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真相

 あとはこの死体が見つからないことを祈るしかない。


「さて、帰ろうか…………」


 手袋を外し、レインコートを脱いだ。


 そして、ノコギリや包丁を片付ける。


「…………あれ?」


 ノコギリを持ったところで俺の体は動かなくなった。

 初めは疲労のせいだと思ったが、金縛りにあったように全く動かない。


 さすがにおかしいと思っていると、



「お疲れ様です、誠君」



 声がした。

 俺は誰かに見られたと思ったが、辺りに人の気配はない。


「私ですよ、詩織です」


 その声は誰の者でもなく、俺自身が発しているものだった。


 もっと正確に言えば、今の俺の体、詩織の口が勝手に動いているのだ。


「ど、どうして? お前は俺の体に入って、死んだはずじゃないのか!?」


「それは誠君の勘違いですよ?」


「勘違い?」


 一つの体、一つの声で会話が成立する。


「私は誠君の体になんていません。誠君が今埋めた誠君だったモノ、その〝中には誰もいませんよ〟。私はずっとこの体、私自身の体にいましたよ。誠君が非力な私の体で、誠君の体だったモノを必死にここまで運んだこととか、私の部屋のクーラーボックスの中身を見て嘔吐したこととか、私の体でオ○ニーをしたこととか、全部見ていましたよ。どうでしたか? 女の子の体、楽しめましたか?」


 詩織はクスクスと笑う。

 俺自身が笑っているような感じがして、頭がおかしくなりそうだ。


「楽しめるわけないだろ! 一体どうなっているんだ!?」


「誠君に突き刺した包丁、あれは誠君を殺す為のものじゃないんですよ」


「は? どういうことだ?」


「あの包丁には私の村に伝わる『呪い』がかけられていたんです。私の好きな人の人格が、私の中に入って来る呪い」


「そんな馬鹿なことがあるか!」


「現に誠君は私の体の中に入っているじゃないですか?」


「…………」


 それを言われると何も言えなくなる。

 これほどわかりやすい『論より証拠』もあまりないだろう。


「それにしても誠君は酷いですよね? 私と付き合っていたのに、望美さんとも付き合い始めるなんて…………」


 確かに詩織の言う通りだ。

 俺は詩織と付き合っていた。


 でも…………


「お前は重いんだよ! 朝には「おはよう」って連絡してくるし、それをスルーすると怒るし、夜は絶対に電話をしてくるし、俺がサークルの飲み会とかに行くって言っても証拠を見せてって言って、写真を送るように言ってくるしさ! 俺はもっと軽い付き合いがしたかったんだ!」


「そういう愚痴を望美さんに言っていたのですか?」


「………………」


「私がこれだけ気を付けていたのに浮気をされるなんて驚きました。でも、まさか、私と誠君が付き合うように色々としてくれた望美さんが裏切るなんて想像できませんでした。私は望美さんのことを親友だと思っていたのに残念です」


「親友? じゃあ、なんで親友だと思っていたのに殺したんだよ!?」


 詩織の部屋のクーラーボックスの中にはバラバラになった望美の死体が入っていた。


 それだけじゃない。

 昨日、神社に呼び出されて初めに見せられたのは望美の生首だった。

 今、望美の生首の入ったリュックはクーラーボックスに入れている。


「それは望美さんが私の頼みを聞いてくれなかったからですよ。本当に残念でした。殺したくなかったのに…………」


「殺したくなかっただって? じゃあ、お前の部屋にあったものは何だよ!」


 ノコギリに、クーラーボックス、猫砂、それに薬剤もあった。

 殺してから買ってきたのは思えない。


「念の為だったんですよ。私の頼みを拒否したら、仕方ないなぁ、って思っていたんです。あっ、そういえば、誠君がノコギリを見つけたところと同じ場所にボルトクリッパーもあったんですよ」


「ボルトクリッパー?」


「大きなハサミみたいな奴ですよ。鉄なんかを切断できるので人間の骨なら簡単に断ち切れます。それを持ってくれば、もっと楽に誠君は自分の死体をバラバラに出来たのにね」


 そんなものまで用意しておいて殺すつもりは無かったなんて、信じられるわけがない。


「詩織、お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶だ!」


「それは誠君が私を裏切ったからじゃないですか?」


「………………」


「望美さんから聞きましたよ。誠君の方から望美さんに告白したって聞きましたよ」


「…………だから何だ?」


「開き直るんですね」


「ああそうだよ。俺の方から告白した! 詩織は束縛が強いからお前みたいに気軽な付き合いが出来る奴と付き合いたい、ってさ! お前が悪いんだ! 大学生になってちょっとそれっぽいことをしたかったのにお前みたいな奴と付き合ったのは失敗だった! 俺は遊びのつもりだったのにお前は本気にしてさ!」


「私のこと、好きじゃなかったんですか?」


「別にヤれれば、誰だって良かったさ! 大学になって童貞なんて恥ずかったし、それにお前みたいに内気で断らなそうな奴なら、俺でも行けると思ったんだ!」


「………………」


「分かったら、消えてくれ! お前のせいで俺はこの後、望美の死体もどうにかしないといけないんだ!」


「望美さんが死んだことは悲しくないのですか? 望美さんはあなたの為に私へ仲間を使ってまで嫌がらせをしてきたんですよ。あなたがあることないことを言ったせいで私を完全に悪者だと思って……おかげで私、大学に行けなくなりました」


「俺の知ったことじゃない。ちょっと話を盛っただけだ」


「話を盛っただけですか? それにしたって私が誠君からお金を借りて返さないとか、盛るってレベルじゃないですよね? だって、二十万円以上、貸しているのは私ですよ? それにデートだって、私がいつもお金を出していますよね」


「俺はお前を楽しませるように努力している! だから、それぐらい奢ってくれるのが当然だろ! それにお前みたいな陰気な奴に彼氏が出来たんだ、二十万だってその為の経費だと思ったら、安いモンだろ!」


「………………」


「分かったら、さっさとこの体から出ていけ。これからは俺が桂詩織として生きていく! お前は死ねよ!」


「……言われなくても私は死ぬつもりです。人を二人も殺して、生きている資格はないと思っていますから…………」


「良く分かっているじゃないか、だったら早く…………」


「でも、生きている資格が無いのは誠君もですよね? 誠君も一緒に死にましょう?」


「は?」


「死んで一緒になりましょう」


 俺は体の制御が全く出来なくなった。

 身体が勝手に動き、握っていたノコギリが俺の首筋に当てられる。


「おい、嘘だろ!? 自分の身体だぞ!」


「さよなら」


 それが詩織の最後の言葉だった。

 あいつは躊躇いなく、ノコギリを引く。


 ノコギリが俺の首を切り裂き、派手に血が噴き出す。

 意識は一瞬で遠のき、そして、目の前が真っ暗になった……………………




『次のニュースです。○○県○○市の○○神社付近の山で男女の遺体が発見されました。男性の遺体は損傷が激しく、身元の特定には時間をかかる見込みです。現場の状況から女性が男性を殺害した後、自殺したと見られています。警察は死亡した桂詩織を被疑者死亡のまま書類送検する見込みとなっております。また、桂詩織容疑者のアパートから切断された女性の遺体が発見されており、遺留品から同じ大学へ通う西園寺望美さんである可能性が高いと見られています。関係者によりますと両者は男女関係の縺れから大学内でトラブルになっているところを度々目撃されており、今回の事件の要因になったと考えられております。男性の身元はまだ特定されていませんが、桂詩織容疑者の恋人で現在行方不明になっている…………』

〝誠君、これからはずっと一緒ですね〟

ストーリーの結末を考えてから、主人公の名前を誠にしようと思いました。


『ヒロイン、カード化』(ドリコムメディア大賞最終選考中作品)、『呪いのせいで二人は握った手を放せない!』(本日完結予定作品)など、普段はハッピーエンドの異世界小説を投稿しています。


もし、気になりましたら、そちらの作品も本作同様、よろしくお願い致します。

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