『紙の動物園』を読みました
ケン・リウさまの『紙の動物園』を読みました。
といっても運転しながら、オーディオ・ブックで『聞いた』んですけどね。
じつは再読です。一度目に聞いた時は、運転に集中していたためか、ちっとも頭に入ってきませんでした。
再読したら『なんでこれが頭に入ってこなかったんだろう』と思えるほどスンナリと入ってきました。
アメリカ人の父と中国人の母のあいだに産まれた息子が主人公。
父はカタログで妻を選びました。
育ちが良さそうで、香港人だから英語もペラペラだという、綺麗な服を着た黒髪の美少女の笑顔に一目惚れして、実際に会ってみもせずに妻としてアメリカに迎えます。
嘘だらけでした。
中国人の詐欺集団が作成したカタログに載せられた美少女は、ほんとうは中国の貧農の娘で、英語は一切喋れず、大飢饉で母が父を食べているところを目撃し、香港の親戚のところへ逃げようとしている途中に、その詐欺集団に捕まり、アジア人の妻を欲しがっていたアメリカ人男性に売られたのでした。
騙されたと知りながらも、しかし夫は妻を愛します。やがて二人のあいだに主人公が産まれます。
主人公は幼い頃、母の作ってくれるさまざまな動物の折り紙を一番の玩具にして遊びます。
特に老虎(虎さん)は彼の一番の友達でした。
母が折ってくれた動物たちは勝手に動き出すのです。勝手にアクションし、勝手に寛ぎ、勝手にいろんな声を出します。主人公はそんな折り紙たちに夢中になりました。それが母の故郷に伝わる魔術の力なのか、それとも息子の目には動いて見えていただけなのか、小説は明らかにしませんが、それが不思議な世界を創り出していて良かったです。
主人公は成長するにつれて、中国人である母に対して反抗するようになっていきます。
幼い頃は母の喋る中国語を理解していたのに、だんだんとそれを拒否するようになり、母に英語を喋れと命じるようになります。母はカタコトなら英語も喋るようになっていましたが、『英語で喋ると心は口にある、中国語で喋れば心は胸に』と、理解を求めますが、息子は聞き入れません。
母を恥とさえ思うようになっていった息子は、母の折り紙よりもスター・ウォーズのフィギュアを欲しがるようになります。それは折り紙と違って、喋っても同じセリフしか言わないのですが、それでも貧乏くさい折り紙なんかよりはそっちのほうがよく、友達にも自慢できるからと、折り紙は箱に入れて仕舞い込んでしまいました。
これ以上はネタバレになってしまうので書きませんが、アメリカ在住の中国人である作者さんが、中国人のイメージアップを図った作品なのかな? と感じるところはありました。
でも、正直に中国という国のひどい真実を描いている部分もあり、これを読んで『やっぱりC国は……』と嫌悪感を大きくするひともいることでしょう。
最後の母の手紙が、私には恨みがましいように感じました。中国人であることを理由に息子から嫌われて、その悲しみをどうしても息子に伝えてやりたいという、怨念のようなものすら感じました。
とはいえ『国は国、人は人』、『世界から嫌われている国に住む人は、自国の被害者でもあり、そして同時に自国を愛する人でもある』みたいな、強烈なメッセージは感じ、読後感はずっしりしながらも繊細な詩情に溢れていました。
世界的な文学賞で三冠を達成したというこの作品、実際に中国人であるケン・リウさんにしか書けないな、と思います。
興味が湧いたら読んでみて!