってるのが、バカらしく思えてくる。
現代の一休さんが、隣にいるよ。ハハハ
「寝ていい?」
「どうぞ。寝てください。」
静かに、目を閉じる。
死ぬことを正当化することも、生きることも正当化することもできる。
「雪斗くん。」
「寝るんじゃないんですか?」
「生きるのって、めんどくさいね。」
「僕は、まだ生きてる時間が短いので、分かりません」
共感してよ。そこは....正美だったら、共感してくれたかもしれないけど....この子に言っても意味無いことが分かったかもしれない。
.......
「また.....健人のことを思い出す旅をしたい」
「.......あなたが、また.....死のうとしないなら、僕はついて行きます。 」
「ぁ......ん......でも、私......」
「別れを言うなら、僕は賛成です。けど....引きづるのなら、僕は反対です。」
「.............別れ.........る。」
だったら.....こうしたら、どうかな。
「雪斗くん」
「なんですか?」
「.......健人と、出会った場所も、終わった場所も、坂上公園なんだよね。」
「そう.....なんですか。」
「だから....私は、彼に会う最後の場所は、坂の上公園だから。」
「はい。」
「......最後の場所で、彼に....別れを告げたい。」
「そう.....ですか。」
「だから....私が、死のうとしたら君が止めて」
「............正美さんじゃなくてもいいんですか?」
「だって....正美今....青春してるから....邪魔したくない。」
すすり泣く声が、部屋の中に響く。
やっぱり、私は泣き虫だから.....本当は、正美も一緒にこの旅に来て欲しいけど....正美は、私とは違うステップを踏んでるから。
「.........私も、正美みたいな....青春を送り続けたかったな。うっ....」
そっと、誰がが倒れてくる。
私のお腹あたりに、雪斗くんの小さな頭が乗っている。
「僕じゃダメですか?」
「............」
声変わりのしていない男の子の声が呟く。
思ってもいなかった声に、私は....なんとも言えない気分になる。
どう反応していいのか分からないけど...
「さっき、嫌いって言ってたじゃん」
「好きとも言ってましたよ。」
「君の好きはまだ、likeの好きでしょ?」
「かもしれません。」
......微妙に、なんとも言えない空気になりながら、私は男の子の頭を手を置いた。
「その気持ちは、嬉しいよ。」
「......そう、ですか。」
そっと、雪斗くんの頭を、撫でる。
ごめんね。
雪斗くんが、多分私と同じくらいの年齢だとしても...
もう、私には、恋愛が分からないから。