冒険者ギルド!?
「なるほど」
宿屋の広間で負傷者の手当てをしながら、俺はようやく、この村が置かれている事情を理解した。
「この村には、城塞としての機能が全くない。しかも大きい国から離れてる。だから、盗賊に襲われやすいんだ」
「そういうことだな」
サルートルはラウラに入れてもらった紅茶をすすりながら、ふう、と小さくため息をついた。
どこまで行っても、人間の敵は人間ってことか。
「これまでは盗賊といっても、人間から獣に成り下がったような奴ばかりで、大した強さじゃなかった。……だから正直、今日のやつは危なかった」
「俺様の『伝説の剣』のおかげだな! みんな、俺様に感謝するよーにっ!」
アベルが胸を張る。
……まあ、本当の所を言ったって、信じてもらえやしないだろう。
俺は、「すごいすごい」と適当に相槌を打つ。
サルートルは軽く咳ばらいをして、アベルの自慢を斬り捨てた。
「さっきも言った通り、俺たちはC級の冒険者集団だ。自惚れではなく、そこらの腕っこきより遥かに強い。しかし、今日のアイツ……あれは魔法使いだ」
「魔法使い……って、珍しいのか?」
「めったにいないな。冒険者のランクでいうなら、魔法使いの時点で全員C級以上の実力がある。アイツは、剣術も筋が良かった……B級でもおかしくない」
広間が、沈黙に包まれる。
俺は無知をいいことに、聞いた。
「あのさ、冒険者の階級って、なんの意味があるんだ?」
「……そうだな。イツキが知らなくても無理はない。簡単に説明すると、冒険者の等級はE級からSSS級まである」
「SSS級……じゃあ、C級は?」
「下から数えた方が早い」
サルートルは真顔で言う。
「だが、弱い訳ではない。『SSS級』や『S級』というのは、貴族が権威付けのためにつけている称号なのだ」
その顔は、皮肉な笑いを浮かべていた。
「S級以上には貴族しかいない。もちろん、実務なんて危険な事には手を出さない」
「なんだそりゃ」
「不満を言うものもあるが、『冒険者』という権威を維持するには、仕方のない事なのだ。彼らがS級を名乗るからこそ、冒険者という職の価値が落ちない」
「じゃあ、A級は?」
それを聞いて、アベルが横から顔を突っ込んできた。
「A級はなぁ、元々冒険者でバリバリやってたオッサン達が、働けなくなったころにやっとなるンだぜ」
「つまり……記念、みたいな?」
「いい得て妙だが、A級は『英雄』だ。戦闘で死ぬことは許されず、衰えるしかない。だから、高レベルの実務を行っているのは大半がB級やC級だ」
冒険者ギルド……ファンタジーではよく見る設定だけど、現実だと複雑な背景があるんだな。
「だがな、B級の大半は貴族の子飼いだ。そん中じゃ、俺やサル助みたいなのを雇うのが最高の選択って事になる」
「ふーん……冒険者って、どのくらいで雇えるんだ?」
もし俺が旅に出るとなったとき、護衛として付いてきて貰えれば心強い……。
この宿には常に10人を超える冒険者がいる。一人当たりの金額だけでも知っておきたい。
「おっ、いいところに気付いたな。お前が想像するより高ぇぞ。だが……俺たちは冒険者だ。普段はまともなものを食えず、その金を稼ぐために冒険者をしてる」
「そうだ。お前も知るとおり、住む所と飯はとても重要なのだ」
「えっと……もしかしてみんな、俺と同じ立場?」
「「正解だ」」
サルートルとアベル、それに周りの冒険者たちの声もハモる。こりゃあ仲がよろしいこって。
「俺たちは衣食住の世話を受ける代わりに、タダで警護を請け負っている」
「で、暇な時は住人の手伝いもする。これが酒代だな」
効率がいいっちゃいい暮らしだ。
「でも、そんなC級に匹敵する奴らが、なんで盗賊まがいの事なんかしに来たんだろ?」
その問いには、誰も何も答えなかった。
「……みんな、なに黙ってるの」
部屋の奥から、ラウラが声を上げる。
「C級だかB級だか知らないけど、とにかく今は追い返せた。それで良かったでしょう!」
誰も、何も言わない。
「……はぁ……まったく。今日は昼からパーッと肉祭り! さっさとシャワーを浴びて、30分後にここに集合!」
「は、はいっ!!」
ラウラの突然強くなった口調に、冒険者たちは慌てふためいて一斉に部屋へと戻っていく。
嵐が去った後の広間には、俺とラウラだけが残された。
「……イツキ、聞いていい?」
「なんだ?」
「この前、壁を強化してたって言ってたよね」
「うん。……それが何か?」
ラウラがゆっくりとこちらに近付いてくる。同時に、声が小さくなっていく。
「あれ、本当?」
「……もちろん、本当だ」
「じゃあ、今日壁の修理が終わったっていうのは?」
「それも本当」
「外の壁、ちゃんと『無欠の鉄壁』<グレイテスト・ウォール>になってる?」
あ、伝わってたのか……ちょっと恥ずかしい。
そんな事を言おうかと思ったが、ラウラの声はあくまで真剣だった。
……俺も、真面目に返そう。
「いいや。先に直せって話だったから、途中からはただの壁になってる。今までと同じ、ただの石垣だな」
「最強に、できる?」
彼女がぎこちなく笑い、声を震わせる。
「嘘でもいいからさ」
「……それは無理だ」
世界の外から来た俺には、まだ実感できていなかったものがあった。
それは死の恐怖もそうだし、みんなの期待や不安もそうだ。
……そういったものすべてが、まだ仮想現実の上にあるような感覚だったのだ。
だが、目の前で微かな望みを託す少女を見て、俺の中に、ふつふつと湧き上がる感情があった。
「どうして――」
「それは!」
彼女のすがるような言葉をさえぎって、大声を上げる。
「このイツキ様が仕上げた壁は、最強をも超える! 『無欠の鉄壁』を過去のものとし、時空をも捻じ曲げる『理を逆巻く断崖』<イベント・ホライゾン>! 安心しろ! この壁が、バンディットなどに臥すわけがないッ!!」
「……イツキ……」
この俺の言葉に、ラウラが震える。
「さっき……魔法が直撃してたもんね……いっぱいお肉食べて、明日からもまた頑張ろう……!」
彼女は目に浮いた涙を拭いながら、厨房へと走っていった。あれ……? なんか、誤解されてる?
「えっ、ちょ、ちがっ……俺は元気だ! 健康そのものだ!!」
多分、というか確実に、あらぬ誤解を与えたな……。
俺はがくっと肩を落とした。
とは言え、いつまでも落ち込んでいる暇はない。
今はまだ、昼を少し過ぎたくらいだ。壁を強化する時間は十分にある。
さすがに今すぐ戻ってくるとは考えにくいが、早くやってしまうに越したことはないだろう。
ラウラが怯え、俺に頭を下げた理由。
それは、「もう一度あの男たちが戻ってきたら、今度こそみんな無事では済まないかもしれない」そういう恐怖だ。
俺もそう思う。数日以内にまた来られたら、今度は凌げない。そうなれば冒険者たちは殺され、ラウラは浚われてしまうかもしれない。
ポジトロンスーツの充電残量は、ゼロ。
充電するにはMODの上級設備が必要不可欠で、今すぐには回復出来そうにない。
相手は屈強な男。格上なうえに、人数も多い。
対して俺は、ただのゲーマーだ。俺自身には何の力もない。
だが。
建築ガチ勢には、建築ガチ勢なりの意地がある。
◇◇◇
俺は再び『グレイテスト・ウォール』改め、『イベント・ホライゾン』計画を前に進めるために、村の外壁の前に立っていた。
現在の壁の高さは、ギリギリ人の首から下が見えない程度。
とりあえず積んでおいた石垣……と言った風情が、素朴で平和な村をイメージさせる。
この辺も全部、俺の設計ではあるんだけどさ。まさか盗賊に狙われる「弱そうな村」になるなんて、思ってなかったよ。
『グレイテスト・ウォール』では、この外壁の高さはそのままに、ただ新品にして強化するという計画だった。
ここからが、『イベント・ホライゾン』計画。とりあえず背を高くして隙間もなくし、外界と断絶させたうえでカッチカチ。これだ。
ギミックの組み込みなどは、後から付け足しても間に合う。
すでに作ってある分はひとまず置いておいて、「先に直せ」と言われたところから、改修再開だ。
「なあ、兄ちゃん!」
気合を入れた所で、急に声をかけられて振り返る。そこには、この前の少年がいた。
確か名前は……。
「モルディア、だっけ……」
「母ちゃんには嘘だって言われたけど、実はオレ、見たんだ」
少年は俺の質問に答えず、足元に近付いて俺を見上げた。
「あのさ! あのさ! こわい顔のおじさんが来たとき! 兄ちゃんの着た服、光を跳ね返しただろ!」
「あ、いや……」
キラキラ光る眼の視線が飛んでくる。俺は苦笑いをした。
おそらく、アイツが放った魔法をポジトロンスーツが吹き飛ばした瞬間を見たのだろう。それか、『伝説の剣』を、地面に叩き込んだ瞬間か……。
「きゅうにグレイテストなんとかって言うからヤバい人だと思ってたけど、よく考えたら……にいちゃん、魔法使いなんだろ!?」
「そ、そう思う?」
「そうだよ! すげーよ! ねえ兄ちゃん! 俺、大人になったら兄ちゃんみたいになれっかな!」
「……ふん……」
ヤバい。こんなに持ち上げられたら、中二の血が騒ぎまくる。
「我のようになるなど……やめておいたほうがいいぞ……」
「なんでなんで!」
「過去の業を背負い……それでも自らの意志では止められぬ飽くなき欲望に突き動かされ――」
そうだ。止められない欲望に突き動かされて。
……俺は。
「に、兄ちゃん?」
「ふん。とにかく、やめておけ……平穏な暮らしが一番だ。孤高は孤独……誰にも理解されぬ一人旅よ……」
「……なんか……カッコよく見えてきた!」
うむ。無垢な子どもを洗脳してしまったようだ。
「ほら、とりあえずお母さんのところに戻って、『イツキはちゃんとした人だった』って言ってきて」
「は~いっ! ……我をこの世に生み落とした存在に伝えてくるっ!」
モルディアが駆け出していく。小さくなる背中を見つめて、俺の心の中に、彼の将来に対する深い不安が広がっていった。
◇◇◇
夜になり、宿屋1階の広間では、デカい肉を囲んで飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが繰り広げられている。
俺はというと、ラウラからもらった村の地図を見て、巨大な図面を引いていた。
今までの建築は「いかに自然と調和するか」を大事にしてきた。だが、今回ばかりはそれを優先させていられない。
まずは、村の外とつながる東・南・西の道以外を、すべて囲む。
村は完全に外壁で守られている訳ではない。北側は、畑に害獣が侵入してこないように簡単な柵が設けられているだけだ。
あの辺りは俺の知らないエリアだから、おそらくはヒョウドウがやったのだろう。
さらに、今ある外壁には、ところどころに抜け穴的な境目が設けてあった。建築の時に決まった道ばかりを通るのが面倒というのもあって、建築を後回しにして近道代わりにしていた場所だ。
もともとアップグレードでここを埋めるつもりはあったから、ついでだな。
次に、石垣の高さ。
今は大体、1メートルから2メートル程度。不揃いだが味のある、悪い言い方をすれば防御壁としての機能が薄い壁だ。
これを、せめて3メートル近くまで積み上げたい。
本気で登ろうとしても、そう簡単ではない程度に高くする。さらに、最上段はネズミ返しのような機構も設けよう。
上には見張りを置けるようにして、まさに、城塞都市の壁のようなイメージだ。
最後に、門。
外壁がいくら立派になっても、出入り口が手薄ではどうにもならない。
今、下で大騒ぎしている冒険者に交代で警備して貰えば、24時間体制の監視が可能になるだろう。
「んで……」
正直、見た目も考なくていいとなれば、自動建築機を半日も置いておけば完成はする。
もちろん俺の美意識的にはアウトだが、まずは攻撃を防ぐのが重要だ。
しかしそこで問題になるのは、あの男が使っていた魔法だ。
あの手の範囲魔法は、ほとんどのオブジェクトを通過してダメージを与える。ブロックにも貫通ダメージを与えるため、他人の建築物の近くで使うと……メチャクチャ嫌われる。
モンスターとの戦闘で使う場合は連発を前提にするらしいが……奴もその手を使ってくる可能性がある。
こんな事なら、魔法MODも触っておけばよかった。Wikiを読んでも実際に触ってマスターしないと、うろ覚えだ。
仕方ない、消去法で考えよう。……まず、上位の魔法MOD使いにありがちな「時空間をどうにかする」みたいなやつではなかった。転位系の訳がないし、デカい隕石を召喚するような物理的なものでも、水でも火でもなかった。そもそも、普通の魔法はあんなに激しく光ったりしない。
あるとすれば、雷か光。明るすぎてよく見えなかったが、電気のようなものが光の周りに渦巻いていた気もする。
……あ、そうだ、思い出した! ヒョウドウが昔、バグで大量発生したボス級MOBにふざけて飛ばした、あの技だ。あの時は20対2でダンジョンボスと戦う羽目になって、かなりヤバかった。あの魔法は雷撃魔法≪サンダー・クラスト≫。わざわざ叫んで連射していたから覚えている。
あの男が、次も同じ魔法を使ってくるかは分からない。だが、少なくとも雷撃の魔法を扱えることは間違いない。
雷撃魔法には……そう、サファイアが有効だ。
サファイアはに魔法抵抗があり、爆発に対する耐性もある。もし建材に使う事が出来れば、壁の強度は大幅にアップするだろう。
だが、サファイアの鉱脈に出会うまでにはかなり採掘しなくてはいけない。それこそ、地形が大きく変形するくらいに。
一括採取ツールを使ったとしても、サファイアが出てこなければ意味はないし、出てきたとしても……ダメだ。数が足りない。
それ以外に使えるものは……。
「泥……」
泥は、様々なダメージを吸収して無効化する特性があった。
だけど、具現化してリアルになった泥は、ほぼ液体だろう。壁の素材に練り込もうとしても、強度が下がるだけだ……。
コンコン、と部屋をノックする音があった。
「お~い! イツキぃ!」
「うわ、酔っ払い」
「邪魔するぞ」
「え、サルートルも!?」
入り口を見ると、そこにはいつもケンカしてばかりのアベルとサルートルが、肩を組んでケタケタ笑っていた。
「肉にヤバい薬でも盛られたか?」
「いいからいいから! お前来ねえから寂しくてよぉ!」
「迎えに来たぞ。ほら、行こう!」
アベルが、ぐんと俺の腕をつかんで立ち上がらせる。
「あ、ちょ、ちょっとぉ?」
引きずられるようにそのまま部屋の外へと連れ出され、階段を転がされ、広間の椅子に叩き込まれた。
「乱暴すぎる……」
「ほれ! 肉食え肉! ウダウダ考え込んでてもしょうがねえぞ!」
「ありがたいけど、今はそれどころじゃ……」
サルートルが、並べられたコップに、ぶどう酒を並々と注いでいく。
俺の目は器に満ちていく液体に釘付けになっていた。
……そうだ。その手があったな。考えてみれば当然だ。
「ほら、今日くらいはいいだろう! あの賊もすぐには戻ってくるまい。考えるのは明日! 今日は楽しもう!」
「よし、サルートル! その手で行こう!」
「へっ!? 何だ?」
「おーい、ラウラ! この村の境界近くに、地下室のある家ってあるか?」
「ない……と思うけど……必要なの?」
「いや、無いほうがいい! ありがとな!」
俺はいても立ってもいられず、立ち上がって宿を飛び出す。
「なんだぁ、アイツ……」
後ろに呆れる声が聞こえて、俺は再び宿屋に顔を突っ込んだ。
「ラウラ、オジーチャンって背中乗っても怒んない?」
「え? ……うーん、オジーチャンに聞いてみないと……」
「分かった! 俺聞いとくわ! 乗れるならオジーチャン借りてくから!」
◇◇◇
日没が近かったが、俺はもうじっとしていられなかった。
無理やり跨ろうとする俺に、最初オジーチャンはイヤそうな表情を浮かべていたが、最終的には何とか背中に乗せてくれた。
手綱を持つと、オジーチャンは目的地へ動き出す。
俺とラウラ、オジーチャンが最初に出会った湖のほとり。
この近くで泥のありそうな場所は、あのくらいしかない。
さすが……俺が走るよりはるかに速い。大して時間もかからず、俺は湖にいた。
インベントリを開いて、一括採取ツールを装備する。そして、湖の底から泥を掬った。
ザバァァ……ン!
巨大な波が立ち、大量の泥が、一気に俺のインベントリに移動し始める。水かさは既に30センチほど下がっており、移動していく量の膨大さを物語っていた。
おまけに、砂や石も手に入っている。うん、これも後で使うから問題ない。とりあえず、今は大量の泥を集められれば。
「オジーチャン……俺のナイスアイディアを聞いてくれよ」
鹿ながら、俺の言ったことが分かるのか、ブルル、と唇を鳴らしている。
「なんだよ、聞いてくれよ」
頭を撫でてやると、ふいっと首を横に振り、その辺の草を食べ始めた。
「……つれないヤツ」
俺がオジーチャンとのほほんとしている間に、しっかり大量の泥が集まった。
あとは、これを持って帰って『コップに』注いでやればいいだけだ。
それから数刻、日がちょうど沈みかけた頃に、俺は宿へと戻った。
「遅えぞイツキ! お前の分の酒なくなっちまうからな!」
「構わない……それより、明日が楽しみだ――何しろ俺は酒を飲む前から、すでに酔わされているのかもしれない――自らの建築にな。それでは、ご機嫌よう諸君」
俺のセリフに、冒険者たちは誰も声を出せない。
一気に、視線がラウラに集まる。
ラウラがゆるやかに首を横に振ったのが、横目に見えた。
大丈夫。
明日には俺の言葉の意味が伝わるはずだ。
◇◇◇
「イツキ兄ちゃん!」
「モルディア……また来たのか」
俺が村の南で自動建築機を用意していると、モルディアがそばに寄ってきて、またキラキラと目を輝かせている。
「今日は何すんの! またあの服着る?」
「いや、今日はこの村をパワーアップする……昨日言った、<イベント・ホライゾン>作戦だ」
「カッケーっ!!」
……ノリノリなのに、なんだか、かえって調子が狂うな。
「今からこの機械を動かすから、近付くなよ。危ないぞ」
「うんっ!」
モルディアを少し遠ざけると、自動建築機をブループリントモードで起動する。
ブループリントモードでは、俺の設計図通り、村をぐるりと取り囲む形で3メートルの石垣を建築するように設定している。一時的に往来用通路もすべてふさぐが、これはすぐに壊せば問題ない。
その間に、ここに門扉を作る。実際に稼働するパーツは、自動建築機では設置できないためだ。
「はァ~……!」
モルディアが、ずっとキラキラした目でこっちを見ている。
「……作るの手伝う?」
「いいのっ!? やるやる! 俺も『最強を超える壁』作る!」
プレイヤー以外の人間に、クラフト能力はない。ここに来てから、俺は確信していた。
物を作る事が出来ないとか、建築する事が出来ないとか、そうわけじゃない。
手品のように虚空からアイテムを出し、何も無いところに家を建てる……そういう事が出来ない、というだけだ。
普通の人間に出来ることは、彼らにも出来る。建築も出来るし、道具だって作れる。
俺はロークラの要領で、門の外形を作った。空いた空間に鉄素材を埋めると、すぐにそれが具現化し、リアルな鉄の門が現れる。
鉄は貴重だが、今は仕方ない。
「え!? す、すげぇっ!?」
モルディアが目を丸くしている。そうだろうな。俺だって現実世界でこんなものを見たら、メチャクチャ驚く。
「何これ! 魔法?」
「違うよ。ほら、そこの上のとこ」
俺は門扉のてっぺんに、小さな木のピースを埋め込んでいた。
「あそこに絵を描いてくれ」
「絵? 意味あるの?」
「ああ。モルディアがこの門を最強以上にする、そのおまじないだ」
「わぁぁ!」
子供騙しだが……『子どもは騙せる』。……肩車してやると、モルディアは嬉しそうに何かを木に彫りこんだようだ。
「完成したか? ありがとな、モルディア」
「うん! こちらこそ、ありがとうイツキ兄ちゃん!」
彼はそのまま手を振って家へと帰っていった。いいことをしたような、そうでもないような。
自分で何か作るって、やっぱ楽しいんだよな。
走っていくモルディアの後姿を見て、俺はそんなことを思っていた。
振り返り門扉のてっぺんへ視線を向ける。
そこには小さな木のピースに、村を守った鎧の姿がデフォルメされ丁寧に描いてあった。
「……この門を最強以上に、か。本当にしないとな」