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6 どうしてそういうこと言うのっ!!!私は....私は

「久しぶりにカラオケに来たなぁ」


「え....私ほとんど歌えないけど、大丈夫なの?」


「多分?」


 とある休日の日に、私は健人に誘われて、カラオケに来た。


 特に、用事があるわけじゃないし...別にいいか。暇だし...

 みたいな理由で、行ったと思う。


 私は、友達とかいる方じゃなくて、どちらかというと孤立する方なので、初めてのカラオケに少しだけ...ドキドキしていたような気がする。


 別に、外でデート?でもよかったんだけど...十二月真っ只中で、寒すぎて外に出たくないし...じゃあ、どうせなら屋内で遊びに行こうとなった。


「あー...本当に申し訳ないんだけど、順番待ちが長そう」


「え、予約してないのっ?」


「久しぶりすぎて、忘れてた」


 てへっと、笑う健人のお腹あたりに、パンチを食らわした。


 げぇ...とか、変な声を発して、お腹を抑える健人に...いや、そんなに強く殴ってない。コツンッとか少し当たった程度でしょ。


「ごめんって、もう..しない。もうしないから」


「ほんと、ちゃんとしてよね」


「う、うん...ちゃんと、するから」


 私は、ちょっとキレながら、椅子に座って...スマホをいじる。どうせだから、なにを歌おうか考えようかな。ボカロと、ヒット曲は絶対におさえるべきでしょ?


「むぅ....量が多い。やっぱり、事前に覚えとくべきだった」


「何聞いてるの?」


「あぁ....んー、ほら...ヒット曲メドレー的なのを、見てる」


「ヒット曲!?!俺、アニソンしか歌えないんだけど」


「えぇ....」


 アニソンって、私知ってる曲あんまりないなぁ...

 いきなり、アニソンを歌い始めたら困るような気がする。だって...なんか、色々分からないの多いし...


「なんか、カラオケに入る前に予習しとく?」


「え....予習ってなに?」


 健人は、そう言うと ポッケの中から、ブルートゥースイヤホンを取り出す。


「片耳貸すから、それを使ってよ」


「んー、私、耳につけるつもりないよ。ちょっと離ししてて聞くから、ちょっと音大きくしてね」


「わかった。」


 彼は、一つを自分の耳につけて、もう一つを手に取って渡してくる。


「....ん」


「ありがとう。」


 私は、イヤホンを近づけると、ピアノと、低音のギター?特徴的な曲が流れる。

 なにか、幻想的なバトル系を想像させるような曲調だった。


「....凄い」


 自然と、心が浮かされるような曲でなんだか...耳に残る。


「......スノードロップぅ......」


 ふと、健人の方が気になって見てみると、涙を浮かべて誰が名前を呟いている。花の名前だったような...


「あ、ごめん。ちょっと、アニメのことを思い浮かべたら、涙が出てきちゃって」


「そ、そうなんだ。え、えぇと...これって、アニメの主題歌なの?」


「え、いや、キャラソンだけど」


 ......凄いけど....凄い、マイナーなところの、歌を聞かされているような気がした。


 曲を聞いてるには、聞いてるんだけど...健人の方から、凄くいい匂いがした。なにか、塗ってるのかな?女子だったら、香水とか、付けるけど...


「ん?どうしたの?」


「ん、うんん。なんでもない。」


「そう?あ...発券番号 0003135Gだって、俺らの番号だ。なんか、もっと時間かかるんじゃないかと思ってたけど、以外と早かったな」


「そう....ね」


 そういえば、カラオケって言ったら、密室になるんだよね。なんだか....んー、ちょっと、ドキドキしてきたかも。


 初めてのカラオケに緊張してきた。





 ガチャという音が聞こえて私は、夢から覚めた。

 ここで....なんで、ここで....起きることになったのか。


「ただいま」


 お母さんが帰ってきたんだ。

 なんで....夢なの。なんで....夢で思い出してしまったの?

 前の神社の時とは、違うより...リアルで、鮮明な姿に私は、苦しくなる。


「........苦しいよ」


 ベットに頭を突っ込んで、なにも考えないようにする。


「...あれ、凜音がいるの?凜音っ!!いるの?」


「........」


「凜音いるのいないの?」


 私の部屋へと足音が向かってくる。会いたくない...顔を上げたくない。もしかしたら...また同じ夢が見られるかもしれない。


「入るわよ?」


 ベットに深く頭をかぶり、現実を逃避する。

 暗い部屋の中に、光に母親の影が見える。


「また、引きこもってるの....はぁ....明日は、ちゃんと塾に行くのよ」


「........」


 バタリと、扉が閉まる。

 私の中に、映る健人の姿は、ボヤけてきている。夢の中では、あんなにハッキリと見えたのに、どんな顔だったか。

 今は、ぼんやりとしか思い出せない。


 もう...やめようと思ったのに。


 棚の上に置いてある絵犬を、布団の中から顔を出して見る。

 暗闇の中で、なにが置いてあるのかよく見えないけど...そこに確かにある。


 うん....うん.....


「幸せになれますように....か」


 幸せ....って、なんだろう。





「行ってきます。」


「行ってらっしゃい。今日は、ちゃんと塾に行くのよ」


「.......」


 言われなくても、行こうと思ってたし。

 電車に揺られて、学校に着く。

 昨日のこともあって、なにか言われてるかな。と思ってたけど、そんなこともなかった。


 どこかで、噂されてるのかな。


 どうにも、気持ちの悪さのようなモノを感じる。けど、特に気にしないようにして、授業を受けた。


 私は、クラスで孤立してるから、スマホをいつもはイジってるくらいなんだけど。


 たまに、別のクラスの正美が、顔を見に来て、今日のテスト大変でさぁ、とか言って、近くの椅子を借りて、弁当を食べ始める。


 と言っても、毎日という訳じゃなくて、本当にたまになんだけど..




 そんな感じで、今日も私のクラスにやってきて椅子をどこかから、取ってきた。


「雪宮くんに、感謝しなよ。俺が、階段でコケちゃっただけだから、谷口さんは、関係ないよ。って、色んな人に言ってたんだからね?」


「うん.....」


「私...あーいうところ、好きなんだよね。気弱そうな見た目してるのに、さりげなく言うところは言う感じ」


「うん」


「でも、しゃくに触んのは、どっかあの...生意気なガキの面影を感じるのよね。ねぇ...どう思う?あの子と、関係あると思う?」


「うん」


「..........凜音、なんかあった?」


「うん......え、あぁ、いや、別になにもないよ」


「はぁ....分かりやすいっていうか、なんていうか」


 正美は、弁当の中から卵焼きを箸で持って、口に運ぶ。

 髪が、邪魔にならないように...そっと、耳にかけて、一口で飲み込んで、自販機で買った三丸サイダーに口をつけて、流し込む。


 なんだか...髪をかける仕草とか、妙に色っぽいなぁ...


「本当に、なにかあったわけじゃないんだけど...夢に、健人が出てきちゃっただけで」


「ん.....プハッ。なに?まだ引きづってんの?」


「うん」


「はぁ....早く、吹っ切って、別の好きな男見つけなさいよ。ほら、最近だと、色んな人が配信とかやってるでしょ?そういうので、なんかカッコイイ人とか見つけて....」


「そういうの...別に、求めてないから」


「ふーん、そう?」


 ちょっと、気まづそうに弁当に目線を落とす正美。私も、なにか話題があるわけじゃないから...なんとも言えない、気まづそうな空気感の中、昼休みが終わった。


「あ....雪宮くんに、ごめん。って伝えておいて」


「いいけど...そういうのって、自分で伝えた方がいいわよ?」


「自分で伝える勇気があったら、孤立なんかしてないから」


「それも、そうね。わかったわ。伝えとく」


 どこか浮かれた様子の正美に、自分だけ取り残されていくことと、確実に...時間は、過ぎ去っているという現実を感じていた。





 塾帰りの、帰りの電車。


 満員というほどでもないけど、少しだけ混んでいるなぁ...と感じるくらいの空気感。

 ふと、時間が気になって...スマホを手に取って画面を開く。


「十時二十分...」


 帰って...お風呂に入って、バックを塗ったり、なんやかんや、した後で...いや、考えるのも面倒くさくなってきた。


「あ、メモ開きっぱなしだ。」


 自然と、スマホを開くと...昨日の、雪宮くんにぶつかった時に開きっぱなしだったメモが開いた。


『努力が足りなかったってこと?』


 もう、いい。もう...いいよ。もう...


 ずっと、考えていると、疲れてくる言葉。大事かも知れないけど、私が考える以上に、ずっと難しくて、大変だと感じた。


 消してしまおう。


 公園での出来事と、神社での出来事のメモ事...消そう。

 私には、そんなに余裕がないのだから...


「うっ....」


 削除のボタンをタップしようとしたら、電車が停止して少し揺れる。

 そのほんのささいな衝撃が、メモ欄を下へとフリックさせる。


『曲がりネジ巻ぃ....曲がりネジ巻駅でございます。フレックス・グラマー線、ミラックス・山田線をご利用のお客様はお乗り換えです。センキュフォ〜』


「.......あれ、こんな言葉....私、打ち込んだっけ?」


 スマホのメモ欄が、記憶にない余白を進んで....最終段に書かれていた言葉を見つける。

 そこには、誰かが打ち込んだ文字で...


 後ろを見て


 と書かれていた。

 誰が書いたものかも分からない言葉に鳥肌が立つ。

 もしかしたら...お母さんが、寝ている間に打ったものかもしれないし、別の誰かが打ち込んだものかもしれない。


 なぜ、後ろを見て?なのか分からないけど...なんとなく背筋がゾクッとして、周りを見回してしまう。

 誰かが私を見ているわけじゃない。たまに、目線の合う人は、いるけど...そういうことじゃない。


 そして、背後を振り向く。


「........あ」


 いた。私の知ってる人が

 この子が、書いたものなのか...それとも、悪意を持った誰かが書いたものなのか分からないけど、移動して彼の目の前に立ち、目をつぶって電車に揺られている彼を見つめる。


「雪斗くん。だよね?」


 久しぶりに見た無表情の雪斗くんの顔に、手を伸ばしかける。

 もし....もし、雪斗くんじゃなかったら...


「.........」


 声をかけることが、できない。

 よく分からない人だったら....通報されてしまうかもしれない。


 できない。

 そんな勇気、私にはない。


『上り下り街ぃ....上り下り街ぃ......』


 ここだ。

 ここで、降りないと....


「あ......あの.......」


『上り下り街です。』


 私は、声をかけることができずに、手すりから手を離した。

 声なんて、かけられるわけがないよ.....

 電車の扉が締まり、階段を降りて改札を出る。


「待って。」


 私の背中を引っ張る人がいる。

 雪斗くんと初めて出会ったあの日....服を引っ張って、公園の外へと向かう私を止めた時のように...


「なんで、声をかけないんですか」


 雪斗くんは、どこからともなく現れて、私を離してくれない。




 多分、向こうから見たら私が、君の前に行ったからっていうんだろうけど...


 結局、あのメッセージはなんなのか。

 もしかしたら、いつの間にか正美や雪宮くんが打っていたのかもしれないけど...それにしても、偶然にしてはよくできた偶然だと思う。


 誰かが....私たちを俯瞰してるような。

 真夜中だし...怖い。


 でも、隣の雪斗くんがいるので、なんだかそれはよかったな。


「.........」


 雪斗くんは、短い黒髪が夜風に吹かれて、フワフワと揺らせながらどこかを眺めている。


「なんで、僕に気づいたんですか?」


「なんで私を止めたの?」


「質問してるのは、僕なんだけどな」


「私が、初めに質問しようとしたから」


「はぁ......」


 子供の癖に、子供っぽいくないなぁ....

 正美がいれば、勝手に張り合ってくれて喧嘩になることはないのに。


「別に....なんか、言いたそうだったから」


 ......私は、この子になにを言わせてるんだ。


 そうだけど、そうだけどさぁ....そういうことじゃなくて。

 あぁ....んー、もういいや。


「私は、スマホに誰か分からないけど、後ろを見て。みたいな文字が書いてあったから、不気味に思って、振り向いたらそこに君が居たってだけだけど。」


「.......冗談ですよね?」


「........冗談だと思いたいな。」


 別に、正直に言う必要は、ないけど...

 信じてもらいたいわけじゃないから。


「本当は?」


「...........」


 胡乱げな目線を向けてくる雪斗くん。

 なんて言えばいいのさ。


「はぁ.....そのスマホ、捨てた方がいいですよ」


「なんでよ。嫌だよ。スマホって高いんだからね?」


「ソウデスネー」


 イラッ....ウザイ。

 やっぱり、この子とは離れた方がいいかもしれない。


 まぁ、怖いしできることなら、スマホを捨てちゃいたいけど。

 いきなり、スマホ画面が砂嵐になって、その中から髪の長い女の人とか出てきちゃったりしたら、怖いし...誰かが、多分....打ち込んだものだと思うけど。思うけどっ!!


 いや、この話はもう終わりにしよう。

 あんまり、こういうこと言ってたら、寄せ付けちゃう気がする。


「電車に乗ってたけど、私に合わせて降りちゃってよかったの?今、家に向かって歩いてるけど」


「降りる駅は、同じなんで....全然大丈夫ですよ。」


「ふーん、あ....前は、病衣だったのに、今日って普通に私服だよね。厨二病は飽きたの?」


「だからっ!!病院から、抜け出して来たって言ったじゃないですかっ!!」


「.....あ、うん。ごめん。なんか」


 .....凄い、居心地が悪い。

 久しぶりすぎて、なんだか、合わない....のかな。

 目線が合わないから、どんな顔をしてるのか分からない。


 うん。なんか.....嫌だった


「.......怒ってないんですか?」


「え?」


「忘れて....るんですね。」


「.........」


 なにか、引っかかることでもあるのかな。


 複雑な顔をして私を見ている雪斗くん。私が、怒る原因があるとするなら、神社でのなにかだと思うけど...なにか、私が忘れてることでもあるかな。


 夜の道路を駆け抜ける車が、雪斗くんの顔を一瞬だけ照らす。

 風が吹き抜けた後で、浮かばれる顔は、どこか自分を責めるような顔。


 初めてあった日の不思議な雰囲気とは比べ物にならないくらい、小さな男の子で....


「僕は、嘘をついていました。」


「う、うん。」


「........分からないんですか」


「.......ごめん。ちょっと、思い出せない、かな。」


 そんな、複雑な雰囲気が漂う中、私は歩道の奥からやってくる自転車が目に入る。


「....っ!?!雪斗くん。ちょっと、近寄って」


「え...」


 私は、その自転車に乗っている人と出会うことを恐れていた。

 髪を刈り上げにしたサッパリしとした風貌そして、シュッとした顔が特徴的だけど、それはどこか....弱弱しさのようなものを感じさせる。


 特に接点が深かったわけじゃない。から...こそ....


「.....震えてるんですか?」


「........」


 その人とは、絶対に出会いたくなかった。


「明日は、きっと〜、いい日になるぅ......いい日になる。いい日に....」


「ひっ...なんですか。あの人。ちょっ...なに、するんですかっ!!」


「高い高い好きだもんね。雪斗くんは」


 ちょっとだけ、声のトーンを上げて、雪斗くんの無理やり体を持ち上げる。


 あ...思ったより、軽い。


「なっ....ぁ...う、うん。もっとお願い。お姉ちゃん。」


 真っ青な顔をした雪斗くんに、私はニッコリと笑顔で顔を隠すように持ち上げる。


 私そんなに、怖い顔をしてたかな。とにかく、なるべく姉妹のように振る舞う。どれだけ不自然な様だとしても、隠さないといけない。


「.....ぁ......なんだ?この兄弟。おい、夜道にじゃれてんじゃねぇぞ。はぁ....まった...ぅ..」


 私たちに注意をしつつ、そのままなにかを呟きながら去っていく赤髪の男。

 私は、そっと居なくなったような感じがして、ほっと息をつく。


「お、降ろしてくださいよ」


「あ、ご、ごめん。」


 どこか顔を赤くした雪斗くんに、あ、こういうのいいかも。とか思ってしまう。だけど、雪斗くんはなにかを見つけたように再び真っ青な顔をする。


 なにか、視線を感じて....


「なぁ....お前ら」


 チャリは、行ったかのように思えたけど、背後にいた。

 なんで....私に気づかれた?いや...そんなことは


「ど、どうしましたか。」


「.........」


 後ろを振り向けない。

 なんで、まだ行ってないの。なんで、私に声をかける必要があったの?普通、気にしないで通り過ぎていくよね。

 止めたような音もしなかった。凄い、ゆっくりと止めた?ゆっくりと...止めたら、こうなるの?


「.........スマホの充電が切れちまったんだけどよ。ここの付近にあるコンビニって知らないか?」


「......コンビニ......ちょっと、分からないですね。雪斗くん知ってる?」


「い、いや、僕も知らないですね。」


「..........そう、か。お前ら、人と話す時は、ちゃんと顔を見て話せよ。そうじゃないと、相手に失礼だからな。」


 そういうと、今度こそどこかに行くように、車輪の音が徐々に遠くへと走って行った。


 こ、怖かった。


「........僕を盾にしましたか?」


「いや、違うんだよ?あんなに、怖い人になってるなんて思わなかった。」


「知り合い.....ですか?」


「う、うん。健人の親友で、木下 奏って人。そんなに、親しい仲じゃなかったんだけど、たまにLINEでよく目にしてた。」


「......また、健人さんの話ですか」


「......」


 まるで、呆れたような目線で、見てくる。


「...........なに、その目」


「そろそろ、ちゃんと前向いた方がいいと思いますよ。」


「.......君に、なにが分かるっていうの。それにさっきのは、知り合いだったから、一番近かった私がなにを言われるか分からなかった。君に、私のこの気持ちが分かるの?」


「.........そうですか。」


「いや、そうですか。じゃなくてっ!!」


「それ以外に、なんて言えばいいんですか」


「.....すみません。とか、ごめん。とかそういうのあるでしょ」


「別に、悪いとは思ってないです。ただ...僕から見た貴方の生きか....」


「そんなにっ!!そんなにっ!!簡単なことじゃっ!!なのよっ!!」


「..........」


「そう....やって、割り切れるような人間じゃない....から」


「.............だから、そうですか。って言ったんじゃないですか」


 ガリィッと、歯が軋む。

 まるで、弾き出されたかのような手が雪斗くんの服の首元を掴む。

 小さな雪斗くんの体が私の目線と同じ位置にくる。

 歪んだ顔が、どこまでもイライラさせる。

 小さな体が、どこまでもイライラさせる。

 その口が、その手がまるで.....一つ一つが私を苛立たせる。


「......それ以上。言葉を吐くな。」


「うっ.......」


「一生、口がきけなようにしてやろうか。」


「...........」


 まるで、自分じゃないような声がいくつもいくつも湧いてくる。

 なにもかもを、忘れれば.....なにもかもを、無くせばいいってものじゃない。


「正論が、一番イライラさせるから。」


「..........ぁ.........」


 雪斗くんは、少しだけ口をニッと歯をむき出す。

 目元に涙が溜まっている。まるで、今にも泣いてしまいそうな男の子だ。

 ギリッギリッ......どうして、どうして、こんなにイライラさせるの。


「ちょ...ちょっと、何やってるの貴方たち」


 誰かが、背後から手を寄せてくる。他人が、口を挟んでくるな。

 他人が、言葉を掛けてくるな。


「そんな小さな子になんてことをしてるの」


「うるさい。」


「............ぅ..........」


「うるさい。」


「..............」


 誰かが、体を引っ張る。すると、意図も簡単に雪斗くんから、体が離れる。


「はぁ....はぁ.....はぁ.......」


 うるさい。うるさい。

 うるさい。うるさい。うるさい。

 うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。





 ────うるさい。


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