マツダの車は良かったな……
私はずっと車はマツダ党でした。
私はほぼマツダの車ばかり乗ってきました。
父はトヨタの同じ車を、モデルチェンジするごとに買い替えていましたが、乗せてもらうたびに思っていました。
『乗り心地ふわふわしてていいけど、乗ってて楽しくないなあ……』
私がまだ車の免許を持っていない頃、母がマツダの初代DW型デミオを買いました。
付き合いで買ったのですが、新古車で買って13年乗り続けました。
初めてデミオに乗せてもらった時のことをよく覚えています。
父の車と何から何まで質感が違う。
シートはやたら庶民的だし、ヘッドレストが意味不明にデカいし、乗り心地はやたら前後に揺らされるし、何よりメーターが寂しい。
でも、気に入りました。
活きのいい走りっぷりと、親近感のもてるチャチな内装、そして──
母はよく言っていました。
「デミオはいい車だよ〜。誰がなんと言おうとあたしは好き」
それだ!
他人は理解しない人が多いけど、自分だけにはわかるその良さ!
まるで顔はあんまりよくないけど内面の素晴らしい人に恋してしまったみたいな『私のもの感』!
そしていかにも父の車の『乗せてもらってる感』とは真逆と言ってもいい、『クルマを走らせてるぞ!』みたいな、クルマにおもてなししてもらうのではなく、自分がクルマにおもてなししてるみたいな、なんというかわかりにくいかもしれないけれど、猫好きの気持ちをそそらせてくれる魅力が彼にはあったのです。
私が免許を取って初めて買ってもらったのは二代目DY型デミオでした。
色は赤。
ほんとうはアウディのA4が欲しかったのですが、初心者にそんなことを言い出せるわけもなく、また母のデミオが好きだったので、喜んで乗りました。
同じデミオでも母のより大人しい。
内装の質感もちょっとよくなってる。
でもコンパクトなのに車内が広くて、車体の見切りもとてもよくて、気に入りました。
ほんとうは母のデミオのようにもっとわんぱくさが欲しかったけど。
次の車が私の中では歴代一位の名車でした。
初代BK型アクセラのハッチバック。
色はストラトブルー。いわゆる紺色ですが、ギラギラとした艶を浮かべてカッコよかった。
この車は何よりお尻のセクシーさが外見の最大の魅力です。
磨けば嬉しいぐらい光ってくれるし、お尻の美しさも際立つし、洗車するたびにニヤニヤしてました。
何よりこの車、めっちゃ速いのです。
私の乗っていたのは20Cというカジュアルモデルで、仕事で乗ったことがある23Sはまるでスポーツカーのように速かったので、それと較べれば大人しいモデルなのですが──
エンジン性能というより、とにかく峠の走りが速かった。
オーバーステアというのとはたぶん違うと思う。でも連続カーブをとにかくスパスパ軽快に走れる。
自分が世界一速くなった気分に浸れました。
まぁ、後ろからインプレッサWRXに楽々抜いて行かれた時は身の程を知って大人しくなりましたけど。
とにかくクルマを走らせるのが楽しくて、自分がクルマを操縦してるぞという喜びがありました。
ある日、遊びに行った帰り、疲れてコンビニに停めたアクセラくんの中で熟睡していました。
とにかくクタクタになるまで遊んだので、眠りが深かった。
突然凄い音がして、車がぐわんぐわん揺れました。
『なんだ!?』と思って飛び起きましたが、『夢だな?』と思ってまた寝ました。
次に起きた時は朝でした。
コンビニでごはんを買って、戻るとアクセラくんの様子がおかしい。
自慢の美しいお尻がグシャグシャに潰れて、リヤガラスが罅だらけになっています。
あっ……、昨夜のあの揺れたのは──
当て逃げされたんだ!
警察を呼び、駐車場を映した店の防犯カメラを見てもらうと、確かに白いキャビンのトラックがバックで私の車に激突し、そのまま逃げているのが映っているとのこと。
そして警察はその映像を見て「当て逃げだね」と頷いてくれただけで、何もしてくれませんでした。
私が「その映像から犯人を探すことできないんですか!?」と食い下がると、ニヤッと笑うように「犯人の車のナンバーをあなたが見て覚えていたら捜査できるんですけどねぇ……」と、捜査するつもりもないことをあからさまに見せて、そのまま放置されました。
まぁ、ボケて二度寝した私が確かにアホなのですが……
捜査する気がなくてもする気があるフリだけでも見せてくれれば私も納得できるのに……。
アクセラくんがとにかく大好きだったので、修理見積もりを出しました。
30万円以上でした。
父に相談すると、言い出しました。
「マツダは今、クリーンディーゼルがいいらしい。とにかく評判がいいらしい。それを買え」
結局そんな流れでアクセラくんは廃車になり、次の車に買い換えることとなりました。
最後のマツダ車になりました。
初期型CX-5。色はアルミニウムメタリック。いわゆる銀色ですが、光の当たる加減でふつうのシルバーになったりヌメヌメと濡れたようなガンメタリックみたいな色になったり、なかなか美しい車でした。
しかし、これが気に入らなかった……。
今までのマツダ車とはまったく違いました。
今まで乗った中では間違いなく一番「いい車」でしたが、何かが足りなかった。
大きさのわりに燃費が軽自動車かよってぐらいいいし、それでいて走りは頼もしいほど力強い。
後方安全確認機能、自動ブレーキ、アダプティブヘッドライト他、色んな豪華装備がてんこ盛り。
広い車内なのにエアコンの効きはめっちゃいいし、車の中でのびのびと寝られるし、荷室も自転車が軽々積める──
でも、思いました。
こんなのマツダ車じゃない!
アクセラくんとは『走る喜び』がまったく違ったのです。
まぁ、重たいSUVと軽快ハッチバックを較べてはいけないでしょうが、それでもなんというか本質的に違ってた。
アクセラくんは『私がクルマにおもてなしをしている』という感じだったのに、今度のは明らかに『私がクルマにおもてなしされている』──
私がマツダ車を好きだった最大のポイントがなくなっていたのです。
マツダ車はまるで猫みたいだから好きだったのに、猫じゃなくなってしまった!
猫じゃないなら何になったんだと聞かれると困りますが、あえてたとえるなら『動物じゃなくなりました』。
出来のいい機械になってしまった。
現行のマツダ車にはあまり魅力を感じません。
みんな同じ顔だし、やたら高級志向になってしまい、庶民のための、安くていいクルマを作っていたメーカーではなくなってしまいました。
現行ロードスターとかマツダ3(アクセラくんの後継車)とか、カッコいいとは思いますが、乗ったらガッカリするんだろうなと思います。
お仕着せのマツダコネクトも嫌い。マツダの車は『自分でいじれるアパートの部屋』みたいなのがよかったのに、なんだかホテルの部屋みたいになってしまった。
今はスズキのワゴンRに乗っています。
CX-5と較べると、維持費が安い以外にはクルマとしていいところはひとつもありません。
でも、こっちのほうが好きです。気軽で、いい。
アイドリングストップは使いにくいし、ギャップでは怖いほどに跳ねますが、自分で工夫する楽しみがある。
昔のマツダ車はよかったな……。
たまにCW型のプレマシーが欲しくなります。
笑った顔にぶさいくなお尻、新車でも事故でぶつけたみたいなサイドビューにマツダらしさを感じます。




