婚約破棄を言い渡された悪役令嬢は酔った勢いで年下騎士と一夜を共にしたい~恋人騎士にもっと魅力的な女性だって言って貰えるよう努力します!~
「マスター彼女に、カクテルを」
「ロイからお酒を私に頼んでくれるのって初めてじゃない?」
「そういえば、そうですね」
「何かいいことでもあったの?」
私と彼しかいない静かなバーで、年下の護衛騎士であり恋人である、ロブロイ・グランドスラムことロイは私の隣に座り、マスターにカクテルを頼むと私の方をじっと見つめてきた。バーの独特な雰囲気と、淡いオレンジ色の光を反射し、彼のワインレッドの瞳はいつもより輝いて見える。
そしてその綺麗で熱を帯びた瞳で見つめられれば、私は彼に見惚れてしまうのだ。目が離せなくなる、まるで魔法にかけられたかのように。
そうして、ロイを見つめているとバーのマスターが、こちらエンジェル・キッスです。と生クリームらしきものが乗った茶色のカクテルを私の前に差し出した。
一口飲んでみると、飲みやすくてチョコレートの甘さが口いっぱいに広がる。生クリームがまろやかさを引き立て、口いっぱいにカカオが広がるようだった。でもアルコール度数は高そうだ。
「美味しい」
「それは良かったです。シェリー様に合うと思って」
「ありがと……ロイも何か飲む?」
彼は私が差し出したグラスを見て、首を横に振った。
遠慮しているのだろうか。と思ったが、そうではないらしい。
前までは、一緒に並んで席に座るなんてこと無かったのに、今彼は隣に座っている。それは、彼が護衛としてではなく恋人として私の隣にいると言うことだと、私は思った。
私は、ここは格好良く決めなければとマスターに、自分の名前と同じシェリーカクテルを頼んだ。
暫くして、シェリーカクテルが何故か私の前に差し出される。
「飲まないの?も、もしかして迷惑とか、嫌だったりした?」
ロイは目を丸くしたままカクテルと、私を交互に見てそれから大きなため息をついた。
「の、飲まないなら私が飲むね!」
と、何か余計なことでもしただろうかと、私がロイの顔をのぞき込もうとすると、彼は私の頬に手を添えそのまま唇を重ねた。
突然の出来事に私は頭が真っ白になる。
ちゅっとリップ音を鳴らしながら、何度か角度を変えてキスをされやっと解放されたかと思うと、ロイは欲情した目で私を見た。
そして、また唇を重ねようとするものだから、私は慌てて手でガードする。
「え、えと、えっと、ロイ……!?」
「誘ってるんですか?」
いやいや、そんなつもりは無いんだけど……。と言いたかったのだが、マスターがコソッと私に耳打ちした。
シェリーを女性が頼み、飲むとはどういう意味なのかと。
それを聞いた瞬間、顔が赤くなるのを感じた。そんな私の様子を見ていたロイは、嬉しそうな表情をする。
どうしよう、完全に誤解されてる気がする。い、いや確かに別に、嫌ではないけど!
シェリーカクテルには、"今夜はあなたにすべてを捧げます"という意味があるらしく、女性がそれを飲むと言うことは男性側にとってそのOKという意味らしい。
だから、マスターが勘違いしたのか……!名前がシェリーだったからつい頼んじゃったけど!
「分かってますよ、シェリー様はそういうの疎いですもんね」
「ば、馬鹿にしてるの。ちょっと知らなかっただけじゃない」
「俺以外の人と飲んでいるときに、飲まれたらたまったもんじゃないです」
ロイは私の髪を撫でると、そろそろ戻りましょうかと言って席を立った。私は待ってと言うように、彼を呼び止める。
一瞬また彼が悲しそうな顔をしたから。
「これ、飲んでから!」
「え、えっと……シェリー様それって」
「……これ飲んだら家まで帰ること出来ないと思うから、そのホテル……に」
恥ずかしくて俯いていると、ロイは分かりました。と優しく微笑んだ。私は、シェリーカクテルを飲み干すと会計を済ませて店を後にする。
外に出れば夜風が冷たくて、思わず身震いしそうになるが、そっとロイが私の肩を抱いてきていたローブを私にかけてくれた。
「ありがと」
いえ。とロイは短く返事をして、私の手を握る。ロイの手は私よりも大きくて熱くて、安心できるものだった。
「ねえ、ロイは……私のこと飽きたりしない?」
「急にどうしたんですか?」
「……だって、何度も抱かれてるから……もう飽きたとか、そういうの心配になっちゃって。ほら、ロイって格好いいし、私より可愛い女の子一杯いると思うからさ」
と、つい本音がぽろりと出てしまう。これもそれもお酒のせいだと言い聞かせ、私は今のこと忘れてとロイにはにかむ。
でも、彼は私の言葉を聞くなり真顔になって黙り込んでしまったのだ。
もしかして怒ったのかな?と不安になりながらも、彼の言葉を待っていると、突然ぎゅっと抱き締められた。
ロイの顔が見えない。でも、抱きしめられている腕の力が強くて、少し痛かった。
「俺が、不安にさせてるんですか?」
暫くして、彼はゆっくりと口を開いた。
いつもの優しい声音ではなく、どこか寂しげで辛そうだった。違う、そう言いたいのに言葉が出なくて、私はただ首を横に振ることしか出来なかった。
「ううん、違うの。ただね、私って魅力ないんじゃって時々思って。さっきだって、何も知らずに……女としてどうなのかなとか」
そこまでいうと、彼は私の顎を掴み上に向かせると、強引に唇を重ねて舌を入れてきた。
いきなりのことで驚いたが、拒まなかったのは、彼が私のことを好きだという気持ちが伝わってくるような気がしたからだ。
息が出来なくなるくらい深いキスをし終えると、ロイは真剣な眼差しを向けながら言った。
「こんなにも魅力的で美しい女性なんて、シェリー様以外いません。俺は、シェリー様は魅力的だと思います。だから、そんな……」
「あはは、ごめんね。ロイ冗談、冗談。何か……でも、しらけちゃったね。ほんとごめん」
ロイの言葉を遮るようにして、私は笑みを浮かべながら彼に謝るとその場を離れようとした。
だが、それは叶わなかった。ロイが私の腕を掴んだから。彼は、何とも言えない表情をしながら私を見つめている。
そんなロイに私は困ってしまって、如何したの?と聞くが、彼はいえ。と首を振るだけ。
「あ、そうだロイ。今魔女狩りとか悪魔狩り……とかが巷で騒がれているから、気をつけてね」
「……ッ」
私が言うと、ロイは目を大きく見開いて驚いていた。瞳孔は激しく揺れ、彼は私の肩から手を離した。
「ロイ?」
「いえ、何でもないです。さあ、帰りましょう」
と、ロイは何事もなかったかのように私を抱き上げて歩き始めた。
(今一瞬、ロイ……悲しいような、怖がっているような……顔をした?)
***
「ここが、ロイの家の領地」
「何だか、新婚旅行みたいですね」
私達は数日後、ロイの実家近くに来ていた。というのも、とある調査のためにだが。
ロイは新婚旅行だと言ったが、まだ私達は式を挙げていないし、新婚旅行に行くならもっと念入りに計画して二人が行きたいところにいきたいと思う。
ロイは没落貴族家出身と聞いたがどういった理由で没落貴族の印を押されたのか不思議なぐらい、領土は広く領民も沢山いた。ただ、少し人々の顔色が悪いような気がしたけれど。
そして、この領地は王都からも近いことから交通の要所としても栄えており、人口もまずまずにいる。
だから、やはり没落しているとは思えない。ロイの両親に会った感じだと悪徳領主とか悪徳な方法で勢を巻き上げているとかそういうわけでもない。何か商売に失敗したとかでもなさそうだし。
そう、私が考えているとふと、ロイは浮かない顔をしながら遠くを眺めているのを私は見てしまった。
「ロイ?」
「何ですか、シェリー様」
ロイは私に声を掛けられると、笑顔で振り向いて私に返事をする。
その笑顔は何処か無理をしているように見えてしまい、私は心配になった。だが、それを聞こうとした瞬間、彼は私の肩を抱くとそのまま屋敷へと連れていこうとする。
すると、誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「戻ってきたんなら言いなさいよ、ロブロイ」
と、ロイの瞳と同じワインレッドの髪をポニーテールに結んだ女性が駆け寄ってきた。
近くに来ると、その女性の美しさ、神々しさに私は目を細めた。スタイル抜群で、胸も大きい、脚も長けりゃ、顔立ちも鼻がスッとしており、少しきつめのルビーの瞳もまた彼女の美しさを引き立てている。
彼女はロイの傍まで来ると立ち止まり、彼に抱きついた。そんな彼女にロイは何も言わず、無言のまま。
「ん~そっちの彼女は?」
そう、女性が私の方へ近づいてきて顎に手を当ててまじまじと見てくると、私は思わず一歩後ずさってしまった。
「初々しくて可愛いね。もしかしてロブロイの恋人だったりする?」
「え、あ……」
「そうです。なので離れてください。カーディナル」
どう答えようか迷っていたら、突然ロイが口を挟んできた。しかも、私の肩を抱いたまま離さないのだ。まるで、絶対に渡さないと言っているかのように。
それを見た女性は、何故か嬉しそうな表情をして、ロイと私を交互に見た。
一体この女性は誰なのかとロイに尋ねるとロイは、衝撃の一言を放ったのだ。
「彼女は、カーディナル・フォーリンエンジェル。俺の許嫁だった人です」
「へ……」
「ま、彼女がいるんじゃアタシの出る幕はないけどね」
と、彼女は私を見てウィンクしてきた。そんな彼女に対し、ロイは眉間にしわを寄せながらカーディナルを見る。
おーこわい。とカーディナルはわざとっぽく言うとゲラゲラと笑い出した。それは、容姿と似合わない豪快な笑い方で少し言い方は悪いが下品に見えた。
「あ、でもでも心配しないで。シェリーちゃん。私、ロブロイの親と約束してるから。ロブロイに好きな人が出来たら、その人と結婚させてあげなよってね」
「……あの、私」
何だか、話が勝手に進んでいっているような気がする。
(あれ、私自己紹介したっけ……?)
私は慌てて口を挟もうとしたが、カーディナルが私の肩を掴んで止めた。そして、真剣な眼差しで私を見つめてきた。
その様子に圧倒されて何も言えないでいたら、カーディナルはふっと微笑んだ。その姿はやはり美しく、女神のように思えた。いやその魔性の笑みはどちらかというと……
「カーディナル。俺はシェリー様に伝えなければならないことがあるので席を外して貰って良いですか?」
「うん?ロブロイが言うなら、まあ家にお邪魔させて貰ってくつろがせて貰うけどいい?」
そう言ってカーディナルは屋敷の中へと入っていった。そして、私はロイに連れられロイ達の屋敷の私室な部屋に通された。
***
「そのロイに許嫁がいること知らなくて……私」
「はあ、勘違いしないでください」
部屋につくと私はロイのベッドの上に座り俯いた。
そうして、カーディナルのことを思い出す。あんな綺麗な人が許嫁だなんて、勝てっこないじゃんと私は思いため息を吐いた。
すると、ロイは私の隣に座ると頭を撫でてくれた。その手は優しく、心地よいものだった。
その優しさに私は素直に甘えることが出来なかった。
「俺、シェリー様にいっていなかったことがあるんです」
「許嫁のこと?」
「……それも、ありますけど、もっと重要なことです」
と、ロイは少し間を空けてから私の手を握りしめて来た。その手が震えていることに気づき、私は驚いて彼の顔を見ると彼は泣きそうになりながらも必死に耐えていた。
そんなに話すのが辛いなら言わなければ良いのに……と口から出そうになったが何とか呑み込んで、私はロイを見た。今、きっと酷い顔しているんだろうなと自分でも分かった。
美人な許嫁に嫉妬していた。自分の容姿と比べて、ロイに当たろうとしている自分がいる。
「シェリー様、俺は出来れば話したくなかったんです。でも、この間貴方に当たってしまったとき自分の気持ちと、生い立ちについて話さなければと思いました」
ロイはそう言い終えると、一度目を伏せた。
この間というのは、私が殿下に婚約を迫られロイのことをほったらかしにし、彼が怒って私を酷く抱いたときのことを言っているのだろう。
あれはただ拗ねているだけだと思ったのだが。
「拒絶されるのが、怖い」
「だ、誰だってそうじゃない?私だって、私だって……」
「俺は悪魔と人間のクォーターなんですよ」
「え?」
私は思わずロイの顔を見つめてしまった。彼は、そんな私を見て悲しげな表情をした。
そして、ロイは自分のことを語り始めた。
自分は悪魔の血が流れていること。50年前に起きた大戦にて、帝国が負けることを恐れたいくつかの貴族は悪魔と契約、そして結婚し子を成した。そうして、悪魔軍を作り敵国に勝利し、一時は帝国の英雄とも呼ばれたそうだ。
しかし大きな戦いがなくなってからは、悪魔と結婚した穢れた一族と戦争で活躍できなかった貴族らに罵られ、あらぬ噂や事件をでっち上げられ没落していったという。その中に、ロイの家も混ざっていたそうだ。
そして、今では帝国の端に領地を飛ばされひっそりと暮らしているのだという。
何故、こんな話を私にするのかと疑問だった。だが、その理由はすぐに理解できた。
私は、ロイの手を握る力を強めた。
彼もそれを分かってか、私の手をしっかりと握ってくれたのだ。
「俺は、そのことで騎士団に入ってからも嫌われ嫌がらせや虐めも勿論ですが、陰口もたくさん言われてきました。それはまるで、俺の存在そのものを否定されているかのように」
「ロイ……」
私は、彼に何と言えばいいか分からず黙り込むしかなかった。そんな私に気遣ったロイは無理矢理笑顔を作ってくれた。それが逆に痛々しく見えてしまって胸が苦しくなった。
「だからこの間、シェリー様が俺の事を放って殿下の事ばかりになっていたとき、俺の事なんてどうでも良いんだって……拒絶されているような、そんな気持ちになって。だから、貴方に当たってしまった。俺から離れるぐらいならいっそ、俺で塗りつぶして逃げれなくしたら良いんだって」
そう語るロイの目にはまた狂気が渦巻いているようだった。
拒絶されてきた、避けられ嫌われてきた。だから、この間彼はあれ程までに焦っていたのかと、私に縋るように拒まないでというように、子供みたいに当たってきたのかと。
それも全て、彼の生い立ちや過去が関わってきたいるたのかと私は知ると、この間の事がさらに申し訳なくなってきた。
「でも、シェリー様は俺の事拒んでいなかった。俺は、シェリー様のこと信じ切れていなかったんです……」
ロイはそう言うと、私を抱き寄せた。その腕は力強く、私は身動きが取れなくなった。
そのままロイは私の耳元で囁いた。その声は、甘くて熱っぽくて。
「でも、もう信じるって決めたんです。二度と貴方を傷つけないために」
そう、堅く自分にも言い聞かせるようにロイはいった。そして、私達は見つめ合うと唇を重ねた。
それはとても優しくて、甘いものだった。
私達はそのままベッドに倒れ込み、何度も愛を確かめ合った。
その日は朝までずっとお互いを求め合い、私はロイに溺れていった。
それでも、あの許嫁の事が気になって集中できなかった。
***
「昨日はお盛んだったね~部屋の前まで行ったんだけど、もう耳が溶けるぐらいに……」
「カーディナル、そういうことを本人達を目の前にして言わないものでは?」
「じゃあ、誰に言えばいいのよ」
朝食を取っている最中いきなり入ってきたカーディナルは、ロイの肩に腕を乗せながらニヤニヤとした顔でこちらを見つめてくる。
その視線は生暖かく、こそばゆいものだった。
私は、カーディナルのその言葉に恥ずかしくなり俯いた。ロイはいつもの無表情だったけど、少し怒っているようにも見えた。
けれどその会話が熟年夫婦みたいに見えて、私は胸がズキンといたんだ。
それに気がついたのか、カーディナルは私の方に近寄ってきた。
「ねえ、シェリーちゃん。この後あいてる?」
「え、はい。あいて、ますけど」
「じゃあ、決定ね。食べ終わったら来て」
と、カーディナルはそれだけ言って去っていってしまった。
私達は、彼女の行動に呆気に取られてしまい何も言えなかった。
そして、彼女は私達に爆弾を落としていっていたのだとこの時気づいた。
***
私は、カーディナルと宝石店に来ていた。前もロイときたことがあるが、今回は違う店である。そのため品揃えもかなり違い見ていて楽しかった……のだが。
「これ、ロブロイに似合いそうじゃない?」
「はい、そうですね」
カーディナルはレッドベリルのカフスボタンを手にとって私に見せてきた。しかし、私は何故か素直になれず適当に返事をするだけだった。
勿論それは、ライバルというか許嫁である彼女と二人きりで宝石店に来ているからであって、ロイだったらこうはならなかっただろう。
しかし、彼にプレゼントでもわたすきなのだろうか?それをわざわざ恋人である私に見せつけて?
そう、黒い感情が渦巻いていたとき、カーディナルは勘違いしないで。とロイが言ったような言葉を口にした。
「な、何をですか?」
「確かに私は許嫁だったけど……あれは契約だったの。あのこと結婚させてくれる代わりに、私が彼らの命を守るって言うね」
「す、すみません……話が見えなくて」
「うーん、じゃあ魔女って知ってる?」
私は首を横に振った。すると、カーディナルはその説明を始めた。
この世界の魔女とは、守護神にもあたる存在でそこら辺の魔道士よりも魔力が遥かにあり彼女がいる領地は生涯魔物の脅威から守られるという。
その話と、何が関係あるのだろうかと考えていると、私は絡まっていた糸がピンと張詰めるような感覚におそわれた。
「もしかして――――!」
「そう、私は魔女なの。没落して他の人達から命を狙われていた彼らを救う代わりに、生れてくる子供を私にくれって。でも、その子が他の子を選ぶならそれでいいって。アタシ優しいでしょ?」
と、カーディナルは笑った。
確かに、カーディナルは美人で魔性の笑みを持つ魅力的な女性であったが、考え方や雰囲気が容姿、年と合っていない気がしたのだ。そのもやもやが一気に晴れ、そういうことかと私は納得する。ということは、カーディナルは相当な年と言うことになる。魔女は自分の年齢を操作できるらしいから。
「ロブロイにもやっと好きな人が出来たか~って喜んでたのよ。アタシは確かに彼を頂戴って言ったけど、実年齢はかなり離れているし、彼のこと孫かひ孫ぐらいに思ってたからね。だから、良かったよ。アタシと結婚することにならなくて」
そう、笑顔で言うカーディナルの言葉に私は、ほっとすると同時に寂しさを覚えた。
やはり、彼女には敵わない。と改めて思ったからだ。
「だから、シェリーちゃんはめーいっぱいロブロイに愛されるんだよ?あ、でもでもただ受け入れるだけじゃダメ。昨日も思ったんだけど、シェリーちゃんってかなり消極的じゃん?それじゃあ、ロブロイもいつ飽きるか……」
「あ、飽きる!?」
「男も女も興味なくなったら、そりゃー捨てるでしょ。飽きさせないよう努力するのも恋人の仕事ってもんだよ」
と、カーディナルに言われ私は絶句してしまった。
まさかそんなことを言われるなんて思わなかったから。痛いところを突かれてしまった。
確かに、私はいつもロイにリードして貰ってばかりで誘ってくるのもロイで、私はいつも流されてばかりで。私に魅力がないんじゃなくて、私が魅力的になろうとしないからいけないんじゃないか?
いつから、彼はずっと私の事を好きでいてくれていると思っていたのだろう。そりゃ、興味がなくなったら誰だってポイって……
「じゃ、じゃあ、どうすれすれば!?」
「うーん、そうだなぁ。とりあえず、積極的に攻めてみるのはどうかしら?」
「積極的……ですか」
「うん。シェリーちゃんから誘ってみるとか」
「さ、誘う……わ、私からですか!?」
私は顔を真っ赤にして狼う。
無理だ。恥ずかしくてできない。
そもそも、どうやって誘えば良いか分からない。言ってしまえば、ロイが初めての相手だし、恋人だってロイが初めてで。
私が俯いていると、カーディナルはクスリと笑って私の肩に手を置いた。
耳元でこう囁いた。
「大丈夫。アタシが教えてあげる」
カーディナルは、妖艶に微笑んだ。
***
「大丈夫……私なら出来る。私なら出来る」
ロイの部屋の前でそう何度も復唱し、覚悟を決めて彼の部屋をノックする。
すると、すぐに扉が開かれ中へと促された。
そして、私は勇気を振り絞ってロイに抱きついた。
自分からこんな風にするのは初めてだったので、心臓がバクバク言っている。しかし、ここで怯んではいけない。
ロイは驚いたように目を丸くし、如何したのかと私に聞いてくる。私は、恥ずかしさと緊張で頭がパンクしそうになりながらも、何とか言葉を紡いだ。
「私は今から貴方を誘惑します!」
「シェリー様?」
ロイも私も一瞬にして固まった。
(違う、馬鹿、何言ってるの私――――ッ!)
「こ、これはちがくて、その……きゃっ」
ロイが急に私を抱き上げベッドまで運ぶ。突然のことで混乱していると、ロイは優しく私を押し倒した。
え?と困惑する暇もなくロイが覆いかぶさってきて、私はキスをされていた。
「ごめん、待って、ロイ、ストップ、ストップ!」
「何故?俺を誘惑してくれるんじゃないんですか?それとも、今の言葉は嘘?」
と、ロイは意地悪な笑みを浮かべながら私を見下ろしてくる。
その瞳には熱情が宿っていて、ゾクりと体が震えた。
「そう、そうだけど……」
「にしても、シェリー様は一体何処でそんな言葉を覚えたんですか?」
「……か、カーディナルさん、から」
と、言うとロイは深いため息を吐いて額を抑えた。
その反応に不安を覚えてロイの服を引っ張ると、ロイは困ったような笑みを浮かべた。
それから、ロイは私の頬を撫でてきた。
「何故?」
「何故って……それは、えっと。ロイに飽きられたくないから……魅力的な女性だって、思われたくて」
私がそう不安いっぱいに言うとロイは私の額にキスを落とした。それは優しく、安心して欲しいという意味も含まれている気がして私はドキリとする。
「今のままでも十分魅力的なのに……これ以上魅力的になられたらまた他の男が、貴方を狙うかも知れない」
「だ、ダメ?」
「ダメとはいっていません。勿論、そうなったとしても誰にもわたすきはないですけど」
そう言いロイは私の首筋に顔を埋め、強く吸い付いてきた。チクリとした痛みが走り、痕がついたのだと分かった。
それにしても、やっぱりロイは独占欲が強いと思う。
こんなにも、愛されているなんて。私は幸せ者だ。
でも、与えられてばかりじゃいつか、この酔いが覚めてしまうかも知れない。
私は、ロイの首に腕を回し引き寄せた。彼の額が私の額にあたり、唇が当たるか当たらないかの所でとめる。
「しぇ、りー様?」
「……ロイ、抱いて。好きにしていいよ」
今言える私の精一杯の言葉。誘い文句。
私は、ゆっくりと目を閉じる。すると、ロイはゴクリと喉を鳴らして私の口を塞いできた。
舌が絡み合い、呼吸をするのを忘れそうになる。それでも、お互い離れようとしなかった。
そして、長い口付けが終わるとロイは私を抱きしめて言った。
「今夜は寝かせません」
その声は低く掠れていて、私の心臓はドクンドクンと高鳴っていく。
もう、止められなかった。激しい夜を過ごしたのは言うまでもない。
***
「あははっ!滅茶苦茶ロブロイスッキリした顔してるーウケる~。昨日はお楽しみだったようで、何より」
「ありがとうございました。カーディナル。おかげで楽しい夜を過ごせました」
早朝、調査も終わり家に帰ることになった私達は、何かとお世話になったカーディナルにお礼を言うために彼女の元を訪れていた。
彼女は昨晩あの部屋の近くに屋敷にいなかったはずなのに、全て知っているように見えて魔女には透視能力があるのかと私は、腰をさすりながら彼女を見ていた。
すると、カーディナルと目が合う。
「うん、うん。シェリーちゃんも何倍も魅力的になってる。これは、シェリーちゃんを私が貰うしかないかな」
と、冗談交じりにそう言われ私は赤面する。
しかし、ロイがすかさずぴしゃりとダメです。とカーディナルに言った。カーディナルは、一瞬だけ目を丸くしたがすぐに腹を抱えて笑出す。
「あーあ~、ロブロイ。嫉妬深い男は嫌われるよ」
「……」
その言葉に何故だか私も、ロイと同じくビクッと肩が跳ねる。
確かに、最近ロイは少し束縛気味になっている気もするが、私にはロイしかいないのだから束縛すらも愛だと感じられる。
そんな思考になってしまっている私はもう完全にロイの虜なのだ。
「まっ、いいや。またいつでもおいで~アタシはいつでも大歓迎だよ」
「あ、ありがとうございます」
「……カーディナルであっても、シェリー様は渡さないので」
と、ロイは私の肩を抱き寄せてそう宣言する。その言葉にカーディナルはニヤリと笑みを浮かべた。
でもその笑みは何だか、息子が独り立ちを決意し、それを受け入れた母親のようにも見えた。少し寂しいというそんな気持ちが伝わってきた。
そうして、カーディナルに別れを告げて、私たちは馬車に乗り込む。
小さくなっていくカーディナルに手を振りながら私は、また来ます。と彼女に伝えロイと向き合った。
「調査も無事すんで良かったね。まさか、ロイの許嫁が魔女だったなんて」
「はい。何も言わずにすみませんでした」
「ううん、いいの。目標も出来たし」
「目標?」
ロイはこてんと首を傾げた。
今回の調査というのは、魔女狩り、悪魔狩りが巷で噂され貴重な戦力である魔女、カーディナルが暗殺されるのではないか、また既に衰え死んでしまったのではないかと、生死の確認のためにここまで来ていたのだ。それがまさか、ロイの許嫁だったなんて。今でもこんな偶然ってあるんだ……と感心している。
そして、私はカーディナルのことを頭に浮べながら彼女のような魅力的な女性になろうと決心した。
「今回もまた、シェリー様の魅力を改めて実感しました」
「そ、そう?」
「はい、シェリー様はとても魅力的ですよ。誰よりも魅力的で、美しい」
ロイは私の頬に触れ、愛おしそうな瞳を向ける。
それは、私のことを愛しているという感情が込められていた。それに、私は照れて視線を逸らすとロイはクスっと笑い私の耳元に唇を寄せてくる。
私は思わず、ピクリと反応してしまう。
「俺がもっとシェリー様の魅力を引き出して上げますからね。だから、また昨夜のように俺を誘惑してください」
「……ッ!き、気が向いたらね!」
「はい。俺はいつでも待ってますから」
私は、恥ずかしくてロイの顔を見れずにいた。きっと今頃ロイは嬉しそうに微笑んでいるに違いない。
でも、本当に私にはロイしか居ないのだと自覚させられた。
これからもずっとロイと一緒にいれれば良いなと思いながら、そろそろ結婚式のことを本気で考えようと思うのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(略)泥酔悪役令嬢の第四弾でした!
もしよろしければ、ブックマークと☆5評価、感想……レビューなど貰えると励みになります。
他にも、連載作品、完結作品、短編小説もいくつか出しているので是非。
恒例のこそこそ話は今回ないですが、声を大にしていいたい……ロイシェリはいいぞ!
この間の件もあって、ロイ君が少し丸くなったのかなあ……何て思ったりしていますが、実際の所は如何なんでしょうか。
さて、第五弾も一応考えてはいます。いつお披露目できるか分かりませんが、投稿するのは金曜日とは決めています。
次回はロイ君にピンチが……!?
それでは、次回作でお会いしましょう。