私は高いギターと安いギターの音を聞き分けられるという自慢エッセイ
よくギター系のユーチューブ動画で『ブラインドクイズ』みたいな企画があります。
弾いてるところはみせずに50万円のギターと2万円のギターを続けて弾いて、『どっちが高いギターか、わかるかな?』というような企画です。
正直エレキギターはアンプとエフェクターで派手にお化粧したらどれも同じという感じはするのですが──
私、わかるんです。
正解率100%とは行きませんが、8割ぐらいは聞き分けられます。
高いギターはやっぱり音が綺麗です。
各弦の調和がとれていて、一音一音に密度があります。
自分でも20万円台〜1万円台まで持っていますが、『音の良さ』『まとまり』『信頼感』という点で全然違います。
ただ、そこに『好み』が加わるとまた話は変わってくるんですけどね。
高いギターよりも『この安ギターのこの個性が何より好きだ!』ということはあります。
高いギターは品質が安定していますけど、安ギターは品質にバラつきがあって、そのぶん中には奇跡的な鳴りをする個体もありますからね。
POSの中古で買った四千円のテレキャスター、お気に入りです。
7年ぐらい前の話ですが、あるアーティストのファンになり、その方がアコースティックギタリストだということもあって、アコースティックギターが欲しくなったことがありました。
S楽器さんへ見に行きました。
購入するつもりで行きました。
予算は3万円以内。
下手だからそれぐらいでいいよね。
色々見て回っていると、店員さんが近づいてきました。
「よかったら試奏されてみませんか?」
お言葉に甘えて、試奏させていただきました。
S楽器さんのオリジナルブランド、ジェームスとかいうのを試奏。
アカン……。
これ、弦の音がチャランチャランしてるだけ。響きが安っぽい。
他にも3万円以内のを次々と出してきてくれましたが、どれもこれも同じような感じ。
弦鳴りってやつだ、これ。響きが金属的で、気持ちよくない。
ヤマハのを試奏しました。
さすがヤマハ、すごくしっくりくる音がする。
でも、しっくりしすぎる。以前ヤマハを持っていたのですが、それとおんなじ音がする。
新しいのを買うワクワク感がない。
私が贅沢なことを、まるで海原雄山のようにブツブツ言っていると、店員さんがまた一本、持ってきました。
これで6本目ぐらい。
「こちらを試奏なさってみてください」
ヘッドの文字を見ると『History』と書いてある。知らないメーカーだった。さっきのジェームスと同じくS楽器のオリジナルブランドだとのこと。(ちなみに前述した私がお気に入りのテレキャスター『POS』も某楽器店のオリジナルブランド。こういうのには安物が多い)
それまでと同じくDsus2のコードをチャラ〜ンと鳴らしてみた。
チャラ〜ンがまるでシルクのように繊細な響き。
それがボディーを伴って、豊かな余韻を残す。
なんていい音……。
これはもう、迷う余地もない。即決だ。
「買います! これにします!」
笑顔で私は店員さんに聞いた。
「これ、いくらですか?」
店員さんは少し悔しそうに、笑いながら、言った。
「17万円です」
あまりに私がどれもこれもダメとか偉そうに言うから、試されちゃったかな?
買えるわけもないので何も買わずにお店を出ました。
その時は『なんで予算3万円以内って言ったのに17万出してくんねん』とただひたすらに不思議がっていましたが──
私、騙されなかった。
高いギターの音、ちゃんと聞き分けられたぞという満足感が、今では私の矜持となっています。




