死にかけた時の話
高校生の頃、みんなで海に行った。
仲のいい子がいなかったのに、どうしてみんなについて行ったのかは覚えていない。
とにかく、同級生に混じって、ぼっちの私は海へ泳ぎに行った。なんか自分にすごく似合わない背伸びしたような水着を持っていった記憶がある。
少し離れた沖に小島があった。
距離にして砂浜から50メートルぐらいだっただろうか。
みんながそこへ泳いで渡り、向こう側からこっちを楽しげに見ていた。
見られる側なのが悔しかったのか、それともみんなが楽しそうで羨ましかったのか、それは覚えていないが、私もその小島へ泳ごうという気になった。
私はスポーツ全般が苦手である。
クロールはできない。
でも、平泳ぎならできる。プールで片道25メートルを往復できる。とても遅くはあるが。
それゆえの過信があった。
みんながクロールで島へ向かっていく中、私もすごく遅い平泳ぎでそれを追いかけた。
波が自分に向かって押し寄せていて、逆風の中を自転車を漕ぐ感覚だった。
進まない。ただでさえ遅い私の平泳ぎが、いつも以上に進まない。カエルと競泳していたら負けていたかもしれなかった。
海が不気味に黒かったのを覚えている。
向こうの島でも砂浜でも、人の笑い声が聞こえているのに、私の周りだけ死の世界のように静かだった。
息があがり、腕にも足にももう力が入らない。
足をついてみようとしたがまったく届かず、どれだけ深いのかを想像すると身が凍った。
私、ここで死ぬのかな……。
まだ好きなあのバンドのニューアルバムも出てないのに……。聴きたいのに……。
──嫌だ。
死んでたまるか!
そう考えたら火事場のバカ力みたいなのが出た。
小島に辿り着いた時にはヘトヘトになっていた。
荒い息を整えるまでに相当の時間がかかった。
ようやく周りの景色を見る余裕ができて、対岸を眺めると、人間が小さく見えた。
こんなに遠くまで泳げたんだ……。
自信が湧き上がり、気持ちはよかった。
でも、もう二度とこんなことはしないぞと決めた。
帰りは波が背中を押してくれて、結構楽に泳ぐことができた。
それでも砂浜に辿り着く前にクタクタになって、足を下ろしてみたら地面に着いたので、そこから歩いて戻った。
あの時、溺れ死んでたら、みんなに迷惑かけてただろうし、何より今、自分はここにいないんだなと考えると、泳ぎきれてよかったなと思える。
そして、自分に好きなバンドがあったことに感謝している。
そのニューアルバム聴きたさがなければ、あそこまで頑張れなかったと思う。




