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【連載エッセイ】宇宙人のひとりごと  作者: しいな ここみ


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うちの会社の社長は暴君です

 わたしは現在、大型トラックのドライバーの仕事をやっています。

 一人でトラックの広い車内でほぼ運転をし続ける仕事ですので、気楽ともいえますが、ストレスが溜まる仕事だともいえます。

 ストレスの原因になるのは拘束時間の長さ……も、あります。

 でも、それ以上といっていいぐらいにストレスになるのが──

 社長です。




 まず言葉の省略がやたら多いです。

「言わんでもわかれ」というつもりなのか、重要なところを省略してくれます。


 仕事がひとつ終わったら社長に電話をします。

 そこで初めて次の仕事の予定が決まります。

 自分の予定は何ひとつ立てられません。これもストレスが溜まるところです。


 仕事がひとつ終わったので、社長に電話をすると、「よろず。明日、朝一」とだけ言われました。


 よろず(仮名)という倉庫があるのです。そこで明日の朝一に積み込みをするんだと思うじゃないですか。

 行き先を言われませんでしたが、よろずには前に一度だけ行ったことがあり、その時はそこから近場への横持ち仕事でした。

 私も確認しなければいけなかったのですが、今回も前と同じそれだと思い込み、次の朝一番でよろず倉庫に入りました。


「え? なんやろ……。聞いてへんで?」と、よろず倉庫の方に言われました。


 急いで社長に確認すると、オーバーリアクションを伴うような言い方で言われました。


「はあー!? ワシ、言ったのに! いつものS倉庫で積み込んで、よろずで下ろすんだって、何べんも言ったのに! あれだけ言ったのに!」


 ……いいえ、聞いてません。


 私が聞いた言葉は間違いなく「よろず。明日、朝一」だけでした。


 どうやら他の人がいつもS倉庫で積み込んでよろずで下ろす仕事をしているらしく、だから私も『言わなくてもわかってる』と思ってらっしゃったようです。いいえ、わたし、この仕事初めてだったんですが……。

 まぁ、近場の仕事でしたので、なんとか大事にはならずに済みました。




 次にストレスになることとして、予定がある時にはほぼ必ずギリギリ前になってそれを知らせてくれます。

 明日は祝日だからゆっくり休もうとか思いながら、前日の夕方に仕事完了し、電話をすると──


「明日、仕事に出られますか?」


 これを断ったら次の給料をがっつり減らされると先輩から聞いているので断ることができません。

 休みが突然なくなるぐらいならもう慣れましたが、一番困るのはいきなり長距離へ行ってくれと言われることです。

 何の準備もせずに丸二日の航海に出るわけにはいきません。夕食の準備もしてるのに。ペットのお世話もあるのに。

 前もってそれを言ってくれてたらそのまま行けるところを、仕方なく一度家に帰り、準備をして行くことになるので、貴重な時間を2時間ぐらいロスすることになります。

 部長が気の毒がって「次の予定を知りたい時はワシに聞け」と言ってくれますが、毎回聞くのもなんだか悪いですし、何より私も疲れます。




 そして何よりストレスになることは、『ワシ、あれだけ言ったのに!』が多すぎます。


「愛知県の半田行き」とだけ言われてもわかりません。確認すると、「S倉庫! いつもそうでしょ? S倉庫で積んで愛知県の半田行き!」と、ようやく詳しいことを教えてくれます。


 そんなふうにある日、いつものように「富山行き」とだけ言われ、S倉庫へ行ってみたら、「何のことやら」と言われました。

 社長に電話で確認すると、「はあー!? N倉庫で積むんだって、何べんも言ったでしょ!? N倉庫よ? S倉庫じゃないよ? N倉庫ってあれほど言ったのに! ワシ、あれだけ言ったのにな!」

 疲れます……。


 毎日隙間なく仕事をしていると曜日の感覚がなくなります。

 土日はわかるのですが、明日が祝日の時に気づかないことがよくあります。


「大阪の泉南行き」と電話で言われ、「S倉庫ですね?」と確認すると「そうそう」と社長。

 無事にS倉庫で積み込み、何も言われない時は翌日下ろしですので、何も疑わずに翌日の深夜1時から、下ろし先へ走りました。

 気づいていませんでした。その日は祝日だったのです。つまり荷物は翌々日下ろしだったのです。


 祝日でも開いているところでよかったのですが、着日を間違えると、ところによっては厳しく叱られ、最悪『この運送会社にはもうウチの仕事はさせるな』と元請けに言われることもあるそうです。


「これ、明日着予定の荷物やで〜」と言いながらも、優しく荷受けしてくださったので幸いでした。何度も謝っておきました。


 祝日なので社長は会社にいないかもしれないな……と思いながら会社に帰ると、出てきていて、トラックを止めた私に向かって深刻な顔つきでズンズン歩いてきました。


「ワシ、あれだけ言ったのに!」


 伝票の着日を確認しなかった私が悪いんです。

 そもそも祝日に気づかなかった私が悪いんです。

 だからもう、それやめてください。

 間違いなく聞いてないことを『言った!』って言い張るの、やめてください。



 そして社長はみんなに言いふらします。

「アイツはワシの言った言葉をなんも覚えとらん。ワシが何べん言ってもポケーッとして聞いとらん」


 それを聞いた部長が私に言ってくれました。

「気にするな。社長はあんな人なんだ」


 他のドライバーさんはそれを知っていて、要領よく部長に聞いて足りない情報を補足しているようです。

 つまりはコミュ障の私と社長の相性が悪いんでしょうね。また、部長に遠慮なく電話ができる私だったら、こんなことはないんだと思います。


 部長はさらに言いました。

「自分がしっかりするしかない」


 その通りでした。私が自分できちんと確認しておけば、すべては間違えることなどなかったのです。




 でも……


 

 とりあえず『あれだけ言ったのに』が言えて、それが通じるのは、権力がある人と子供の特権ですよね。


 

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― 新着の感想 ―
この人、自分の脳内でリフレインした言葉を「言ったつもり」になっちゃうんだな・・・。 現実が認識できないとすると・・・ 子供みたいな権力者って多いですよ。 なぜかそういう人が権力の座につきやすいっていう…
[良い点] あーいるいる、こういう昭和の悪習をいつまでも引きずってる老害。 自分が若い時に苦労したからって、“同じ苦労”をさせたがるのですよね。 仕事の予定を電話で連絡? わざわざ口頭で指示せんでも…
[一言] 真面目に転職を奨めます。
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