コウモリさんともぐらタン
日が暮れはじめた公園などで、ふと木立の間の空に目をやれば、飛び散らかっている影のようなものを目にすることがある。
よくよく見るとバットマンのコスチュームに描いてあるあの形だ。小さなそれらの影が、けっして『群れをなして』ではなく、ノイズのように不規則に飛び交っている。
コウモリなんて見たことない気がしてたけど、結構身近にいるんだなぁと思ったことが、何度もある。まるで前に何度も見たその記憶をなくしてしまっているように。
コウモリを眺めるたびに不思議な気分になる。どこかいつもとは違う世界に転移したみたいだ。
まるでこの世のものではないみたいに無音で飛び狂っている。わたしたちには聞こえない音を発しているのだと聞く。しかし、わたしにはどう聴いても無音で、背景の暗い空よりも黒く、そこにあってそこにないもののようだ。
そしてあんなにたくさんいるのに、間近でコウモリさんとご対面したことは、わたしには一度もないのである。
私は田舎とも都会とも言えない中途半端なところに住んでいる。
家の裏とか、川の土手とか、歩いてすぐの場所に土の地面がいくらでもある。
そういうところへ行くと、大抵その穴を見つけることができる。
それだけどこにでも穴はあるのに、穴の住人とはほとんどご対面したことがない。それゆえか、中にいるものの姿を、ドカヘルをかぶってスコップを肩にかついだ小さいオッサンみたいにイメージしてしまう。
2回ぐらい、何を間違ったのか、お日さまの下を慌てたように歩いているもぐらタンにお会いしたことはある。最初はなんだかわからなかった。でっかいオケラが歩いているのかと思った。
『もぐらタンだ! 珍しい!』そう思った記憶がある。
しかしそれから長い間また会わなくなるうちに、頭の中のもぐらタンは、ドカヘルのオッサンの姿に変換される。そのデザインのもぐらタンのほうが漫画とかの中でよっぽど目にする機会が多いからだろうか。
身近にいるのに珍しい。
コウモリさんも、もぐらタンも、そんな動物の代表格だと思う。