行列のできないラーメン屋さん
少し前のことです。
仕事が休みの日、隣町にある行ってみかったお店に車で行きました。
その帰りのこと──
ぼちぼちお昼ごはんの時間でした。
『よし、いつものラーメン屋さんでごはんを食べて、帰ってあれしてこれしよう』
そう考えながら車を運転していると、目の前に突如、大渋滞が!
渋滞というより停滞でした。1時間経っても1kmも前に進まない。
前からおまわりさんが歩いて来て、並んでる車それぞれに何やら説明しています。
やがて私のところへも来て、教えてくれました。
「この先、4台絡みの事故が発生してまして、通行止めになりました。この先を左折して、迂回をお願いします」
みんなの後について、知らない道を迂回しました。
川沿いの狭い道を、普段は走る車なんてなさそうな道を、行列をなしてみんなで進んで行きました。
「し……死ぬ」
車の中で、私は呟いていました。
「30分以内に何か食わないと……あたし、死んでしまう」
民家も疎らにしかないような道で、ごはんを食べられるお店なんてまったくあるわけがありません。
いつものラーメン屋に辿り着くまでに、これじゃ本当に餓死してしまいます。
ええ、私、そういう特異体質なんです。
絶望しながらノロノロの行列について走っていると──
「あ……、あった!」
こんなところに!? みたいな裏道に、ぽつんと1軒、ラーメン屋さんがありました!
そういえば前から国道で赤信号で停まった時、横道のむこうに見えていて、『あんなところにラーメン屋さんがあるなぁ』とは思っていたお店でした。
店先に5台ぶんの駐車スペースがあり、迷わず車を停めました。
外観は今風の綺麗なお店。
お昼時はとっくに過ぎていて、駐車スペースに車はゼロ。
お店の扉を開けて、驚きました。
外観は今風で綺麗なのに、店内はまるで昭和の汚いラーメン屋さん。
カウンターの上には新聞紙やら雑誌やらコショー缶やらが散らかっていて、Gのつく虫も出そうなベトついた雰囲気。
で……出ようかな、と思っていると、奥から店のご主人が出て来ました。
「いらっしゃ〜い」
油で汚れたような白い調理服姿の、怪しい中国人みたいなおじさん。
私は一応カタコトの中国語なら話せるので、「ニィハォ」とか言ってみようか? でも日本人だったらいけないし……。
お腹が空きすぎていてピンチだったので、覚悟を決めてカウンター席に座りました。
メニューを見ると、ほぼラーメン一種類しかなかったので、それを注文しました。
お客さんは私一人。
おじさんが時間をかけて丁寧にラーメンを作っている間、居心地の悪さをすごく感じながら待ちました。
これアナログ放送じゃないのかよ?って思えるような小さなテレビは電源が入っておらず、音楽も流れていなくて、おじさんが調理をする音と、私がスマートフォンをいじる音だけが店内にありました。
一体どんなラーメンが出て来るんだろう?
胃腸の強さには自信があるけど、それでも不安だ……
そう思っていると──
「はい、お待ちどおさまっ」
私の前にラーメンが置かれました。
うわっ……
こ、これは……
めっちゃ美味しそう!
鶏と豚のダシを両方感じる、こってり系のラーメンでした。
ネギももやしもたっぷりで、滅多に来ないお客さんのためにサービスしたのかと思えるほどに、お肉もたくさん乗ってました。何肉かはよくわからなかったけど……。
黄金色をしたスープが濃厚で、中太麺がそれによく合っていて、お腹がペコペコだったこともあり、私は夢中で貪り食いました。
はぁ……
美味しかった……!
大満足!
「500円ねー」
まじかよ!
こんな美味しいラーメンが500円でいいの!?
これはいいお店を見つけた。また来よう。
そう思いながら、店を出ました。
あれから何ヶ月……あるいは何年経ったのだろう。
私はまだあのラーメン屋さんを再訪していません。
国道の赤信号に停まった時、横道に見えるので、いつも気にして見てはいるのですが……
いつ見ても、店先の駐車スペースには、車がゼロ。
行列どころか、お客さんが入ってるところさえ見たことがない。
美味しすぎるほどに美味しいとはわかってるのに……
やっぱり入りにくいお店というものはあるものです。
音のない店内、しかもあのベトベト感……。
うぅ……、もったいない!