4 ありきたりな教訓
絵馬を取り付ける場所は、裏手にある。
私たちは、絵馬を探しに外へと出たわけだけど、なぜかそこに男の子が絵馬をボーッと眺めていた。
「あ、雪斗くん?」
「あ、お姉さんたち....と、巫女さん」
「こんなところにいたのかぁ。ガキはとにかく遊びたがりだからね。なんか、面白い願い事とでもあった?」
「.....ガキとか言ってくる人に、伝えたいとは思わないですけどね」
「悪かったから、で、あったの?面白いの」
ふらふらと、雪斗くんのところに近づいていく正美。年下に配慮が無さすぎじゃない?若干、頬が引き攣ってる雪斗くん。
「あら...もう一人いたのね。」
「この子は、雪斗くんって言って、私の事をストーカーしてきた男の子、です。」
「....この子がそんなことをするような子なの?一応聞いておくけど、親御さんから許可はいただいてるの?」
「........ない、です」
「そうなのね。」
ちょっと、訝しげな表情で雪斗くんを眺める。今平日だからっていうのもそうだけど、病院の服着てるのがなにも言えなくなっちゃう。
い、勢いで連れてきちゃったけど、せめて服だけでも着せていくべきだったかなぁ。というか、親御さん心配してるよね。今更だけど...
「なるべく早く帰るようにします。」
「そうしてね。」
ただの厨二病だと思うんだけどなぁ....
「それで、なにを見つけたって言うんだい。少年」
「あの、その少年とか、ガキとか、やめてくれませんか?雪斗って名前があるので」
「じゃあ、雪くんでいいか。雪くんなにか見つけた?」
「別に、大したものじゃないけど....」
「こ....これは.....」
正美の、言葉が出せなくなったかのように、目を見開いていた。え、ちょっと、なにがあったの?気になるんだけど...
「どうか...この世の中が、BLの世界になりますように....って、凄いインクで滲まれるぐらいに書かれてる....」
「....違います。それじゃない。僕が見ていたのは」
「あ....あははは。ちょっと気になっちゃって...それにしても、凄い気合い入ってるなぁ」
漫画の世界を現実にしたいのは、分かるけどね〜....確かに、凄いね。
「あ、もしかして...この、犬神様と恋がしたい。とかいうやつ?」
「だからっ!!違うって言ってるじゃないですか。それじゃなくて、これです。」
そう言って、一つの絵馬をなんとか足を伸ばして、取る。
「なんて書いてあるの?」
「........凜音が、いつまでも幸せになれますように。だって....」
「これって、探してたやつですか?」
「........」
私は、走ってその絵馬を雪斗くんからもらう。
なんとなく...分かる。これは、健人が作ったやつだ。だって....下の方に、無理させちゃって、ごめんね。とか書いてある。
「なんで....」
♾
「なんか、知らないけどさ...足が、痺れるんだよね。腕も少し痺れる。そんなに酷いものじゃないけど」
「え.....その、大丈夫なの?」
「ちょっとしびれるだけだから、大丈夫。」
貴子さんに、礼を言って帰る途中で、頻繁に休みたいっていうから、休んでるんだけど..
顔が真っ青な健人を、じっと見つめる。
大丈夫....健人が大丈夫って言ってるんだから...大丈夫。
「はぁ....まだまだ、若いはずなんだけどなぁ。ごめんね。こんなに休ませちゃって」
「そんな、気にしてないから」
「もし...もしの話だよ?僕が、死んじゃったらどうする?」
「.........」
私は、無言で非難の眼差しを向ける。
なんで、そんなことを話さないといけないの?そんな、風な目線。
「あのね。最近ずっと考えてるんだよね。死ぬってどんな感じなんだろうって、ほら、よく動画とかで流れてくるでしょ?死んだ後の....人間ってどうなるのか?みたいな」
「それは.....あるかもしれないけど」
「俺さ、死んだらもっと、自由になりたいんだよね。」
「どうゆうこと?」
「ん?ほら、世界に縛られてる感じがするでしょ?肉体的な?三次元にいる俺たち、窮屈じゃね?みたいな」
「?よく、分からないんだけど」
「そっか。分かんないか」
階段が、ブラブラと足をゆすりながら、地上を眺める。
度々車が、道路を流れていくのがわかるけど、私たちだけこの世界に取り残されてるような気がする。
「絵馬になんて書いた?凜音は」
「え....私は、ずっと二人でいられますように。って書いたよ。幸せになれますように。とも書いたなぁ」
「えぇ、なんか、凄い大人っぽいね」
「そうかな。色々考えてたけど、今が幸せだから、今がなくなってほしくないだけだよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
ちらっと見てくるけど、なにも言わない健人になんだかむずがゆさのようなものを感じる。
「健人は、なんて書いたの?」
「ん?んー.....それはぁ、内緒だよ。言っちゃったら、願い叶わなくなっちゃうかもじゃん」
「それ...私は、答えたのに言うんだ。」
「答えちゃった方が、悪いのだよ。そういうのは」
おもんないの。言わなければよかったなぁ....それだと、私の願い叶わないことになっちゃうじゃん。
「酷い」
「あ....星が、出てきた。ちょっ、俺歩けないんだけど。」
「そこに、ずっといたら?ずっとね。」
「ま、待って!!悪かったから....ちょっとだけでも、手伝って」
少しだけ歩いて、ちらっと健人を見たら、ホントに困ってるみたいだったから、腕を貸してあげてなんとか家に帰ってこれた。
♾
私は、雪斗くんの頭を撫でる。
さらさらとした髪。これが、玄関で寝ていた髪だとは思えない。
「ありがとね。雪斗くん」
「はい。どういたしまして」
目を細める雪斗くんは....少しだけ嫌そうにしながらも、私の表情を見て、諦めた表情になった。
そっと私は貴子さんの顔を見て確認し、バックの中に健人が作った絵馬をしまう。よかった....無事に、ゲットできた。
「あぁあ!!」
ほっと一息ついたのもつかの間、正美が大きな声を上げる。その手元には、♡マークがついた昔の私の....
「こんなところに、凜音の絵馬があるんだけどっ!!」
「え!?嘘でしょ!!なにしてんの。正美ホントにやめて!!ホントに」
うへへへぇ...とか、笑みをこぼしている正美の頭を引っぱたいて、私が書いた絵馬を取り上げる。
「ばかぁ!!!」
「いったぁあ...なにすんの。今、私とあなたは、いつも一緒だからね。って書いてあるところまで見たのに」
「........」
雪斗くんが、ジトっとした目を向けてくる。貴子さんの微笑みが一層強くなっていく。
健人には、一つだけ....嘘ついていました。絵馬を書いてると、段々あれもこれもって思いついてきて、気づいたらお経みたいになってました。
ほんとに....本人に、見られなくて、よかったぁ。だから、あの時...健人が自分のことを言ってくれなかったのは、そんなに怒ってなかったんだよね。
とはいえ、やっぱり願いが叶わないかもとか言われたら、酷いって思うでしょ。誰でも...
「痛い...まだ。頭がヒリヒリする。私の頭皮がなくなっちゃう。ねぇ、雪斗くんそのさらさらの髪分けてよ。」
「自業自得ですよ。というか、別に禿げたわけじゃないんですから」
あの後で、正美が何度も煽ってくるので、追加で、四回くらいマジ殴りをカマしたんだけど、途中で貴子さんに止められ、早めに終わったから滝でうらないをしに行こうという話になった。
恋の魔法って怖いよね。
ほんとに、周りが見えなくなっちゃうんだから....だって、平然とにへにへしながら、書いてたからね。あの時の私...
これは、家に帰ってしょぶ....いや、でもこれも大事なものだし、取っておくことにしようかな。
いつ必要になるかも分からないし
「これで分かったでしょ?凜音...相当、お熱だったのよ。」
「お熱って、なんですか?なにかの、言葉ですか?」
「....男の人のことしか見えてなかったってこと。」
「あー....なるほどです。」
ホントに、あと二百発くらいカマしてあげようかな。正美には...
そんなこんなで、神社の裏手....絵馬を通り過ぎてさらに奥へと進んでいくと、滝があった。
「はぁ、はぁ...この神社階段登るだけでも大変だっていうのに、さらに一山あってそこの間に滝があるっていうの?」
「神社の頂上は、ほとんど毎日雨が降り続いてまして、晴れることの方が珍しいと言われてるんですよ?」
「そりゃ、犬も叫びたくなるわけね」
「叫ん.....」
いやいや、吠えると叫ぶじゃ全然違うでしょ。
頂上どんだけあんだよぉ!!ワンワンって一斉に叫んでたら、シュールだから
「へぇ....犬って、歩くの大変なんですね」
「雪斗くん。適当なこと言ってるだけだからね?」
雪斗くんが、真剣そうに頂上を眺めている。
ほらぁ、悪い影響与えてるじゃん。
「まぁ、諸説ありますけどね。そんな犬鳴き神社名物、滝占いの仕方を教えますね。」
そういうと、貴子さんは小さな小屋の中からピンク色の紙を三枚も渡してきた。紙には、仕事、恋愛、神様からの一言と書かれている。
「この紙は、ですね。水に濡らすと...神様からの有難い言葉か聞けるんです。じゃあ、私が見本を見せますねぇ!!おりやぁああ!!」
貴子さんは、思いっきりピンチの紙を手で丸めて、滝の中へと投げつける。...別人かな?
ただ、あまり奥には投げつけることができず、はらりと足元に流れてくる。腰をかがめて、そっと、その紙を広げると...
「うーむ....全部、吉ですか....」
悔しそうな表情をした貴子さん。だから、別人?
私たちは、お互いに見つめ合って頷くと、思いっきりピンクの紙を投げた。
「うわっ...きゃあ!!」
「正美っ!?!」
「あははははっ、雑魚じゃん!!やっぱ」
「くぅ....さ、さむぅ.....」
正美は、思いっきり投げたけど、そのままの勢いで滝の中へと落ちる。なんか...やるかなぁ....とは、思ってたけど、本当にやるなんてね。
「さ、さむぅ、さむぅ」
「正美は、本当にダメな人なんですね。さてと、僕の運勢は、どんな感じなのかなぁ。おぉ....仕事運が大吉だって!!」
「雪斗くんに、あまり関係なさそうだね」
「いやいや....凜音お姉さんは、なんも分かってないなぁ...こういう場合は大体、仕事って書いておきながら、どんな年にでも優しい対応をしてるんだよ?知らないですか?」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、なんて書いてあるの?」
「えぇと...ですね。ちょっと、待ってくださいね。あぁ、人間関係を良好にされたし...さすれば、なんでも自分の思いのままに動くだろう。と書いてます」
「.....人間関係ねぇ.....つまり、私たちの関係をきちんと大切にしましょうって言ってるわけで....へ、へくちゅ」
ジロッと、雪斗くんの視線が正美を見る。なにか口をモゴモゴとして、なんも言い返せなくてはぁ...とため息をついた。
「そうですねぇ....。神様の一言も似たようなことが書いてますね。恋愛は、末吉ですね。」
「ふーん....おっ!?!私は、仕事運は中吉...人に構いすぎるのを辞めましょう。あなたは、十分素敵な人です?どういうこと?」
「まんまでしょ」
「あー、いや...いつも、助けになってるから、その....ちょっとだけ気にしてみるといいかもね。」
「........貴子さん。この反応って、どう思いますか?」
「え、そうねぇ....優しいことは、いいことだと思うわよ?」
「んー、そういうことじゃないんだけどなぁ......」
なにか、複雑な思いを抱きながら、ガックリと肩を落とす。正美...いや、いや...十分過ぎるほど、的確なアドバイスだと思うんだけど。
「......私、嫌な予感しかしないんだけど」
「いいから、開けてみてくださいよ。」
「そうだよ。私が、みんなに見せたんだよ?これで、貴方だけ見せないとか...そんなことないでしょうね?」
.....ゴクリッ。私は、ピンクの紙を開く。
仕事運
凶 友達と、できるだけ遊ぶようにして悔いの残らないようにしよう。
恋愛運
大凶 大丈夫?
神様の一言
本当に、災難な一年じゃのぉ....ワシャ、こんな人見たことないわい。
「.............貴子さん。これって」
「う、うん...そうね。この占いって、当たりやすいっていうから、その頑張れ!!」
「その、大体こういうのって...なにか覆してくれるようなキーパーソンみたいなのがありますよね?」
「え、えぇ....あるわよ?ほら、その端っこの方に書いてあるじゃない?」
おみくじの、一番下の方のさらに端っこに、確かになにかが書いてあるような気がする。
『どうしても、運命を変えたいっていうのなら、なにもしないことが一番じゃ』
「......貴子さん。これって」
「そう....ね。まぁ、占いは、占いだから...その、あんまり気にしない方がいいんじゃない?」
「..........貴子さん、こんなのって、流石にあんまりじゃないですかね?これじゃ、余りにも救いようがないじゃないですか。」
正美が、貴子さんへ文句を言ってくれるのは、ありがたいけど、ただの占いだから。そんなに起こらなくても...そして、背中あたりに、雪斗くんの手が添えられる。
「凜音お姉さん。動かない。なにもしない...それが、一番の薬です」
「う......うぁあぁあああああ!!!」
私は、ピンチの占いの紙を投げ捨てて、走る。こんな...こんなのって、知らない。木々が、生い茂っていて...あまり足場がいいとは言えない土を踏んで....走る。走る。
「あぁあああ」
これじゃ、やっぱり私のせいで....やっぱり、私が悪かったってことで....誰とも関わらないようにして、誰にも合わないようにして...そうして...そうして
「ちょっ....と......待って、ねぇ、ちょっと待っててってば!!」
「やめてっ!!離してっ!!」
「はぁ.....はぁ、一旦、落ち着いて.....」
貴子さんが、私の腕を掴まえる。私は、がむしゃらになって、その腕を離そうとした。けど、思ったよりも、貴子さんの腕力が強くて....強くて.....
「私を、見てっ!!」
「........ぁ.........」
私よりも、明らかに年上な貴子さんが、悔しそうな表情で私を見つめていた。目に涙が沢山溜まっていて...なんで、私じゃないのに、泣いてるの?ってくらい....
「.......なんで、なんで泣いてるんですか」
「っ....!!ごめんなさい。なんだか、私も涙脆くなつてしまって...」
巫女服で、グシャグシャと目を擦る。不思議と、私の気持ちの昂りも冷めてしまっていた。カーカーというカラスの声が、森の中に響く。
「私と、二人で戻る間に、話しませんか?」
私は、コクリと頷いた。
「私は、あなた達のことで一つだけ覚えていることがあって。あの日、怒ったじゃないですか?あれ...言い訳を言ってたって、薄々気づいてたんですよ?」
いつの間にか、結構走ってたみたいで、奥にいる正美と雪斗くんがまた喧嘩をしている姿が目に映る。
そんな他愛ない風景を見ていると、貴子さんからとんでもない爆弾発言を落とされる。
「そう....だったんですか?」
「そりゃあ....あなたたちの言い訳、かなり苦しかったですし...君たち以外に木に石で跡を付けようとするような人いませんし...あなた、泣いてしまったでしょ?」
「それは...その、貴子さんが怖かったからで」
「罪悪感を感じていた...って、ことの裏返しですよ。それだけじゃありませんよ。健人さんがあなたに謝ってるところ聞いちゃったんです。」
「えっ!?!」
ペロッと、舌をだして私に茶目っ気を見せる貴子さん。いやでも、だったらもっと注意してもいいはずで....
そんな私の疑問に、貴子さんはそっと私の手を握る。
「.....あなたたちの、あんな会話を聞いたら、さらに怒る気なんて湧かなくなつっしまったような気がします。全く、甘すぎて、胃もたれになってしまいそうでしたよ。」
「あ.....あはははは.....それは、そうですね」
自分でも、結構 健人に甘えていたと思う。今でも、健人がいないと思うと、心の底からなにか得体の知れない怖さのようなものを感じている。
「あなたは、健人くんにはちゃんと別れ告げられましたか?」
「.....きちんと......告げられなかったから....今、こうやって一つ一つの出来事に別れを告げているところなのかな。と思います。」
「なるほど。」
そうなんだ。貴子さんに言われて気づいた。私は、もしかしかしたら、一つ一つの思い出にお別れを告げてるのかもしれないんだ。うん...うん.....これが、最後なんだ。
「私、もう、ここには来ないかもしれない」
「....それは、思い出してしまうから?」
「ちょっと違くて.....」
「なら、どうして?」
「神社が嫌いになりそうだから?」
「それは、やめてほしいですね。」
「そういう.....ことです」
真顔で、答えてくる貴子さん。はぐらかそうとしたのに伝えようとしたの悪かったかなぁ...つい、ここに来ないかもなんて言っちゃったけど。
ここには、来ないと思う。別れを告げたから...そして、別の場所でも...
私に気づいて、手を振ってくる正美の姿と、ちらっとこっちを見てくる雪斗くんのことが目に映る。
「ごめんねぇええええ!!!大丈夫だからっ!!!」
なにか二人でしゃべると、グッと親指を上げてくる二人....それでも、さっきのクリティカルヒットは忘れてないからね。
「それじゃあ、送りますね」
「はい。ありがとうございます。」
にっこりと、微笑んだ貴子さんに、お礼を言う。所詮は、占い...悪かったことも、あったけど...今日という日は、確かによかったような気がする。
肩に下げている二枚の犬絵を見て、うるうるっと来てしまう。ギュッと、脇を引き締めて私は走る。
「ねぇ!!凜音、聞いてよぉ...恋愛運が、中吉だって!!私の時代来ちゃうかもしれない!!」
「中吉かぁ....微妙だね」
「中吉で、喜べるんですね。大吉が出たら、これは彼氏ができるっ!!って思うかもだけど、中ですよね?正美の運だと絶対ないと思うんだけどなぁ....」
「正美さんの、神様コメントはなんて言ってるんですか?」
「ちょっと、まってください。えぇと....『神様コメント 勝つも負けるも君次第じゃ。出会いは、あるが...それを、味方にできるかは分からないのぉ』って書いてますね」
「出会いは、あるんだ。神様、優しいじゃん。」
「いやいや...普通のこと言ってるだけじゃん。結局、見え方次第ってことですよね?それって喜んでいいものなんですか?」
「雪斗くん、確信着いてますねぇ....人生は、山あり谷あり...結局、どれだけ努力をしたかってことですかぁ。占いが面白くなくなってしまいますね」
「そ、そういう目的は、なかったんだけど」
貴子さんが、雪斗くんをいじってるのかな?まぁ、そうだよね。雪斗くんの言う通り....かなぁ
私は、雪斗くんの頭を撫でる。なんでか、撫でたくなった。
「ありがとう。雪斗くん」
「え?なにが」
私たちは、貴子さんに見送られて帰った。
あの、石階段...ここが、私たちの思い出そして....背後を振り向けば、犬が私を見下ろしている。
「ワォオオオン」
犬の声が、聞こえたのは幻聴だろうか。きっと、幻聴だろうなぁ.....
「ねぇ....今」
「聞こえましたよね?」
「え!?!ちょっと、やめてよ」
私たちは、早足で階段を下った。