ボケ子ちゃんの危機管理
スーパーマーケットでいつもペットボトルのブラックコーヒーを買います。
加糖、微糖、無糖とあって、いつも無糖だけ品薄です。
その日も行ってみると無糖だけ売り切れのようでした。
『一番人気なんだからもっと仕入れすればいいのに……』
いつも買っているその銘柄がよかったのですが、仕方なく他の銘柄ならブラックもあったので、そちらを買うしかないか……と思いながら、よくよく覗き込んでみると──
棚の一番奥の暗いところに、一本だけ、隠れるように無糖があるのを発見しました。
仕事中、リュックに入れてあったそれを取り出し、飲もうとして、気づきました。
『あれ……。これ、フタが開いてる』
しかも中身が二口ぐらい減っています。
『あたし……飲んだっけ?』
記憶を手繰るも、飲んだ覚えはありません。
確かセルフレジで精算して、マイバッグに入れて、かさばるので車に乗った時にすぐにリュックに入れ替えたはず……。
ふつうなら警戒して飲むのをやめる場面。
『あたしボケだからな。たぶん開けて二口飲んだの覚えてないんだな。道端に落ちてるのを拾ったわけでもないんだし』
明るくそう考えて、ぐいっと飲みました。
それから後で、はっきりと思い出しました。
絶対に自分はそれを開けても飲んでもいないことを。
棚の一番奥に隠れるように置いてあったあの時点でその状態だったのを、気づかずセルフレジに通し、気づかずマイバッグに入れ、まったく気づかずにリュックに移し替えたのだと確信しました。
もう既に、ぜんぶ飲み終えていました。
『……ま、いっかぁ』
体に異状はないので、すべてよしとしました。
忘れよっと。




