行動
鍵を開けて中へ入ると、部屋は少しだけ散らかっている。
俺はやっと緊張の糸が切れて、疲労に襲われた。
体力は限界で、寝てしまいたい、という欲求があったがその前にしなければいけないことがある。
部屋の中に入ると見慣れないクーラーボックスがあった。
俺がその中身を想像しながら、開けると予想は的中する。
俺はそのクーラーボックスの中にバックをそのままぶち込んだ。
服が濡れて、気持ち悪い。
俺はシャワーを浴びる為、服を脱いで浴室へ移動する。
疲労からすれば、風呂に浸かった方が良いのかもしれないが、そんな気分にはなれなかった。
シャワーを浴びた俺は着なれない女性用パンツを穿き、部屋に干してあったスウェットを着てベットに倒れた。
昔見た男女入れ替わりの映画はこういう時、色々とドキドキする展開があったが、自分の身に起きたこと、そして、明日……いや、もう今日か……今日、やることを考えるとそんな気分にはならなかった。
俺自身の死体をどうにかするにはまた、夜を待った方が良いだろう。
今は体力を回復する為に寝ないと…………
そう思ってベッドに入ったのに全く眠くならなかった。
俺の死体のことが気になったことや部屋のクーラーボックス。
それにこの女性用の下着というのが、不快感を増大させていた。
こんなに締め付けるような下着なんて着たことが無い。
解決できる問題は解決したいと思って、スウェットのズボンを降ろしてパンツを脱いだ。
上半身だけ服を着ているのも気持ち悪かったので上着も脱ぐ。
俺は裸で寝ることにした。
しかし、それでもやっぱり寝れない。
疲れているのに寝れないのは苦痛だ。
服を脱いで開放的になったくらいじゃ、気が紛れなかった。
結局、窓の外が明るくなっても寝ることは出来ない。
「こうなったら…………!」
俺は右手を股間に持っていく。
股間に何もないというのは変な感覚だった。
俺は他のことに没頭する為、股間に当てた右手を動かし始める。
初めは刺激が強かったが、加減を覚えるとどうすれば気持ちいいか分かって来た。
けど、男の体と女の体では感じ方が違うという話は本当だったらしい。
高まっているのは分かるが、男の体と違い過ぎる。
怖いとも思ったが、手が止まらなかった。
「…………!」
俺の体、いや、詩織の体が痙攣する。
「これが女のイクってやつなのか…………?」
男のように股間へ快楽が集中するのとは違う。
体全体に快楽が広がるようだった…………
それでもまだ眠くならなかった。
それどころか未知の快楽で完全に目が覚めてしまった。
「仕方ないよな……」
俺は再び手を動かし始めた。
自分では制御が出来なかった。
何回やったかは分からない。
俺は猿のように発情し、快楽に溺れる。
そして、いつの間にか気絶するように眠りについていた。
「…………!?」
次に目が覚めた時、外は真っ暗だった。
「時間は!?」
俺が時計を確認すると午後7時を過ぎたところだ。
何時に寝たかは覚えていないが、かなり寝てしまったらしい。
だが、そのおかげで良い時間だ。
「出かけたいが、その前に何か食べたい……」
丸一日何も食べていない。
昨日からの運動の数々で空腹は限界だった。
キッチンの戸棚を確認するとカップ麺が残っている。
手早く湯を沸かして、カップ麺に注いだ。
空腹のせいだろう。
食べたカップ麺はとても美味しく感じた。
空腹を満たして、動きたくなくなってしまうが、そうも言っていられない。
俺は部屋の中を探し、使えそうなものを片っ端から旅行用のキャリーバックに入れていく。
「………………」
俺はその過程でノコギリを発見した。
これが何に使われたかを想像し、クーラーボックスの方を見てしまう。
そして、吐き気を催し、トイレに駆け込んだ。
「おえぇぇぇぇぇ…………」
俺は食べたばかりのカップ麺を全て吐き出してしまった。
だけど、また何かを食べる気にはなれない。
俺は使えそうなものを旅行鞄に入れて、アパートを出た。
時刻はすでに午後9時近い。
夜でもやっている総合ディスカウントストアに寄って、スコップやライトを購入する。
買う際にはマスク、帽子、サングラスとかなり怪しい格好だったが、顔を見られるよりはマシだ。
こんな格好に加え、女性が夜にスコップやライトを買いに来たので店員は少し不思議そうに見ていた気がする。
それは俺が過敏になっているだけかもしれないが…………
とにかく、必要な物は買えた。
俺は昨日、俺が殺された神社へ行く。
石段の下をライトで照らしてみると血痕は消えていた。
どうやら雨が流してくれたようだ。
石段を上がりながら、確認するがここにも血痕はない。
証拠は全て雨で流された。
あとは俺の死体をどうにかすれば、一段落する。
俺は自分の死体を隠した裏山へ急いだ。
しかし、ここで思わぬ障害が発生する。
キャリーバッグのタイヤに土が詰まり、動かなくなった。
仕方なく、キャリーバッグを途中で放置し、スコップとライトだけ持って俺の死体の場所へ向かった。