ぐち
私は今、とても機嫌が悪い。
噂には聞いていたが、あの話はほんとうだった。
初めてそれを自分が喰らってわかった。
仕事を終えて事務所に戻ると、社長と部長が顔を並べてニコニコしていた。
やたらニコニコしている。不自然だ。
「疲れた顔してんな」
「疲れたかぁ〜?」
二人揃ってそんなことを聞いてくる。
適当にモゴモゴ答えると、言い出した。
「今はよくなったんだがなぁ〜」
「昔はもっとキツかったんだぞぉ〜」
「3000kmを2日で走って、それでもみんな事故せず、文句も言わずに、頑張ったもんだぜぇ〜?」
「おまえ、やれって言われたら出来るかぁ〜?」
ほんとうは『死にます』か『辞めます』と言いたかったが、呑み込んで「無理ですね」と答えた。
「弱いよなあ〜」
「まぁ、お疲れさん。帰ってゆっくり休んでください」
やたら変な二人のテンションに首を傾げながら、帰途についた。
帰りにコンビニに寄った。
今日は給料日なのだ。
仕事中には寄る暇などなかった。
引き出す前に、帰りに貰っていた給料明細を確認する。
愕然とした。
先月よりも4万円も少ない。
忙しかったのは今回のほうなのに…。
元々給料計算がどんぶり勘定の会社ではあるが、意味がわからなかった。
皆勤、無事故、他すべての手当はちゃんとついている。
休まずに、隙間時間もほとんどなかったのに、この数字は意味がわからない。
なぜなのか、社長に聞いてみようか?
ここで部長から聞いていたことを思い出した。
『社長にカネの話はするなよ? 前に給料の内訳を詳しく教えてくれと言ったばかりに社長の機嫌を損なって、給料を20万減らされたやつがいる』
はっとした。
同僚のおじさんに、カラオケ行きたさに日曜出勤を断って、給料を10万円減らされた人がいた。
「明日仕事に出られますか?」と直前になって電話で言われることがよくある。
それを断ると給料を減らされると聞いていたので、今まで私はすべて受けていた。
しかしついこの前、休みの日の朝6時に部長から電話がかかってきて、「今から出られんか?」と聞かれたのを、そういえば私は断った。
ずっと走りっぱなしで、久しぶりの休みだったので、休まないとそろそろ運転中に気絶すると思ったので、「すみません。用事があるので……」と嘘をついたのだった。
社長じゃなくて部長だからという油断があった。
あれとしか考えられない。
10万ではなく4万で済んだのは、警告だろうか?
断ったらこういうことになるよ? みたいな……。




